時をかけるジジイ

※これはなぜか何年か前に書いてそのままになっていた記事です。多分2、3年前。少しだけ書き換えましたが、当時の雰囲気とともにお楽しみください。


先日、コント公演が終わりました。
毎回ですが公演が終わるとふつふつと日常生活をこなす日々が始まります。それはとてもありがたいことだなぁと思ったりもします。

最近の僕はというとネットフリックスでアニメを見ては泣いて見ては泣いてを繰り返しています。あの赤いロゴを見るたびに「この涙泥棒さんめ」と心の中で思いながら毎夜夜更かしに励んでおります。ネットフリックスとバイトの二足のわらじを履いてる日々を過ごしていました。
アニメをあまり見るほうじゃなかった僕ですが最近はとにかくアニメを見ています。
そんなアニメにハマっている僕に最近起きた話をします。

いつかも書いたかもしれませんが僕は22時から8時までコンビニの店員をやっています。

11月14日。レジを打っていると午前3時頃に50代であろうおじさんが日本酒を1つ買って行きました。すでに顔が赤いおじさんはその場で日本酒を開け「明日から仕事で長野なんだよ」と言いました。

「えー!長野寒そうですね!」
「そうなんだよ、だから一番暖かい格好して行かねえとな」
「体調気をつけてくださいね」
「おうおう、にいちゃんもな」

どうでしょうか。地元民に愛されるコンビニの匂いがする店員と客の会話です。
そしておじさんは帰って行きました。

そして次の日。
僕は3日連続でバイトに入っています。
その日もシコシコとレジを打っておりました。
時刻は深夜3時。
日本酒を1つレジに置くお客様。
顔を見ると見覚えのある赤い顔が。
「明日から仕事で長野なんだよ!」
「、、、、?」
「寒いだろうから一番暖かい格好して行かないとな」
「、、、、108円です。」
「おう!ありがとな!」
帰って行くおじさん。

僕は驚きました。驚いた末に辿り着いた結論がありました。

あ、これジジイタイムリープしてんな。

そうです。ジジイはタイムリープしてしまっていたのです。ジジイは気がつかないうちに時空の隙間に入り込んでしまって永遠の11月14日を過ごしていたのです。
このままだとジジイは永遠に長野へ行くことはありません。
繰り返されるジジイの11月14日。
僕はジジイを救いたいと思いました。

次の日です。僕はその日ソワソワしながら彼を待ちました。時刻は深夜3時をまわり、4時、、来ません。タイムリープジジイが来ないのです。僕は不安になりました。もしかしたら時空の歪みに巻き込まれていろんな時代に飛ばされているのではないだろうか。ええじゃないかに参加するジジイ。初めての蒸気機関車に乗るジジイ。ナポレオンの肖像画の後ろにジジイ、古墳から出土されるジジイのはにわ。歴史の写真にじんわりとジジイが浮かび上がっているかもしれない。バックトゥザフューチャーの例の写真のように。
「、ジジイは歴史の犠牲になったんだ、、、ジジイ、、、」僕は涙が溢れないように上を向きながら接客をしていました。

「ウィーン」
自動ドアが開き、一歩一歩とお酒売り場へ向かう後ろ姿。顔は見られなかったけどわかる。ジジイだ。

「ジジイーー!!」
僕は後ろから抱きつきたくなる衝動を抑え考えた。今日がラストチャンスだ。なんとしてもジジイを時空の狭間から救い出す。
そのためなら、何度だってやり直すよ。たとえ百年の孤独を味わうことになったとしても。

「コトン」
聞き覚えのある音。安心感と喪失感が混ざった音だ。いつもの日本酒を置く音。同時にそれはジジイがまだ時空の狭間で迷子になっている音だった。

どうすればジジイを救い出せる、、考えろ、、考えるんだ、、

「うぃー、さみぃーなー、」

ヤバイ。いつも通りだ。ここで僕が「寒いですね」と言うと「俺明日長野〜」が出てしまう。つまりまた11月14日を繰り返す。
僕は断腸の思いで無視をしてみた。

「うぃー」

これは長年コンビニバイトを経験した僕だからわかったことだが、ジジイは無視されると無視されたと思いたくなくて「うぃー」という言葉にも鳴き声にもとれる声を発する。総じてそうである。

「うぃー、さみぃーなー、」

やめてくれ、、やめてくれジジイ。僕だってジジイと寒いトークをしたい。したいけどしたらジジイを救えない、、

その時僕は気がついた、バーコードを読み取るために持った日本酒がとても冷たいことに。
これだ!

「あの、暖めましょうか」
「おい、そんなことできんのかぃ笑」
「本当はダメなんですけどー、今日寒いんで、特別ですよ笑」
「たまんねえなー笑」

レンジで熱燗にするという新展開を作ったのだ。運命のレールよ。どうか、、お願いだ。
これが凶とでるか吉とでるかはわからない。もしかしたらこのせいでジジイは恐竜時代に飛ばされるかもしれない。
「ありがとよぉ〜」

僕はレンジを開けて日本酒の蓋を開けてレンジを閉めた。

「いっっっっけぇーー!!!!!!!!!」

心の中で叫び、スタートを押した。

「うぃー。さみいなぁー」
「お酒どのくらい飲まれるんですか?何が好きですか?やっぱり日本酒ですか?僕苦手なんですよー。どうやったら飲めるようになるんですかねー?」
暖めている最中もジジイから「俺明日長野〜」を言わせまいと質問責めにしてみた。さしずめ踊る平山御殿だ。少し困惑気味のジジイだって御構い無しだ。

ピーピーと、レンジが止まった音がした。僕は熱くなった日本酒をジジイに差し出した。

「おぉ〜!あっちいなぁ!んぉ〜、、ん〜!うめなぁ!」

ジジイは一口その場で(店内)呑み嬉しそうな顔をした。その目は日本酒よりも透き通っていた。

「ありがとよぉ〜」

そう言ってジジイは帰っていった。
そのありがとうには「俺を時空の狭間から救ってくれて」も含まれていた気がする。

それからジジイは見ていない。
(間も無く店が潰れたから)

歴史の写真を見るたびジジイを探してしまう。探してはいない事に安堵する。

ジジイは、今どの時代にいるのだろう。
今この時代を一緒に生きているのだろうか。
コロナがどうしたという話題を、たわいもない話題を、日本酒片手にしていてほしい。

ジジイと過ごした日々をこの胸に焼き付けよう。思い出さなくても大丈夫なように。
いつか他のジジイを好きになったとしても、ジジイはずっと特別で大切で。

またこの季節が、めぐっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?