セッション レジ編

みなさんはセッションという映画をご存知でしょうか。監督はたしかララランドの人。

ドラムに没頭する若者と、激しすぎる狂気的な先生とのドラムのお話なのですが、まあ、見てみてください。みなくてもいいです。
とにかくまあ、熱心で狂気的すぎるレッスンがあるのです。

四年ほど前にコンビニで働き出しました。コンビニは初めてでそれなりに右も左もわからなかったのです。一番はやはりレジ打ち。
大体の人がコンビニでレジを打ってもらったことがあると思います。
やったことある人も多いと思いのではないでしょうか。

お客さんが商品を持ってくる。
「ありがとうございます」と発する。
商品についているバーコードを1つ1つスキャンする。
値段を発する。
カゴをしまう。
ポイントカードの有無を問う。
袋に商品を詰める。
お会計の値段が合ってるか問う。
お会計の値段をレジに打ち込む。
お釣りを返す。
レシートを返す。
商品を渡す。
「ありがとうございました」と発する。

ざっくりと、これがレジ打ちの流れなのです。慣れると簡単なのですが、慣れないとやはり手順が多いのです。

僕がコンビニで働きだした初日。僕は22〜8時までと言う深夜帯に働いていた。夜中は暇だが、朝方はまあ、それなりにお客さんが来る。
その人は毎朝来る人だった。

その人は多分大工さん的な?そういう現場の人なのだと思う。6:45分にいつも決まってやってくる。

買うものは主に飲料。
コーヒー三本くらい、お茶三本くらい、飲むヨーグルト二本くらい、それに加えてその日に買うもの。大体いつも700円程買って行く。
その人は商品を置くと、すぐにポイントカードを渡してくる。そして、合計金額をいうといつも端数をポイントで支払うのだ。
そしてなにより急いでいる。高圧的に急いでいる。なんなんだ。いつも同じ時間に来ていつも急いでいるなら3分だけ家を早く出たらいいじゃないか。そう思うくらいにいつも急いでいる。

レジ打ちに不慣れだった僕はポイントカードを出されるタイミングや、端数をポイントで払う際に打ち込むレジだったりが半ばパニックになってしまうくらい複雑に思えた。
そして、すこし手間取ってしまってお会計が終わり、その人は舌打ちをして去って行った。
僕は悔しかった。
その人は次の日もきた。

「うわ、昨日舌打ちされた人だ」そう思って急いだつもりだったが、また舌打ちをされた。
なんだ、なんなんだ。なにが悪いというんだ。

すこし考えてみた。その人はポイントカードを自分のタイミングで僕に差し出してくる。
その際に、そのポイントカードをスキャンしなければ、その人はお金を出すタイミングが遅れてしまうのだ。だから次の日はその人のポイントカードをスキャンしてから他の手順を踏んだ。

また舌打ちだ。
なんでだ。タイミングは完璧だったはず。
はっ!カードを返すタイミングだ!
その人からポイントカードをもらい、スキャン、そしてそのタイミングで返すとカードをお財布にしまうという手順がその人のお金を出すタイミングを送れさせてしまっているんだ。
僕は次の日が楽しみになっていた。

そして次の日、僕は考えていた作戦通りレジを打った。
その人が商品を置き、ポイントカードを出す。僕は受け取りスキャンし、ポイントカードを一度置き、商品をスキャンしてお会計を伝えてその人がお金を出し終えたタイミングでカードを返す。

まるでダンスのようだった。自分でも美しいと思った。まるで無駄のない動きだ。
その人は舌打ちをした。

僕はもうわからなくなってしまった。なぜあの人は舌打ちをするのだろう。まだ早くなるというのか?
その人の行動を考えてみた。
商品を置く、ポイントカードを出す、お金を出す、端数をポイントカードで払う、ポイントカードをしまう、おつりをもらう、袋を持って行く。この行動を1つも崩すことなく僕はレジを打たなければいけないのだ。
そして次の日が来た。

その人が来た。
商品を置き、ポイントカードを出す。
僕はそのポイントカードをスキャンせずに一度置いた。そして商品をスキャンした。
その人がお金を出す前に会計を出すことに成功した。
その人がお金を出すほんの数秒。僕は商品を袋に詰め終えた。端数をポイントカードで払うタイミングで僕はポイントカードをスキャンし、すぐさまカードを返し、おつりを払い、袋をさしだした。

その人は舌打ちをしなかった。
僕は猛烈に感動した。
認めてくれたのだ。その人は僕が一人前のレジだと。

それからというもの。その人から舌打ちを聞くことはなくなった。
それどころか、徐々に2人の速度は早まっていった。
「それよりポイントカードを渡さず、バーコード面を向けスキャンしたら1つ行動が減る!」
「だとしたら俺はお前が袋を出すタイミングでカードをしまうよ!」
言葉にはしていなかったが、2人は心で会話をしながらさらなる高みを目指していた。

まるでセッションのような2人の無駄のない行動。お互いがお互いを高め合い、引き立てあう。奏でるメロディは讃美歌だ。

僕はセッションのあのドラムに没頭していた若者を思い出しながらレジを打つ。テンキー,ボタン、ポイント利用ボタン、確認ボタン、登録ボタン、男性40代ボタン、タンタタターン!とリズミカルにドラムを叩く。

ありがとう、その人。
私の師匠はあなたです。





店員に舌打ちする奴は総じて地獄へ!

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