プリンセス症候群

僕には憧れがある。
それは誰かに奪い去られることである。
これだけ聞くと誘拐願望という言葉が近いかもしれないがもちろんそうじゃない。最後まで聞いてほしい。だからそんな悲しい顔はやめてほしい。

僕はディズニーが大好きだ。特にプリンセスが好きだ。シンデレラ、ジャスミン、アリエル、橋田壽賀子、熱血硬派くにお君。いろんなプリンセスがいる。
特に好きなのはラプンツェルだ。
髪が長すぎる女。ラプンツェル。

ディズニーのプリンセスは主に狭い世界に閉じ込められている。そしてどこからともなくプリンスが現れ、プリンセスを奪い去り、広い世界を見せる。そして2人はいつまでも幸せに暮ら志麻子。

そう。僕はプリンセス如く、僕を奪い去って遠くに連れて行ってほしいのだ。
僕が見たことない景色を見せてほしいのだ。
女の子が誰しもプリンセスに憧れるように、男の子だってプリンセスに憧れてるのだ。
どこからともなくやって来て僕の手を引くプリンスを心のどこかでいつでも探しているのだ。one more time,one more chanceなのだ。
僕はプリンセス。

そんな憧れをミンティアの様にいつも持ち歩く僕にも1つ不安がある。
いざ、プリンスに手を引かれたとき。僕はちゃんとプリンセスでいられるだろうか。

まず、場所は僕の住む大田区である。今いる環境からの脱却の手伝い。それがプリンスの仕事であるなら、プリンスはまず僕を大田区から奪い去る。そして僕の見たことない素敵な世界。そこは多分モルディブだろう。モルディブは良いと聞く。白いサンゴに青すぎる海。点々とある島々。サンセット。小さな傘が刺さった青い飲み物。ああ、最高だ。南アジアに位置する。スリランカのちょい左下。モルディブだ。モルディブに決定。

つまり、プリンスは僕を大田区からモルディブまで奪い去るのである。
僕がちゃんとプリンセスのままモルディブに着くことができるのかが問題だ。

持ちプリンセスは100プリンセス。これが0プリンセスになる前にモルディブに着けばめでたく「2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」となる。最初に手を取られ奪い去られたときのトキメキをいかにキープできるか。
それが今回のキーになるだろう。
それでは、スタート

➖朝8時2分➖僕、コンビニバイトを終える。
プリンスがやってきて僕の手を引き、走る。
プリンス「ほら!いくよ!」

さて、プリンスに手を引かれ走り出した2人の物語。ここで僕は思う。

移動何よ?

ここは大田区。モルディブへ行くにはまず羽田空港を目指すのだろう。では、羽田空港へは何でいくのだろう。
そのまま走っていくのは無理がある。電車なんてもってのほかだ。となるとバイクか車。とりあえず今回は車ということにしておこう。
では、僕の手を握り走り出したプリンスは近くの駐車場へ向かっていたのだ。タイムズだ。僕のバイト先の真横にタイムズはある。ということは、バイト先のコンビニを一歩出て僕の手を掴み約3秒も走らないのだ。
そして、僕を後部座席へ案内した後に駐車料金を払う。その間、後部座席に1人。1分弱。
ここまでの流れでマイナス10プリンセス。残り90プリンセス。

➖8時5分➖車が動き出す。
安全運転して欲しいところだが、のんびり運転はは避けて欲しい。後ろを異様に気にしながらの切り返しはマイナス点になってしまう。
僕はまだ状況が読み込めてない。頭の中は?でたくさんなのだ。しかしプリンスは笑みを浮かべている。
僕「ねぇ、どこへいくの?今日もバイトがあるからあまり遅くになるとキツイよ」
プリンス「君が本来いるべきところだよ。」
そして渋滞に捕まる。朝の環八は混むのである。
ここで沈黙に耐えられず「え?本来いるべきとこってどこ?」などと言ってしまってはプリンセスではない。
そしてプリンスも「いや、だから、モルディブだよ。ほら、スリランカのちょい左下の」等の言葉を発してはいけないのだ。それが奪い去られのルールなのだ。
ということを考えてしまい、向こうも気を使ってるんだろうなぁとか。コンビニ寄る?って聞かないことをダメなプリンスって思ってるんじゃないだろうか。って、思ってるんじゃないだろうか。そんなことないのに。などなど沈黙の時間約1時間半。マイナス25プリンセス。現在65プリンセス。

➖11時➖羽田着。
ここでまた車の駐車。しかも空港内の駐車は面倒くさい。そして「え、そういえばこの車どうすんの?一回帰ってくるの?てか、どこ行くの?マジで」等々の考え。マイナス5プリンセス。現在60プリンセス。

そろそろ会話してもよい頃合いではないかと、会話を始めてみようと思う。
僕「え、本当にどこいくの?」
プリンス「あー、、、モルディブ」
僕「え!?モルディブいくの!?今から?え、いつ帰んの?」
プリンス「いやー、、、かえ、、らないんじゃない?」
僕「え、待って待って、親とかは?え?パスポートとか。ていうか、え、待って飲み込めないんだけど。」
プリンス「や、なんかもうそこらへんのことは大丈夫。大丈夫だから!」
僕「えー、、、」

思い切りの悪さマイナス10プリンセス。現在50プリンセス。

プリンス「搭乗手続き始まってるから」

事務的な事マイナス20プリンセス。現在30プリンセス。

僕「えー、ていうか、本当にもう帰らないなら持ってきたいものとかちゃんと選びたかったのに。あと携帯とか。使えるの?サザンとかYUKIのライブもまだ行きたいし、芝居だって観たいよ。」
プリンス「うん、、、ごめん、、、」
僕「いや、謝るとかじゃなくて。嬉しいことは嬉しいんだけどね。、、、なんかごめん、けど本当に嬉しいんだよ。まあどうにかなるか。楽しみ」

大田区への未練マイナス10プリンセス。現在20プリンセス。

➖13時➖出発。

やっぱり飛行機が飛び立つのはわくわくする。
あぁ、これから僕はモルディブで暮らすんだ。今までの生活からは考えられなかった。綺麗な場所で生きるんだ。なんだか心の底から楽しみになってきた。隣を見るとプリンス。2人はそっと手を重ねる。軽く眠る。機内食。ビーフを選択。プリンスはチキンを選択。2人で半分こしながら食べる。楽しい。

➖20時➖シンガポール着
今日はシンガポールで一泊。モルディブへの飛行機は明日の14時に出るらしい。それまではシンガポール観光だ!
ホテルに到着。プリンスがホテルのチェックインで少し揉めている。どうやら部屋のグレードが予約したやつより下がっているらしい。言葉がほとんど通じていない。プリンスの機嫌が悪くなる。マイナス5プリンセス。現在15プリンセス。就寝。

➖8時➖起床
チェックアウトの支度をする。
プリンスはまだ少し機嫌が悪い。僕の「チップ置かなくていいの?」の発言もシカト。マイナス10プリンセス。現在5プリンセス。

➖10時➖観光
マーライオンを見る。
「実際見るとそうでもないんだね!」とかの話をしたいのにプリンスまだ少しイライラしてるし。
僕「もう良くない?いい部屋だったじゃん。プリンスするなら最後までプリンスしててよ。」
プリンス「いや、おかしいじゃん、こっちはちゃんと予約してんのにさ。こっちが悪いの?」
僕「いや、悪いとかじゃなくて。そう言うことあるじゃん。仕方ないじゃん。ミスなんだからさ。気にするのやめようよ。せっかく奪い去ってくれたのにさ。」
プリンス「いや、お前が最後までプリンスしてっつってんじゃん。だからいい部屋とってさ。やってんの、こっちはいろいろ。」
喧嘩である。マイナス4プリンセス。現在1プリンセス。

僕「予約したページ見せてよ」
プリンス「お前が見たって変わんねえよ」
乱暴にスマホを渡される。
宿泊人数が1名になっている。
おそらくプリンスが予約の時に1名で予約したのに当日2人で来たからホテル側が親切で対応してくれたのだろう。訳ありだと思ってくれたのか、お金も一人分の予約料金しか取っていない。
そのことをプリンスに伝える。

どえらい空気になる。マイナス100プリンセス。現在-99プリンセス。
マーライオンは吐いている。

ここで僕は「あーあ、帰りて」と思うのであると同時に、プリンセス失格なのである。

僕はプリンセスになりたい。しかしプリンセスにはなれない。だけれどもしもこんなプリンセスに向いてない僕を奪い去ってくれるというのなら。3泊4日で中部地方とかがいいっすね。

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