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残したのは”舌禍”のみ~バイデン大統領、APECサミットでの外交成果”不発~岸田首相にも”とばっちり”


【画像① 記者会見で失言繰り返すバイデン大統領を厳しく見つめるブリンケン国務長官(左)】



◆米議長国で開催のサンフランシスコAPECサミット、閉幕~ウクライナ、パレスチナ情勢で何も触れられず「外交成果ほぼ無し」


来年の大統領選挙に向け、バイデン大統領にとっては1つの”晴れ舞台”であったはずのサンフランシスコAPECサミットが閉幕した。日本、中国、ロシアなどを含め太平洋沿岸21カ国の首脳を集めて開催されるもので、これら諸国の国内総生産(GDP)の合計は世界の約6割を占めている。それだけ、国際的な経済交流及び外交に対して大きな影響を持ち得る場所だ。


しかしながら、バイデン政権が狙った目標について、「全会一致」方式の首脳宣言に盛り込むことが出来ず、国際情勢問題については別途、「議長声明」として米国が単独で出すということになってしまった。


【画像② サンフランシスコ市内のバスストップに貼りだされた「サンフランシスコ市はAPEC2023を歓迎する」と記載されたポスター】


「米サンフランシスコで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が17日(日本時間18日)、閉幕した。採択した首脳宣言では、持続可能な貿易・投資に向けて取り組むことで一致した。だがロシアのウクライナ侵攻や中東情勢などについては意見がまとまらず、米国が別途、『議長声明』を出す異例の事態となった」


「今年の首脳宣言に向けた議論では、昨年と同様にウクライナ問題への意見の食い違いが目立った。また、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突に対するメッセージをまとめようとした米国に対し、中国などが『APECはそもそも地政学的問題を議論する場ではない』と反発。結局そうした国際情勢については、首脳宣言では触れずに、議長国の米国が単独で出す議長声明に盛り込むことで決着した」


(参考)「APEC首脳宣言、ウクライナや中東に触れず 米が別途『議長声明』」2023/11/18 19:34 朝日新聞

https://www.asahi.com/sp/articles/ASRCL42R2RCLULFA004.html




【画像③ 1年ぶりの米中首脳会談では、バイデン氏と習近平氏が過去の画像をiPhoneで見せて話し合うなど、なごやかだったというのだが…】



◆1年ぶり米中首脳会談もバイデン氏による習近平氏「独裁者」呼ばわりで台無しに


自国開催の国際会議で、目立ったイニシアチブを発揮できないということは、総じて米国の国際的地位の相対的低下を印象づけるものと、世界では受け止められているという。あわせて、この会議を機会に各国首脳とも個別国同士の外交を繰り広げたわけだが、その中で注目されていたのは、1年ぶりに行われた習近平国家主席とバイデン大統領による米中首脳会談だった。



「バイデン大統領と中国の習近平国家主席が15日、米カリフォルニア州サンフランシスコ郊外で会談し、軍事対話を再開することで合意した。米中間の高まる緊張を和らげるのが狙い。両首脳の対面での会談は昨年11月のインドネシア・バリ島以来1年ぶり」


「バイデン大統領は会談後、『我々は直接的でオープンかつ明確なコミュニケーションを取る関係に戻っている』と述べた。…また、互いに直接コミュニケーションが取れる連絡線を確立することで、習氏と合意したと明らかにした。…バイデン氏は、コミュニケーション不足は『事故が起こる原因』になるとし、両首脳は『電話を手に取れば、直ちに直接、話を聞くことができる』ようになったと付け加えた」


(参考)「米中首脳、軍事対話の再開で合意 1年ぶり対面会談」2023/11/16 BBC NEWS JAPAN

https://www.bbc.com/japanese/67435322.amp




【画像④ 1985年、サンフランシスコを訪れた際の習近平氏。彼にとって、同地は思い出の地だ。】


これは、首脳会談直後のバイデン氏による記者会見による報道だ。記事によると、会談成果は上記の両首脳”ホットライン”開設に関する合意のほか、米国内で蔓延して社会問題化している合成麻薬フェンニタルの流入に関する措置(材料化学物質や錠剤への製造機器の米国等への輸出量削減)などが上げられている。しかし、4時間にわたったという「歴史的な邸宅『フィロリ邸』」で行われた会談では、ウクライナやパレスチナに関する問題や台湾危機についても取り上げたというが、なんらの合意も得られず会見で明かされる内容が無かった。


それでもバイデン氏は、「これまで我々が行ってきた中で最も建設的かつ生産的な話し合いの一つだった」と述べた(BBC報道)。しかし、この記者会見で、こうしたあまりに少ない成果を台無しにするような失言を発してしまったのである。



「バイデン氏は記者会見の壇上から降りる際、習氏が独裁者だという見方はいまも変わらないのかと記者から問われると、次のように答えた。…『我々とはまったく異なる政治形態に基づく(中略)国を率いる人物という意味で彼は独裁者だ』…バイデン氏は6月にも、習氏を独裁者だと述べ、中国当局が『極めてでたらめで、無責任な』発言だと憤った」(前出、BBC記事)


この発言を後ろで聞いていたブリンケン国務長官(外相)は、驚いたように大統領を見つめ、やがて目を落として失望した様を隠しきれないようだった。今回の首脳会談実現に向け、訪中して様々な課題について調整してきた同氏にとっては、絶対に中国側を怒らせるに違いない「独裁者」という言葉を大統領の口から発することは、今回はどうしても避けたかったのだ。


もちろん、中国側は直ちに反応した。中国外交部(外務省)の毛寧報道官が定例記者会見で反論した。


「米高官によると、習氏は今回の会談で、中国共産党に否定的な米国内の見方は不公平だとバイデン氏に伝えた。…中国外務省の毛寧報道官は定例会見で、バイデン氏を名指しすることは避けた上で、発言に『強く反対する』と述べた。…『この発言はひどく間違っており、無責任な政治的操作だ」とし、米中関係を扇動しダメージを与えようとたくらむ人々が常に存在するが、失敗に終わると指摘」


(参考)「米大統領『習氏は独裁者』、首脳会談直後に発言 中国側は反発」2023/11/16 REUTERS(日本語版) ※映像付き

https://jp.reuters.com/world/us/BYCKHCFTQBNE5GFQ4YTLQMOQT4-2023-11-16/




【画像⑤ 歴史的邸宅で行われた米中首脳会談】


首脳会談直後のバイデン氏のこうした発言は、仮に記者の質問から誘導されたものだとしても、その知的能力をも疑わせるものと印象づけた面もあったと、筆者は考える。ちなみに、バイデン氏の「独裁者」発言蒸し返しが「米中関係悪化懸念」を呼び、アジア株が下落したと報道されている(「アジア株は下落 米中関係悪化懸念再燃、バイデン氏の『独裁者』発言で1年ぶり首脳会談が台無し」2023/11/16 みんかぶ https://fx.minkabu.jp/news/282030 )。


しかし、この不始末の影響を明らかに直接被ったのは、APEC首脳会談に「外交成果」を求めて意気込み参加した岸田文雄首相だった。



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