【前】それゆけ100円ボーイズ!

僕が中学一年生の頃、仲の良かった森くんと藤田くんの3人でよく遊んでいた。後に塾も3人同じところへ通うようになる。それくらい仲が良かった。
そして、僕らの遊びといえば決まって100円ショップへ行くことだった。

100円ショップ。
それは中学生にとっては夢の空間だったのだ。
おもちゃはもちろん。なにに使うかわからないもの。
便利から程遠い便利グッズ達に心を躍らせない中学生がいるなら会ってみたい。そして、少し気まずくなりたい。

そんな花の都100円ショップ。
僕は今もなお100円ショップでバイトをしているほど100円ショップ昔から好きなのだ。

僕と森くんと藤田くんはとりあえず集まったあと、自転車で10分くらいのそこそこ大きいダイソーへ向かう。ほぼ毎日。

見るコースも決まっていた。
まずはあまり必要のない食器、キッチングッズ売り場。ディズニーランドで言うとワールドバザールだ。
「ついに来たねー!始まるねー!」と、キッチングッズコーナーは心を高めてくれる。
バナナを10個に一瞬でカットできる便利グッズが100円なのだ。

バナナは普通カットしない。そもそも、バナナはあのバナナの形こそが一番食べやすく、バナナは史上最大の便利グッズでもあるのだ。
そんなバナナを10個に輪切りしてくれる「バナナカッター」は本当に無意味で非日常的なのだ。昨日も一昨日も、一週間前にも見ているバナナカッターに今日もウキウキワクワクしていた。

そんな非日常的なものに出会える。それが100円ショップが近所のディズニーランドと呼ばれる所以だろう。

ドン・キホーテにもそんな非日常商品は売っている。しかし高い。中学一年生にドン・キホーテは手が届かない存在なのだ。あと不良がいると思って単純に行けなかった。だからやっぱり100円ショップなのだ。

キッチングッズを見たら裁縫、ガーデニング、その後にお風呂グッズ、文房具、そうして僕らの最大の楽しみ、おもちゃコーナーへと向かうのだった。
自分たちの興味のないコーナーから回るのはディズニーランドでも同じなのだ。
「まだ自分たちの楽しみにしているコーナーじゃないのに、こんなに楽しいのか!!」
そして待ちに待った100円ショップのビックサンダーマウンテンことおもちゃコーナーで武者震いをしながら水風船なり、音のする銃なりを買って遊んでいた。

そんな薔薇色の100円ショップライフを満喫していた僕ら100円ボーイズの平穏な日々も長くは続かなかった。

いつものようにとりあえず集まった3人はまたいつものように100円ショップへ向かおうとしていた。
当たり前の日常。当たり前の100円ショップ。さあ、僕らの明るい未来へ向かって!と自転車を漕ごうとした時に、森くんがこんな一言を言ったのだ。

「あのさ、お母さんから聞いたんだけど羽田の方に千円均一ショップがあるんだって。そっち行ってみない?」

僕と藤田くんは目を見合わせた。
「せ、千円均一ってことは全部千円ってこと、、?」
藤田くんがそう聞くと
「うん。なんかいろんなものが売ってるらしいよ」
生唾を飲む2人。

(100円ショップであんなに楽しいのに千円ショップなんていったらどうなってしまうんだろう、、)
言わずもがな、千円は100円の十倍である。
ということは、、、!
僕は何も言わずにお財布を確認した。
僕の考えを察して藤田くんもお財布の中を見た。「ダメだ、、、千円なんて大金持っていない、、、」
落胆は藤田くんも同じだった。

諦めよう。僕らは所詮100円ボーイズ。千円ヤングにはなれないのさ、、、
そんな時森くんが「いや、僕も千円は持ってないんだけど。3人で出し合えば一つくらい買えるじゃん」

まるで稲妻が体に落ちたようだった。目から鱗だった。それまでの僕らは個人戦で100円ショップを楽しんでいたのだ。それを森くんは団体戦で千円に挑もうというのだ。
「買ったものは誰のものになる?」
「欲しいものが食い違ったらどうする?」
いろんな思いが頭をよぎった。それは藤田くんも同じだっただろう。
だけれど僕らはもう千円均一という重厚で甘美な響きから逃れられない。好奇心とはそういうものだ。

三人寄れば文殊の知恵。
我ら100円ボーイズは初めて団結したのだ!
100円の友情から千円の友情へ。
いや、僕と森くんと藤田くん。そして野口英世の4人の友情だ!

そして、元100円ボーイズは、まだ見ぬ楽園。千円均一ショップへ向けて自転車を漕ぎだした。
笑顔だった。みんな笑顔だった。英世も笑顔だったはずだ。
これから起こることも知らずに。

続く!


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