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ソロプレナーとして大事な価値観と、自らのポートフォリオの築き方

桑田 前編に続き今回も、コンサルタント兼エンジェル投資家で、グレートジャーニー合同会社 代表の安川 新一郎さんにお話を伺います。
 
安川さんへのインタビュー前編である「正社員雇用の合理性と重要性は低下している。歴史的背景から紐解くこれからの企業組織と人材調達のあり方とは。」は、日本で優秀人材の採用が難しくなってきた背景において、「今後の企業組織や、人材調達はどうあるべきなのか」というのがメインテーマでした。

簡単に前回の内容を振り返ると、
 
これまで企業は、正社員を抱えていたほうが、情報を収集するコスト、報酬や仕事の条件に合った契約コスト、迅速に協業できる調整コストなどが安価に抑えられていた。
 
しかし、テクノロジーや少子高齢化など時代の要請により、大企業が正社員を抱える合理性が次第に見出せなくなってきた結果、正社員中心の企業組織から、テクノクラートといわれる正社員(管理職)と、エキスパート(中途社員やソロプレナー)で構成される企業組織に変わっていくことが今後予想される。
 
こういう組織体制になれば、従来企業内でできていなかったワークプロセスもしっかりと整理されてくるため、エキスパートが活躍しやすく、ソロプレナーといわれる個人起業家の活躍のフィールドが増えていくという流れも生まれてきます。
 
そこで後編では、まさに自らソロプレナーとして現在第一線で活躍している安川 新一郎さんに、これまでのキャリアと、ソロプレナーとして大切にしている価値観や、ポートフォリオの築き方などについてお話を伺いたいと思います。

インタビュイープロフィール

安川 新一郎氏(やすかわ しんいちろう)Shinichiro Yasukawa

東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員、グレートジャーニー合同会社代表

1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンク株式会社に社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニー合同会社を創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、公益財団法人Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与など、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。

外資系コンサル、大手企業の社長室長や執行役員を経験後、あえて無名のベンチャーでゼロリセットする

桑田 安川さんは、コンサルタントやエンジェル投資家として活動する傍ら、政府CIO補佐官や東京都等の自治体のアドバイザー、藤田医科大学の客員教授や東京大学の特任研究員などの複数の仕事を委嘱されています。まさに、ソロプレナーとして八面六臂の活躍をしている安川さんの、これまでのキャリアについてお聞きしたいのですが……独立されたのは、いつ頃ですか?
 
安川さん もう7年前ですね。2016年、独立してすぐにグレートジャーニー合同会社を立ち上げました。
 
桑田 もう、そんなに経ちますか。安川さんのご経歴は非常にユニークで、キャリアのスタートはマッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)ですよね。
 
安川さん そうですね。そこで、通信ITセクターを担当し、インターネット黎明期に各種サービス開発プロジェクトに従事しました。その後、転職したソフトバンクでは、社長室長として、孫正義社長のもとで、JVの立ち上げや、事業投資案件に数多く関わりました。日本テレコムやボーダフォンジャパンの買収に伴い、ソフトバンクテレコムやソフトバンクモバイルなどではデータ事業や法人事業の執行役員本部長を歴任しました。
 
1999年当時はソフトバンクは3000人規模の頃でした。およそ私が在籍している間に売上20倍、利益60倍、借金40倍(笑)と非常に急成長しました。
 
桑田 そこから、また新たなステージに移られて……大手のグローバル企業などを選ばれるのかと思いきや、マンションの一室をオフィスにした、無名のベンチャー企業に入社されますよね。
 
安川さん そうですね。平社員で入社して、当初は正規表現やpythonのプログラミングを覚えて、自分でオーダー入力をやったりしていました。自分としては、これまでのことを「ゼロリセット」したかったというのがありました。
 
桑田 なぜ、そんな思いに。
 
安川さん マンションベンチャーへ行こうと決めたのは、マッキンゼーに入社した時の思いと非常に似ています。マッキンゼーでは、名刺に肩書きを入れることがほとんどありませんでした。そういう原点に、私自身もう一度戻りたいと思ったからです。そのベンチャーは、企業としてのネームバリューがなく、勝負できるのは「自分しかない」という点が1991年当時のマッキンゼーの頃と共通していました。

空気の薄い場所にとどまるよりも、上を目指すほうが楽しいし、面白い

桑田 その他に理由はなかったのでしょうか。
 
安川さん 当時は、リンダ・グラットンの「LIFE SHIFT(ライフシフト)」も流行っていて、これからは生涯50年近く働くとなると、23歳から働き始めたので、73歳まで働く48歳がちょうど折り返し地点になるわけです。それなら、「折り返し地点で1回ギリギリまで、しゃがんだ方が面白くなる」という思いもありましたね。数年後、サントリーの新浪社長が「45歳定年制」を唱えて炎上したりしていて、でも自分は「そうそう」と思ったりしました。
 
桑田 普通は、歳を重ねていくと、それが経験なり、そこにレバレッジを効かせて、しゃがむことなくキャリアを築いていくことが、安全な進め方だと思うのですが、安川さんは、あえて「しゃがむ」ことを選択されました。それは、どこで学んだことなのでしょうか。

安川さん 学んだことはありません。ソフトバンクでは、もう数年在籍すればストックオプションの権利を満額行使できるというタイミングでしたが、「金で自分の人生を縛られるのが嫌だ」という理由で、会社を辞めました。学生時代はバブルで日本企業からホイホイ内定がたくさんもらえると、気持ち悪く感じたりもして全て断りました。たぶん何か分不相応なおいしい話が来ると、そこから逃げたくなる傾向はありますね。笑
 
うまく言えないですけど、上に行けば行くほど、空気が薄くなるじゃないですか。知らないうちに階段を登って、空気の薄いところにいると、そこから降りて、地に足を着けたくなる。そうすると、気持ちが少し「ほっ」するはずです。そうやって気持ちを柔らげると、「もう一度登ってみようか」という意欲も湧いてくる。山頂に何時間もとどまるよりも、登ってもしくは降りて行動している方が楽しいですし、それが面白いから新しい仕事を選んでいるのもあると思います。

桑田 安川さんは、本質的なことに目が向くんだと思います。安泰(安定)を得られることはいいことではあるものの、自分が考える本質とは違う。そうなると、そこから安川さんは本能的に逃げるのだと思います。

安川さん そうだと思います。「ゼロリセット」と言っていますが、幸運にも、割りと新しいキャリアである程度は達成してしまうため、次のリセットボタンを押してしまいたくなるのかもしれません。

ソフトバンクに移った時も、孫さんと出会い、がむしゃらに働くうちに38歳ぐらいで最年少で役員に昇進しました。部下も増えて新幹線のグリーン車で移動するようになって、何故かその安定した仕事があまり面白くなくなり、辞めてしまいました。

さまざまなスキルセットがあることは、これからの時代セーフティネットになる

安川 日本は、気候変動による災害や隣国での戦争、エネルギー問題など、地政学的にもリスクが高く、将来を考えると暗くなることばかりです。しかも、昔のような経済成長が見込めずに、格差もどんどん広がっていく。そんな環境の中でも、自分自身さえ成長し続けているという確証を持つことができれば、「なんとかなるだろう」とは、常に思っています。

自分がどういう付加価値を提供できるのか模索するプロセスを、個人として楽しむこと。いくつになっても「学べる」というのは、大切な姿勢だと思います。ネットや本で新たな知識を習得し、ブログやtwitterで発信しつづけていれば、自分でコミュニティを作ることも可能です。お金があるかどうかは別にして、学ぶことを最優先にする環境をつくる意志さえあれば、実現できる時代なので、「この環境は、非常に幸運だ」という思いを持って行動するようにしています。
 
桑田 以前も言ったかもしれませんが、安川さんって『探求の人』ですね。
 
安川さん そうかもしれません。私自身同じことをやり続けるよりも、新しいことをやるほうが性に合っています。人間には一人ひとり全く違った人生が待っていると考えれば楽しいですし、またこれまで培ってきた経験・スキルで人の力になれるのも、大きな喜びになります。
 
これからの時代、さまざまなスキルセットを持っていることがセーフティーネットになり、やりがいにもつながると思います。だからこそ、長い人生において、たくさんの引き出しを持って、細かくお金を稼ぐのは、経済的にも非常に安定できると思えるようになってきました。ソロプレナーとしては大事な考え方だと思います。

幅広い領域に携わることで、つながりを生み出し、コレクティブ・インパクトを実現できる

桑田 現在安川さんは、具体的にどんな仕事を行っているのでしょうか?
 
安川さん 今は「大組織」か「小規模組織・個人」か、「パブリック(官公庁)」か「プライベート(民間企業)」の掛け算で、4つの領域で仕事をしています。
 
「大組織/プライベート」は、経営者や次世代リーダー向けの未来思考の研修やコンサルティングがメインで、おもに「経済的な自立のため」にやっています。「小規模組織・個人/プライベート」は、孫泰蔵さんとスタートアップの新たな投資育成業態を目指してMistletoeを共同で立ち上げたりしながら、個人会社からスタートアップへの投資を行っています。
 
「大組織/パブリック」は、東京都の顧問、大阪府市特別参与、政府CIO補佐官などの政府自治体のアドバイザーなどを「社会貢献のため」に行っていますし、「小規模組織・個人/パブリック」としては医科大学の客員教授、東京大学未来ビジョン研究センターの特任研究員などの委嘱を受けて個人として複数の公的テーマの仕事をこなしています。これは「自己学習のため」であり、東大の研究センターでのプロジェクト参画などは、大きな学びになっています。
 
桑田 携わっている領域が、非常に多岐にわたりますね。
 
安川さん 来た仕事を基本断らずにやっていれば、このように広がっていきました。面白いもので、領域こそ異なりますが、今はそれぞれの仕事がつながってきています。例えば、東京都での案件で、教育や医療、DX、SDGsなどの社会課題を学んだら、これを社会課題解決系のスタートアップの支援に活かしたり。大学や企業、行政との接点があるので、それらを結びつけて、産官学連携のプロジェクトを立ち上げたりしています。「コレクティブ・インパクト(Collective Impact)」とは特定の社会問題を解決するために、さまざまな分野に属するプロフェッショナルが強みを持ち寄って協働することですが、私一人で「コレクティブ・インパクト(Collective Impact)」を実践しているときもあります。世の中には、こうした多領域を統合して経験している存在(ポジション)の人材がほぼいないので、さまざまなプロジェクトからお声がけいただけるのだと思います。
 
桑田 ソロプレナーとして活動するためには、こうしたオリジナリティが大事になってきます。
 
安川さん それに仕事を通じて、官僚、大学教員、大手企業やスタートアップの経営者や社員など、さまざまな立場の人とフラットな交流が持てるので、自分自身の感覚を磨けるのも、相場観を養う上では貴重な体験ができていると思います。
 
例えば、大手企業に所属する自分と同世代の人たちと話をすると、最近は「大企業も変わりつつあるぞ」ということが肌感でつかめます。
 
さまざまなご縁をいただきますが、縁だけでは、仕事にはつながりません。一度飲みに行くと「ぜひまた今度一緒に何かやりましょう」「是非是非!」と、みなさん声を掛け合っていますが、実現されないことがほとんどです。 

人生のゼロリセットを何度も繰り返していますが、このように生き延びることができるのには、他の立場の人と関わりながら、つねに新たな知識をアップデートできる自分自身の脳を鍛え方の方法論が役立っているようにも思います。詳しくは6月末に「BRAIN WORKOUT」という新しい本を上梓しましたので、是非手に取ってご参考頂ければと思います。

桑田 それも、安川さんの根底にある「探究心」の1つだと思います。自分の強みを大切にして、周りに流されずに、自分の進むべき方向を、その都度選択してこられたのも大きいような気がします。ソロプレナーを考えている人にとっても価値のあるお話でした。今回はどうもありがとうございました。
 
安川さん こちらこそ、ありがとうございました。

安川さん執筆の書籍のご紹介

BRAIN WORKOUTブレイン・ワークアウト 人工知能(AI)と共存するための人間知性(HI)の鍛え方/著・安川 新一郎(KADOKAWA)

自然人類学、脳神経科学、生命科学、AI技術など・・・各専門分野の研究テーマを掘り下げ、諸学問を横断的・体系的に整理し、全体の相互関係を含めて解説した唯一の書籍である。人類の進化の過程にそって「運動/睡眠/瞑想/対話/読書/デジタル」の6つのモードに分け、それぞれに全20 にもなるメニューを提案している。関連研究分野の知見と優れたリーダーたちによる実践例、著者自身の日常生活での試みを随所に反映し、自分たちの脳と知性で、これからの時代をいかに生き抜いていくべきかを考察している。with生成AI時代における必読書。

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