【後】それゆけ100円ボーイズ!

〜あらすじ〜
100円ショップ狂いだった僕と森くんと藤田くんは中学一年生。
ある時、森くんが羽田の方に千円均一ショップという天竺があるという。
僕らはお金を出し合って野口英世を仲間にし、冒険の旅に出た!どうなる100円ボーイズ!


と、言うわけで続きです。

僕らの住んでいた大田区は、ご存知羽田空港があります。羽田というのは言わずもがなそこのこと。
僕らの通っていた中学校からは自転車で1時間くらいのところにあった。行動範囲からはだいぶ離れ、3人とも自転車で行くのは初めてだった。
今のようにスマホの地図もない。
頼りは森くんがお母さんに聞いた「羽田のどこどこのスーパーの隣」ということだけだ。
僕らはとりあえず海を目指すことにした。

自転車を漕ぎだして20分ほどだろう。大田区にある蒲田というところへ来た。蒲田はシンゴジラが上陸したところでお馴染みだろうか。
そして、大田区っ子の中学生は蒲田は怖いところ。という認識がある。
大人のお店もあり、ドンキもある。
しかし蒲田は避けては通れぬ道だった。

思いとは裏腹に何事もなく蒲田を通過した。それもそうだ。そうそうなにかあっては困る。大田区はスラムじゃないんだ。
僕らは難所の蒲田を超え、テンションが上がっていた。いつか孫ができたら「おじいちゃんは中学一年生で蒲田を自転車で通過したんだぞ」とか自慢しよう。そう思いながらペダルを漕ぎ進めた。

そこからまた30分ほど。迷いに迷ってやっと羽田に着いた。僕らは遂に未開の地に足を踏み入れたのだ。

飛行機がとても近くを飛んでいることにテンションが上がり、そしてもうすぐ現れるであろう楽園に想いを馳せていた。
商店街の場所を聞き、商店街に着いた。
何の変哲も無い商店街。しかしそれはここにある。

自転車を近くに止め、僕らは商店街を歩いた。大人になった気がした。知らない地で、僕らはこれから千円の買い物をする。大人とはこうあるべきである。

そして遂に、僕らは見つけたのだ。
スーパーの隣、ビルの二階。「千円均一」の文字を。見つけた。見つけた?見つけたんだよね?あれ?こんな感じ?あってる?
あってるに決まっていた。一つの商店街に千円均一ショップが何店舗もあってたまるか。
ここだ。ここが僕たちが探し求めていた天竺だ。

うん、あー。なんか違うな。
みんなそう思ったに違いない。僕らはドン・キホーテのスケールを想像していたのだ。しかし羽田にあった天竺はまるでブティックのようだった。価値観が麻痺したご年配が買いに来るようなお店。
今ならわかる。それはリサイクルショップだ。

僕らは3人の変な空気感を各々が感じながら口には出さなかった。
多分森くんが一番居づらかっただろう。
だけれど僕らには友情があった。
これは誰の責任でもない。
「、、、行く?」
不安そうな森くんが聞いた。
僕と藤田くんは「行くよ!ここまで来たんだから!」と明るく言った。
そして僕たちはだいぶスケールダウンした天竺への階段を登った。

「うわ!」
階段の途中に見たこともないサイズのまるで場違いなタヌキの置物があったのだ。
よく見たら入り口に鹿の頭も置いてある。
それはあまりにもミスマッチで僕らは再び顔を合わせ確認しあった。
「ここはやっぱり天竺かもしれない」
見たこともない非日常なものが入る前から二つも置いてあったことにテンションは再び上がった。
もう確かめたくて仕方がないのだ。このお店に、僕らの未来があるのかどうか。
いざゆかん、未知なる世界へ!

先陣を切って森くんが入った。続いて僕と藤田くんも入った。

その時僕らの目に飛び込んで来たのは!



服である。
誰がどう見ても服である。
紫の服や、テロテロの素材の服。
ブティックである。
コンビニくらいの広さにお年寄り用の服がびっしり。
ブティックの定義は知らないが、それはブティックである。
僕は膝から崩れたかった。地面を叩き泣きたかった。
しかしブティックだ。そんなことをされてはお店も困るだろう。グッとこらえた。

3人は夢を見ていたのだ。
そうに違いない。100円ショップが好きすぎるあまり、100円ショップの神様が10倍の夢を見させてくれただけ。ただそれだけのことだ。
僕らは100円ボーイズ。
所詮ワンコインの人間。

「あ!」
それはポツンと。しかし堂々と。レジの上にひとつだけ。
おもちゃといえばおもちゃのようなものが。

「それ」はビールジョッキのようなものの上に蛇口があり、その蛇口から延々とジョッキに水が流れ落ちるというよく言えばインテリア。悪くいえばクソのほどにも役立たないゴミクソ野郎だ。

これである。

なぜこんなものがこんなところに?
とにかく僕らはこれに惹かれたのだ。
田舎の学校に東京から美少女が転校してきたかの如し、3人は一目惚れしたのだ。
今考えてみたらそれは周りがおばさん服だらけだからである。
僕らはそれを買うしかことでしか救われなかったのだ。
そして、買った。千円で買った。
僕らはときめきを戻していた。

宙に浮いた蛇口から延々と水が注がれる!
もう魔法である。
僕らはホグワーツへの入校を許可されたのだ。

早く魔法を見せてくれ!そんな気持ちで僕らは外に出て箱を見た。汚れなんて気にならなかった。箱を見るとボタン電池が必要と書いてあった。
ボタン電池、、、
一瞬、魔法から遠くかけ離れたその言葉を聞いて現実に戻りかけたが、商店街の100円ショップでボタン電池を買った。
そこの100円ショップにはいつも行く100円ショップでは見たことのないものがたくさん売っていた。だけれど僕らは見なかった。きっとみんなじっくり見たかったと思う。

準備は整った。
公園に行き、箱を開けた。
その時気がついたのだが、一度開けられている形跡があった。
もう魔法はどんどん薄れていく。しかし、まだ諦めていないぼく達。

箱には透明のストローのようなものが入ってた。ジョッキにそれを刺し、蛇口の口をそれに刺せと書いてあった。
そう。魔法でもなんでもなかった。そんなことは気がついていた。だけれどあんまりじゃないか、、、透明のストローって、、、

スイッチを入れてない状態はただ蛇口がストローに刺さっているだけだ。

僕らはもう冷めていた。明らかに冷めていた。
一応水を入れて、スイッチを入れてみた。
モーター音が響く。
響く。
水は流れない。壊れていた。別になんとも思わなかった。
その、千円で買った壊れた物を僕たちは公園のゴミ箱に捨てて、来た道を帰った。ほぼなにも話さなかった。

僕らは次の日に100円ショップへまた行った。
楽しかったけどどこか虚しかった。

今思えば僕たちは、あのブティックで千円を出して「すこし大人」を買ったのだろう。

さらば、100円ボーイズ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?