アイス

 初夏ですねえ。と、思います。外へ出るたび、額に汗が滲みますから。暑いですねえ、いや、いや、湿度が高いのがいけないですね。

 夏といえば、わたしはアイスを連想させます。アイス、と言っても、あまくてつめたくて、キーンとするものではなく、氷の味がするロックアイスです。それのからん、ころん、と転がる、積乱雲と桶を思い出します。風鈴と、それには水色と赤の池が閉じ込められているのです。
 レモンもいいですね。輪切りにしたレモンの浮かぶレモネード。とりわけやっぱり、氷のからころとした音が連想されます。わたしは、夏といったらロックアイスのようです。
 スイカも、そう、想起します。でも、それには縁側のような日の当たる場所が必要で、そこでやっぱり、ロックアイスのたくさん沈んだ麦茶かなにかが必要で。あぁ、夏ですねえ。初夏ですね。季節がめぐる匂いがする。

 夏ですねえ。あいにくながら、除湿の効いた部屋から出られず、毛布の中で腐っているのみですが。外というものは、いや、広すぎる。わたしには広すぎますから。
 人が歩いているのが、あんまりにも気持ち悪くはありませんか? 歩けば人ばかり。人、人、人、人。何があるんでしょう? 祭りですか? 毎日が祭りですか? 気持ち悪くありませんか?
 こんなに人がいるなんて。こんなに、人生が服を着て、まともな顔だけが歩いているんです。夏です、暑くてたまらない。生々しすぎますから。

 わたしなんか、たった十七年しか生きていないのに。こんなに苦しいのに。こんなに傷付いているのに、人は歩いているのが、許せないことのようにおぞましいのです。それは、対して食べたくもなくなったアイスが、未だに冷凍庫に待っているぐらい。

 初夏ですねえ。やっぱりわたしは、ロックアイスを想起させますよ。ああ、風鈴、レモン、スイカ、積乱雲の中に入り交じる、ロックアイスの音が、石畳を歩く音に聞こえますから。