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東京芸術祭2023 直轄プログラム FTレーベル ロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』

作・演出の三浦直之氏が創出した50のキャラクターを6名の俳優が演じ分ける90分、どうなるの?ドキドキしながら最前列に座る。演劇は毛穴まで見えるほど、舞台と近いのが好きです。

基本、34のシーンが舞台上を疾走する、俳優も走っている、前の役を舞台上で脱ぎ捨てて次のキャラクターに推移する。文字通り衣装の早変わりもある。詳細な台本はないのかもしれない。キャラクターの氏名と年齢、エピソードが書かれた300文字のプロフィールと、キャラ一人について1ページの台本で、上演されるのだという。

美術や照明は、春夏秋冬朝昼夜夜中明け方、季節も時間もどうにでもなるように設定されている。どこでもない空間じゃなくて、どこにでもなる空間。人がいないと何か足りない感じがするけれど、誰かの言葉や気持ちが重なると、ちょうどいい温度になる設計なんだろうと。匙加減が絶妙。

すべて人造の人物たちだが、50人も出てくる演劇ってそんなになさそうで、ギリシャ悲劇とか、シェイクスピアとか、歌舞伎とかみたいな。でも古典と違って各自劇的な運命を背負っているわけでもないので、ただただいろんな人がいろんな目にあっているなあ、突飛な場面もあれば、日常のグダグダだったりもするのだが、各自切り取られた時間だけちょっと俳優の体に表れて、心のうちを吐露してくれるんだなあ、と、素直に感じる。

ハワイ旅行に行った子供時代の思い出が、実は熱海だった人とか。
なにせ50人34シーンだから、割り当てられた時間が短いのよ。

このプロジェクトは、本公演はキャラクターカタログだけど、日本各地の劇場や学校で数人のキャラクターを引き継いで別に制作されていくシリーズなんだそう。

物語とも言えないエピソードや言葉の断片に、笑ってしまったり、見入ってしまったりするのは、要するに出演者がうまいから。わずかな情報を振ったらすぐそれを増幅して人間サイズまで膨らませ、いかにもその人として舞台に立ってしまう特異な才能がある人たちの技術と感性を思うさま使った、贅沢な、演劇によるキャラクター造形が楽しめる。王侯貴族みたいに。

いかにもそのキャラっぽい声、話し方、表情や体の動きは、きっちりはまっている。どうやって構築したんだろう、普通の役作りよりも、自由なのか、不自由なのか、どのくらい感覚で、どのくらい理屈で決めているのか、リハーサルごとに違うのか、同じなのか、即興なのか、聞いてみたい。

プロの演劇は、まず俳優の力なんだなと、たっぷりと意味と感情が込められた言葉と体を堪能した、夢に出てくるくらいに。

でも、演劇が登場人物のキャラクターだけで成立するのかどうか、その人たちが同じ箱の中で、相互関係がわかり、演劇で描かれるタイムラインの前と後どうしてたか、どうなるのか、満腹するまで説明することを拒む。観客は流れの中で舞台上の人間を知るのではなく、出会っては分かれるだけ、知らない町を歩いているような、電車で乗り合わせた人の会話が耳に入ってしまったくらいの。そういう個人情報のかけらが。言ってしまうならば、出会いと別れの濃度は、情報量では演劇というよりは、現実に近い。

俳優がうますぎて見れてしまうけれど、ライトな作品だ。いろんな人間に出会うことが演劇の楽しみのひとつだけれど、それだけって!キャラクターカタログと言っちゃっているんだから、彼らのその時以外の人生についてもっと知りたいし、目の前で生きてほしいと思う、もうちょっと長い時間。
でも50人もいる、多すぎる、と思ったら、元ネタプロフィールが照会できるQRがついていた。戯曲も販売しているって、演劇のカタログ販売?

終演してから復習してねって、本当は何を狙っているんだろうか。