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【中国語講座】比較の対象

先日学生から質問を受けたので、今日はそれについてお話したいと思います。

彼の所属するクラスは中国語を始めたばかりの入門クラスで、先日比較の言い方を学んだばかりでした。

A 比 B 形容詞。
AはBより~。

こういう構文を習ったのです。皆さんもご存知ですよね?

さて、テキストに3つ例文が出ているのですが、それはこんな例文でした。

1.东京的人口比大阪多。Dōngjīng de rénkŏu bĭ Dàbăn duō.
2.我个子比姐姐高。Wŏ gèzi bĭ jiějie gāo.
3.他家比我家远。Tā jiā bĭ wŏ jiā yuăn.

これ僕は特に気にしていなかったのですが、質問してきた学生にはとても気になることがあったのです。

1番は、主語は“东京的人口”なのに比較の対象は“大阪的人口”ではなく“大阪”になっているのです。省略されているのですね。

2番も同様ですね。主語は“我个子”ですが、比較の対象は“姐姐”です。“个子”ではないのですね。

それなのに3番は、主語は“他家”で、比較の対象も“我家”となっていて、省略されていません。

どういう時に省略されるのですか?何か違うのですか?そんな質問でした。なかなか鋭いですね。

これは日本語にしてみたほうが分かりやすいかもしれませんので、3つを日本語にしてみて省略した場合としていない場合を比べてみましょう。

1.東京の人口は大阪より多い。(東京の人口は大阪の人口より多い。)
2.私の身長は姉より高い。(私の身長は姉の身長より高い。)
3.(彼の家は私より遠い。)彼の家は私の家より遠い。

それぞれ、省略した言い方を前に、省略していないのを後ろに並べました。

そうすると、テキストの文の直訳(カッコでくくっていないもの)の方が自然な日本語のように思えませんか?

1番2番と3番とはどう違うのでしょうか。

2番がヒントになるかなと思いました。2番は厳密に言うと主述述語文になっていますね。“我个子”は「私の身長は」ではなく「私は、身長が」と訳すべきです。つまり“”は文全体の主語(大きな主語)で、“个子”は“个子比姐姐高。”の主語(述語部分の主述フレーズの主語部分)なのです。

つまり、私の話だけど、身長がお姉さんより高いんだよね、という意味ですね。つまり身長を比べることを通して、私と姉とを比較しています。

1番は主述述語文になっていませんが、意味するところは人口を比べることを通して東京と大阪の比較をしているのです。

それに対して3番は、家の遠さを比較することで私と彼を比較しているというよりは、彼の家と私の家とを比べている感じしかしません。私と彼の比較という感じがちょっと薄い気がしますね。そういう場合は省略しにくいのかなと思いました。

皆さんはどう思われますか?

通訳・翻訳家 伊藤 祥雄
大阪外国語大学外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院文学研究科 博士前期課程修了。通訳・翻訳業に加え、明治大学、東洋大学等の中国語講師を務める。NHK国際放送の中国語ネットニュース番組元キャスター。
著書に『すぐに役立つ中国語の基本単語集』(ナツメ社)をはじめ、『中国語検定対策2級問題集』(白水社)などの中検対策書多数。NHKテレビ「中国語!ナビ」のテキストで「中国語お悩み相談室」好評連載中。