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飲み会のサコッシュ

ゴールデンウイーク、高校時代の友達と飲みに行く約束があった。中には高校卒業以来あっていない10年以上ぶりの友人もおり、夕方飲み会が行われる神戸についた時には、心なしか緊張をしている自分がいた。18時開始の予定で17時に付いちゃうくらいは、緊張していた。

その日は、終始落ち着かなかった。服を選ぶ時も、「一番気に入ってる、セットアップにしようかな…」「いや、セットアップは気合入ってる感が出すぎか…ジャケットにスキニーくらいにしようか…」「でも、このジャケットに合うTシャツ昨日洗濯しちゃってるな…」みたいな、デート前の女の子みたいな行ったり来たりを繰り返していたほどだった。

結局ジャケットに、そこまで気に入っていないTシャツを着て三宮につくわけだが、1時間以上前に到着してしまったこともあって、流石にやることがない。いつもであれば、時間つぶしができるようにリュックにPC入れて歩いているキモオタスタイルで町にいるが、その日はもちろん手荷物はほとんど持たずにラフなスタイルで街に産み落とされている。

何ならサコッシュなんかっていう、ちいせぇ鞄を首から掛けているレベルだ。サコッシュだぞ、サコッシュ。「ちいせぇ鞄」でいいのに、わざわざ横文字で「サコッシュ」と呼ばれるものを身に着けているのである。ちょっとでかめのポケットと許容量が変わらないのに、鞄として首に下げるという我慢のおしゃれでおなじみの、あのサコッシュ。僕は、そんなおしゃれアイテムを、ぶら下げて町に繰り出しているのである。

とはいえ、サコッシュはひと時も僕の暇をつぶしてはくれないので、とにかく僕は町を練り歩くことにした。1時間ほどの空き時間で、小説もPCも手元にはない。喫茶店に入るほどでもなく、何かするには短い時間、僕に残された暇つぶしは、徘徊以外思いつかなかったわけだ。そして歩くこと30分、ここで想定外の事態に直面する。


いっぱい汗を掻いちゃったのだ。


とってもいーっぱい汗を掻いてしまったのである。15分くらいで気づけばよかったものを、ちょっとおしゃれしてきてしまった手前、なんか街を歩くのが楽しくなってしまったのである。気づけばもう、歩いても止まっても汗が流れ出る、壊れた蛇口状態の僕。洗車したてくらい、びしゃびしゃだ。

とにかく汗を止めないとどうしようもない。心を落ち着けるためにいったんコンビニに入る。このままではまずい、どうやったってびちゃびちゃすぎる。その時、水が目に飛び込んできた。

冷蔵庫に陳列されいる500mlのペットボトル。そうだ、とりあえずこのペットボトルで体を冷やしながら、飲めばいいじゃないか。さすがに今から飲み会までで500mlは多いが、酒を飲んだ後は水を飲みたくもなるだろうし、体も冷えて一石二鳥ではないか。そう考えたのである。

とりあえずこれ以上汗を掻かないよう、ゆっくりとした足取りでレジに水を持っていく。そして店を出て、一口水を口に含むと、ほてった体に冷たい水がしみわたる、とてもすがすがしい気持ちになった。

水の冷たさで汗も心なしか引いて、何とか飲み会には「犬井の周辺って、湿度高かったりする?」と言われる程度で済むレベルまでになってきた。飲み会迄残り10分、こうして難を逃れ水をサコッシュに入れて飲み会に向か…


サコッシュに…500mlの水が…入らない…だと…?


どうすればいい。僕が飲み会に500mlの水を堂々と持参するなんて「僕は酔いたくないやつですが、あなたに合わせて飲み会に来ましたよ」みたいなうぜぇ奴だと思われかねないではないか。もちろんほかの人だと、そんなことにはならないだろうが、持ってくるのが僕なのだ。僕が水なんか持っていたら…そんなの…そんなの…!




こうして僕は、飲み会前に500mlの水を一気飲みするという水攻めを受け、ちゃぷんちゃぷんのまま飲み会に挑むことになったのでありました。止まっていた汗は焦りでまたぶり返し、加えておしっこが止まらない、地獄の流水状態になったことは、言うまでもありません。

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