第75回：歌丸師匠がドラマに！

＊intoxicate vol.132（2018年2月発行）掲載

　年初めの寄席は初席といい、いつもより持ち時間は短いもののたくさんの芸人さんが入れ替わり立ち替わり出演する賑やかさ。1年の始まりに楽しみにしている人も多い興行です。今年は元旦から新宿・末広亭に出演予定だった桂歌丸の休演がニュースになり、11日からの浅草演芸ホールでの二之席は体調不良のため引き続き休演に。心配！

　2016年に50周年を迎えた『笑点』の大喜利司会を勇退し、“落語の歌丸”一筋になりましたが、昨年BS日テレで放送された『笑点ドラマスペシャル　桂 歌丸』は、落語家になることを決意した幼少期から、弟子入りをし、そして半世紀続く人気番組となるテレビ出演が決まるまでの若き日々をドラマ化しています。今も住んでいるという横浜の真金町で妓楼を営む祖母タネと暮らしていた巌少年は、ラジオから流れる落語に夢中になり、小学4年で噺家になることを決意。中学３年の1951年に、“おばあさん落語”で知られる五代目古今亭今輔に入門、初心貫徹で中学生噺家・古今亭今児となりました。真面目に修行するも、師匠との間に生じた齟齬により落語から離れた時期もありましたが、1961年に兄弟子だった桂米丸の弟子になることで復帰。1964年に桂歌丸と改名し、その翌年、企画に関わっていた立川談志からオーディションの誘いを受けたのが、新しく始まるテレビの演芸番組「金曜夜席」でした。談志たち審査員を前に、落語以外の芸を披露しなければならないオーディション会場で、歌丸がしたことは？ バカバカしくも機転を利かせたネタでまだ二ツ目ながら見事レギュラーの座を射止めるまでを、ドラマでは描いています。『金曜夜席』は後に『笑点』となり、その後の人気ぶりはご存じの通り、ですね。歌舞伎役者・尾上松也が、劇中では落語も披露し、若き日の“クソバカマジメ”な歌丸を好演。歌丸を支え続ける妻・冨士子を水川あさみが演じています。ドラマには『笑点』大喜利メンバーが、ちょこっとですが、さりげなくない出演をしてるのもお楽しみ。

　歌丸は『笑点』で一躍有名になり映画出演などで多忙となるも、本業の落語にきちんと向き合う場として、1974年に地元の三吉演芸場で、毎回新しいネタを披露する独演会をスタートさせています。この3月に〈にっかん飛切落語会〉の音源による『名席集』CD-BOXがリリースされますが、今も続くこの落語会も、歌丸独演会と同じく1974年に始まりました。今回収録されて
いる一番古い音源が、1977年の《夢金》なのですが、その声の若々しいこと！ 客席の反応もよくて、勢いに乗っている時期だというのがよくわかります。この『名席集』はCD10枚組、20演目というボリュームで、70年代から2000年代までの膨大な音源からご本人がセレクトしたそうです。落語だけでなく、鳴り物や生活のことまで細やかに教えてくれたという師匠・今輔からは、「芝居を見なさい。鳴り物、間、きっかけなど、落語の勉強になるから」と言われたそうですが、歌丸が前座の頃に芝居噺をよくかけていた師匠が教えてくれたという歌舞伎の所作が入った《毛氈芝居》、六代目・春風亭柳橋からもらった《鍋草履》、噺家になる前から好きだった古今亭志ん生の十八番で、息子・志ん朝に稽古をつけてもらい記念すべき自身の独演会第１回目の口開けの高座にかけたという《火焔太鼓》、廓育ちのお坊ちゃんならではの《お茶汲み》、ヨーロッパや東南アジアなど海外公演でも人気だった《尻餅》、二回に渡り口演した《髪結新三》の上下、好きだという左甚五郎が出てくる噺の《ねずみ》や《竹の水仙》などなど、長年に渡り取り組んできた古典落語の数々をたっぷり聴くことができます。

　1日も早い高座への復帰を祈りつつ、落語芸術協会には落語界最高齢92歳の師匠・米丸も三笑亭笑三もまだ現役で頑張っているんですから、ハマっ子の不死鳥も負けずに復活していただき、2011年の芸歴60年に続き、2021年の70周年もぜひお祝いしたいです！