見出し画像

【熟練度と一旅中興で】セリエA22−23 第21節インテル-ミラン レビュー

こんにちは!TORAです🐯

本日はセリエA第21節、ミラノダービーのレビューです!
わざわざ有休を取得したので負けても筆は取る予定でしたが、結果は勝利!良かった!

●スタメン

3−5−2のミラーゲーム対決

●前半-ピオーリ監督の奇策は不発に

キックオフ直前のスターティング発表はミラニスタの方も驚いたのではないでしょうか。

3−5−2の採用

可能性の事前情報があったとはいえ、現実的な見込みは4−3−3の予想がマジョリティだったと思います。

意図は「重心を低くしてロングカウンターの一刺しを狙う」
その結果は十人十色ならぬ十人一色ではないでしょうか。

ピオーリ監督の企図は失敗だった。

具体的にどこが最も致命的だったか。見ていきましょう。

①インテルビルドアップ隊をあまりに好き勝手を許した


ミランは前からプレスを放棄


✔︎ツートップのオリギが一列降りてチャルハノールのマークに
✔︎インテルの最終ラインはジルー1人で見るので、ボールは持ち放題
✔︎クルニッチはチャルハノールが上がってきたらオリギとマークを変更

「崩壊していたボール非保持を立て直し、その安定が最優先!」

「耐えた後に屈強なツートップを目指すロングカウンター!」

がピオーリ監督の青写真だったと推察します。当然、インテルの最終ラインにボールを持たせるのは「”許容”ではなく、”はい、ドウゾ”」

インテルは特に渦中のシュクリニアルがボールを持てていてタイミングの良い攻撃参加もあり(後半に大ポカがあったけど)、インテリスタの溜飲を下げた感がありますが、個人的に”これ自体は”ピオーリ監督の計算内だったと見ています。

・けどチクリと刺すと…
本節のシュクリニアルは両チーム1位となるボールタッチ数でしたが、前回の記事で取り上げたプログレッシブパスは3。対してバストーニは8。
アタッキングサードのボールタッチ数は6。対してバストーニは26。
多ければ良いという訳ではありませんし、低い位置でのポゼッション確立や予防的プレーの貢献度も見落としてはいけませんが今日の試合展開だとやや引っかかるスタッツかもしれません。
この手のスタッツ稼ぎ頭のバストーニと比べるのもアレですが。

FBrefを参照

ただ、前半はあまりに一方的過ぎた。

流石にピオーリ監督も「まさかここまでとは…」って感じだったでしょう。

誤算があったのは最終ラインだけではなくて、チャルハノールも気持ち良くボールを持てたことに起因すると考えます。

チャルハノールの動きに対応できず

チャルハノールは中央から開いたり、降りたりとポジショナルな動きでボールを引き出しましたが、その動きに対してミランはマーカー(オリギ)がどこまで付いていくのか?どこで受け渡すのか?の基準点が定まっておらず

インテルのビルドアップ隊に気持ち良くゲームを作らせ過ぎてしまいました。

ミランの5−3ブロックはかなり中央に絞っていたので、チャルハノールが降りて左右CBを高めに押し上げるムーブは物理的に対応し辛く、インテルにとってインサイドやアウトレーンは効果的な起点に。

インテルがサイドを変えての揺さぶりも効いていて、特にメシアスはスライドが遅く、バストーニらの縦パスを容易に許してしまっていたのが印象的でしたね。

インテルの左右CBにボールを持たせるのはOKだったけど、それを高い位置でも許してしまったこともまた、ピオーリ監督の誤算だったでしょう。

②カウンターの運び手がいない

ピオーリ監督が試合後のインタビューで

「我々のミスはドリブルでボールを動かすことができなかった」

と発言していた通り、ミランはそもそもカウンターに持っていく為のキャリー、つまり運ぶドリブルが足りませんでしたね。

・IHの運ぶドリブルを比較
バレッラ:運ぶドリブル回数57回、ゴール方向へ運んだ距離106.1m
ムヒタリアン(70分まで):同32回、同33.8m

トナーリ:同17回、同32.9m
メシアス(45分まで):同12回、16.5m

FBrefを参照

おそらくIHにトナーリとメシアスを起用したのはここに期待していたことに由来でしょう、特に後者。

しかし、ミランがあまりにも低重心過ぎたこと。そしてインテルのネガティブトランジションからのカウンタープレスが強力だったことが重なり、ハーフコートゲームと呼べる展開となってしまいました。

ツートップに据えたジルーもオリギも屈強ですが、ロングフィード一発で深さを取ってくれる超人タイプではないですしね。

ツートップはオリギではなく、個人で戦術破壊できるレオンを配置するがピオーリ監督の狙いを体現できたと思います。

が、結果的にそれを採用した後半も機能したとは言い難く、後述でそこに対して指摘もするのできっと正解ではないんだけれども。レオンにチャルハノール番を任命するのもおかしいし。

セリエA公式より抜粋

図は前半の両チームの平均ポジション(立ち位置)。
データからもミランの陣地回復が困難だったことが伝わります。

こうして見ると、攻守に渡りメシアスのIH起用は大失敗でした。もちろん責任は選手ではなく監督にありますが。

前半はインテルを誉める以上に、ミラン、いやピオーリ監督へのマイナスベクトルが重くなってしまいますが、前半を正しく伝えるにはこうならざるを得ません。
これはミラニスタだけでなく、インテリスタとしてもちょっと残念。

詰まるところ、前半は「ピオーリ監督の奇策はインテルの熟練度によって裏目に出た」という短いセンテンスでまとめられるのです。

●後半-運び手とポジショナルな動きで火が灯る

戦術の犠牲者となってしまったメシアスでしたが、HTという早い段階に自分のミスを反省し(たかは分からないけど)、ブラヒム・ディアスと交代させた監督の潔さは認めるべきでしょう。

これによりミランは3−5−2から3−4−1−2へと移行します。

前からプレスのリソースを変更

✔︎中盤のマークをくっきり明確に
✔︎ブラヒムがチャル番を務めるので、前線の前からプレスのリソースが増える
✔︎ブラヒムはチャルを追い越して最前線へ同数プレスをかけることも

設計を変更しリソースを増やしたことで、必然、強度も上げてきました。

後半立ち上がりはまだインテルペースが継続していましたが、徐々にミランのエンジンが温まり、兵器レオンが投入されると赤が燃え上がります。

ミランのプレスの圧力が増した分、前半よりもテンポ良く縦にビルドアップせざるを得ないインテル。

代償として前線にかける人数が減ります。となると、ここ最近強化しているカウンタープレスの威力が削ぎ落とされ、ミランのボール保持に余裕が出てきました

そしてこの局面こそ、後半最大の改善

リズムを掴んだミランはビルドアップにようやく再現性が生まれます。

ポイントは3−4−1−2に変更したけど、ビルドアップは3−5−2の微調整だった点。

ブラヒムのボール引き出しを起点に中盤が▽に

✔︎ブラヒムが中央からズレてボールを引き出す
✔︎トナーリとクルニッチが呼応して三角形を再構築

もちろんブラヒムが右に流れるなど、異なるトライアングルを構築するシーンもありますが、基本軸は逆三角形、というよりも「ブラヒムに合わせてクルニッチが上がり、トナーリがアンカーとなる」で間違いないです。

ブラヒムは「瞬間的にズレて→ボールを引き出して→ちょっと運んで→周りに預けて→自身が上がる」の天才児ですね。本当に。

試合によって機能するorしないの落差が激しいですがインテル戦はほぼ毎回輝いているのではないでしょうか。

加えて見逃せないのがクルニッチ

彼の黒子的な位置取りもギフテッドです。どこに位置すれば、どう動けば質の高い多角形を構築できるかが分かっているIQの高さを後半は遺憾無く発揮していました。

しかしながら、結局惜しいシーンは75分、シュクリニアル痛恨のロストからのカウンター失敗。
そう、結局のところ能動的なチャンスメイクで崩し切れず。枠内シュートも0に終わってしまいました。

●後半-復調のルカクで土俵を取り戻す

ミランが勿体なかったのは60〜75分くらいの最も出力が上がったタイミングでレオンを活かせなかったことですね。

どれだけ押し込んでいるかを時間ごとにグラフ化したデータ、sofascoreより引用


解説の細江さんが仰るようにレオンをツートップの一角に持ってきて、何を主業務に設定したかったのかが見えませんでした。

中央やインサイドで前進できるようになった時間帯。レオンは大外起点でスペースを与えつつ、折りを見て内にも絞ってくる”いつものお仕事”をさせるがインテルとしては怖かったですけどね。

ピオーリ監督は86分、ケアーに替えてレビッチを投入することでお馴染みの4−2−3−1へと戻し、レオンも定位置の左SHに収まりましたが時にすでに遅し

80分程度からはルカクのポストプレーが機能し、深さを取れるようになったインテルが土俵を奪還。

昨年、散々指摘されていた「深さ」を、失ったはずのフィジカル理不尽ルカクで取り戻す

正に一旅中興

前半戦のリベンジに成功したインテルがダービー公式戦で勝ち越し、ミラノを青く染めました。

●雑感-再びの”プランB”となるか

プロフェッショナルさを見せたシュクリニアル。

アンカー起用の集大成的なパフォーマンスだったチャハルノール。

対ミラン戦7ゴール、インテル外国籍スコアラー歴代2位の記録を打ち立てたラウタロ。

ダービーの勝利を祝して、仕事がほぼなかった守護神以外を全員褒め称えたいところですが、ここはグッと我慢して一人に絞ります。

すでに前項で軽く触れましたが名前を挙げたいのはCK90こと、ロメル・ルカク

シーズン最序盤以外は負傷やコンディション不良で目を覆いたくなる貢献度のなさ。ドライローンバックまでもはや首の皮一枚というフェーズまで来てしまった感がありましたが、コッパイタリア・アタランタ戦、そして本ダービーで復調の兆しが垣間見えました。

特に本節はたった20分程度の出場でしたが、復調の兆しというか、彼の投入で流れを取り戻したと言っても過言ではありません。

80分手前、バストーニのラフなロブに対してチャウとテオに立て続けに競り勝つことで、死んだボールにザオリクをかけてブロゾヴィッチのミドルをお膳立て。

82分、チャウへのファールを取られましたがPA内で競り勝ちネットを揺らす。

89分手前にはガリアルディーニが頭で繋いだボールをバックヘッドですらしてエースの幻のゴールを演出。
御尊顔の威光によりオフサイドとなってしまいましたが、事実上のアシストでした。

そのパフォーマンスはスタッツにも表れています。

・ルカクのスタッツ
パスをレシーブ数した回数12回
※70分出場のジェコは15回

PA内でのボールタッチ数5回
※ジェコは2、ラウタロでも7回

SCA(味方のシュートシーンの2つ手前のプレーに絡んだ回数)2回
※ジェコもラウタロも2回

FBrefを参照

深いところでボールを確実に収めて、チャンスメイクに絡んでいたことが分かります。短い時間でこのパフォーマンス。かなりのコスパ

約2年前、インテルはミラノダービーでエリクセンのFKによって劇的な勝利を遂げました(セリエAではなくコッパイタリアですが)。

直前のフィオレンティーナ戦で活躍の兆しが見えたところでダービーでの貢献。

それが大いなる自信へと繋がったのか、それまで燻っていたエリクセンはスクデットの原動力となるプランBへと昇華しました。

そして今。
状況は似ています。

彼がシモーネ監督が求めていることに応えることができれば、緩急柔剛の幅が広がり、奥行きが深まります。それはクラブにとって大きな大きな上積み。

スクデットへのプランB。再来となるか。

とはまだ言えません。
シーズン後半始まったばかりとはいえ、流石に勝点離れ過ぎなのでね!

我ながら上手いこと(強引に)紐付けたと思っているので、次のレビューではそう言いたいです。
ナポリさんそろそろペース落としてください!セリエAを一緒に盛り上げましょうよ!!

最後までご覧頂きましてありがとうございました🐯

もしサポートを頂戴した場合はサッカーのインプットに使用し、アウトプットでお返しできるよう尽力いたします。