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第54回:思い出し笑い「古今亭志ん朝、再び!」(&ツルコ)


第54回:古今亭志ん朝、再び!

*intoxicate vol.109(2014年4月発行)掲載

 落語情報誌「東京かわら版」4月号の柳家喬太郎インタビューの「もう若手ではない」という記述に、そうか50歳だものねー、と遠い目。90年代に喬太郎を含めた世代の若手が盛り上がっていた頃、彼らの師匠のさん喬、権太楼などは中堅の位置づけでそのくらいの年代。もう喬太郎もその場所にきているんだ、と時の流れの早さにしばしぼんやりしちゃいました。


 時の経つ早さを思うとき、セットになって聞こえるのは「光陰というのは、ああ、矢のごとしだなあ」という古今亭志ん朝の声。早いもので昨年13回忌を迎えましたが、この春、朗報あり。6年前の2008年に、没後7年目にしてようやく志ん朝初のDVD全集がリリースされ、ファン大喜び。そして今年、新たなDVD「名演集」が登場です! 全集は上下巻・全44席で「最初で最後」とのふれこみでしたが、まだ出せる映像、あったんですね。


 前回同様、TBS落語研究会での高座をTV放映したものを収録しています。「落語研究会」は20世紀初めから続いてきた歴史ある落語会ですが、TBSによって受け継がれ「TBS落語研究会」が旗揚げされたのは1968年。当時、TBS専属だった桂文楽、三遊亭圓生、柳家小さん、林家正蔵といったまさに昭和の名人たちが主なメンバーで、ここに出演することは噺家にとって特別なステイタスのある落語会。現在も変わらずに半蔵門の国立小劇場で毎月行われており、この4月で550回を迎えます。志ん朝がこのTBS落語研究会の高座に上がったのは、第2回が最初でした。68年4月、30歳の時で、圓生、小さん、文楽らそうそうたる顔ぶれの中、若手として出演しています。


 「名演集」には70年代から80年代前半の高座が多く収録されていて、前2作に比べるとジャケットの写真が若々しい! 前作は上巻から下巻へディスク順に観ていくと、晩年期からだんだん若返っていき、そしてまた円熟していくように44席が構成され、80 〜90年代の高座がほとんどでしたが、今回は15席中6席が70年代と、貴重な若き日の姿を多く観ることができます。


 今作の始まりの72年(34歳)「つき馬」、ラストの99年(61歳)「品川心中」は、いずれも発表されている映像では一番若い高座と最晩年の高座。15席中、映像としての初出し演目は「紙入れ」で、他の14席は前の全集と同演目になりますが、すべて年代が違いますから、若々しい時代の高座と年月を経て磨き上げられてきた高座を見比べる楽しみが新たに加わることに。


 たとえば今作には、30代の「愛宕山」が収録されていますが、若々しいテンポもあって、この30代バージョンは上巻の50代バージョンより10分近く短いです。また、「五人廻し」は上巻の96年、下巻の73年に続き、今回は90年の高座を、「柳田格之進」は下巻では93年、本作では79年と87年の高座を、「三枚起請」も下巻で85年、本作は75年と89年の高座が収録されていますので、それぞれの年齢の芸を楽しむことができます。


 志ん朝は「芸は消えるもの」と言っていたそうですが、この素晴らしい芸の記録、残っていてよかったと感謝せずにはいられません。TBS落語研究会には68年の初出演以降、亡くなった年の2001年まで33年間に渡り101回出演し、58演目をかけたのだそうです。すべて残っているとすれば、一人の芸人の30代から60代までの貴重な記録ですよね。残念ながら、観たかった「お見立て」と「明烏」は今作にも収録されませんでした。初出演の「つき馬」も観てみたいし。今後また残されているお宝を拝める日が来ますように!


DVD『落語研究会 古今亭志ん朝名演集』
DISC1「つき馬」('72)/「愛宕山」('76)/「三枚起請」('75)
DISC2「紙入れ」('78)/「文七元結」('83)
DISC3「居残り佐平次」('78)/「柳田格之進」('79)
DISC4「化物使い」('81)/「富久」('82)
DISC5「柳田格之進」('87)/「三枚起請」('89)
DISC6「唐茄子屋政談」('87)/「五人廻し」('90)
DISC7「芝浜」('88)/「品川心中」('99)
豪華解説本 執筆者:京須偕充 長井好弘/高畑勲 水谷八重子 出久根
達郎 鳥井学 笑福亭仁鶴
[Sony Music Direct MHBL267]DVD7 枚組

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