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悩んでいる人を、一歩前に。資質診断もできる整理収納アドバイザー・てらもとしほさん流の片付けサポートとは

「整理収納アドバイザー2級認定講座を受けた時、雷に打たれたような衝撃を受けました」
 横浜市を拠点に整理収納アドバイザーとして活動するてらもとしほさんは、今の仕事を始めたきっかけについてこう話す。整理収納アドバイザー2級認定講座とは、片付けの基本を理論から学ぶことができる講座だ。整理収納アドバイザー2級認定講師が主催し、受講すれば整理収納アドバイザー2級を取得することができる。


片付けって、収納することじゃない

 てらもとさんは、もともと片付けはそれほど得意ではなかったという。子供の頃は、机にモノがどっさり乗っているタイプ。基本的にはズボラのめんどくさがりで、ひとり暮らし時代は「とりあえず詰め込む」方式の収納でぐちゃぐちゃだった。でも「このくらいが普通だよね」と、特に問題も感じていなかったと笑う。
 そんなてらもとさんが、整理収納アドバイザーに興味を持ったのは、子供がハイハイをするようになったことがきっかけだった。子供が床の埃や汚れを吸ったら嫌だなと思ったが、ズボラだから掃除はめんどくさい。どうにか楽にできるようにするには、片付けを学ぶのが良いのではないかという軽い気持ちだったそうだ。
「2級認定講座を受けたら、『え、片付けって収納することじゃないんだ』と目が覚めた感じでした。家に帰ってその日にすぐモノを捨てたくなり、みんなに教えてあげたいという気持ちにもなりました」
 講座を受ける前は、収納グッズを駆使して片付けられるようになるのかと思っていた。しかし、講座で聞いた片付けはそれとは全く別物だった。モノとの付き合い方やモノの持ち方という、これまで持ち合わせていなかった概念を教わり、衝撃を受けたという。
「それまでは、収納や便利グッズを買ってきて使いこなせれば片づくと思っていました。外からモノを買ってきて『加える』ことで片づくという思考だったんです。でも、片付けの本質は違いました。すでに持っているものを、洗いざらい見つめて見直すことが大切だったんです。これまで自分自身の内側に、自分の意識が向いていなかったことに気づきました」
 それまでは、「必要になるかもしれないからとっておく」「収納に入るから入れておこう」「あっても困るモノじゃないからとっておく」といったふうに、モノと向き合うということをしていなかった。
「捨てるか捨てないか、ジャッジをする手前で思考が止まっていたことに気づかされました」
 とてらもとさんは話す。


「片付けに対する考え方が変わった」と話すてらもとさん

「誰かにもらったとか、高かったとか、そういう理由で捨てられないことって多いと思うんですけど、それって自分が感情を勝手にモノに紐づけているだけなんですよね。モノの使命って使われることに尽きると思うので、シンプルに使っているか使っていないかで、捨てるかどうかを判断すればいいだけなんです。その点に気づいただけで、不要なモノを捨てることができ、片付けられました。今は、はっきりした理由なく残しているモノはありません。なぜ家にあるのか、聞かれたら全部理由を答えられるという感じです」
 子育てしながらの片付けだったので、隙間時間でやるしかなかった。しかも思考が必要なので、それなりに疲れる。2年くらいかけてやっと家中が片付いたそうだ。
「何年もかけて片付いていない部屋を作り上げたのだから、講座で話を聞いてすぐに片づく、というものでもないんですよね。1歩1歩、階段を登った感じで。たとえばクローゼットは、1回全部片付け切った!と思っても、そのあと2周も3周も片付けました。その度にどんどん服が減らせていくんです。1周目に片付けた時に、すぐ3周目の状態にできれば早いのではと思ってしまうかもしれませんが、1周目の時と、2周目・3周目の時の自分は、フェーズが違うんです。価値観や見方が変わるというか、なりたい自分像が変わっているんですよ。そういう自分の中にある変化が、2周目・3周目の片付けには反映されているのだと、片付けながら思いました」


片付けられないのは、「心の決着」がついていないから

 片付けの考え方を学んで実践したことで、人生がどんどん良くなっていく実感があった。この体験をたくさんの人に届けたいと思い、2019年に整理収納アドバイザーを名乗って活動できる「整理収納アドバイザー1級」を取得、2020年から片付けのプロとして活動するようになった。
 整理収納アドバイザーとしてお客様に接する中でわかったのは、片付けたいのに片付けられない人は、「頭と心が一致していない状態」ということだそうだ。
「1回目で捨てられなくても、『最初はモノを減らせなくても大丈夫ですよ』とお伝えしています。まだ片付けができない人は、頭では捨てないといけないとわかっているのに、心が捨てたくないと言っている状態なんですよ。心の決着がついていないということです。片付けのお手伝いをするときは、『フリマアプリで売ってみるのはどうですか』とか、『どなたかに譲ってみるのはどうですか』という捨てなくていいような提案を投げかけるのですが、返ってくる答えによっては『この方はまだ心が嫌がっているな』というのがわかります。そういうときは、もうそれ以上手放すことを促しません。頭と心が一致していない時って、どうしたって行動できないものなんです。その方の頭と心が一致するタイミングを待つしかない。どうしたら一致するのかというのは、本当に人それぞれです。SNSで片付けの発信を見て感化されることで決心がつく方もいるし、仕事でもっと成長したいというようなモチベーションがきっかけになる方もいらっしゃると思います。一致させるためのヒントみたいなものをお伝えして、その方が向かいたい未来へ行けるようにサポートするようにしています」

自己分析ツールで、片付けのアドバイスがスムーズに

 てらもとさんは、「自分辞典」という自己分析にも興味を持ち、自分辞典アドバイザーとしても仕事をするようになったそうだ。自分辞典とは、ユングの心理学をもとにした自分の内面を知るツールで、内面の特徴を、外交的・内向的/過去思考・現在思考・未来志向の組み合わせによって6つの「カラー(=資質)」に分類するというものだ。自分はどの傾向が強いのか知ることで、自分自身の特質を活かしやすくなったり、6つの「カラー」の違いを理解することが人間関係構築にも役立つらしい。webサイトから無料で受けられる簡易診断もあるが、「自分辞典アドバイザー」と話しながら38問の質問に答えて自分の傾向を知る「資質診断」を受けると、自分自身の「カラー」をより正確に把握できるそうだ。


 整理収納アドバイザーの仕事をする上でも、お客様の「カラー」を意識することで片付けがスムーズに進むことが多いという。片付けサポートで意識している「カラー」別のポイントを聞いた。

 ◯オレンジ/外向的過去思考

「オレンジは過去思考が強いので、思い出のモノなどを手放すのが苦手です。アルバムなどを多めに保管しておけるスペースを確保するようにしています。モノにまつわる思い出エピソードがよく出てくるので、話を聞く時間を特に大切にしています」

 ◯レッド/外向的現在思考

「レッドは、感情で動きがちなのでモノをノリで買いやすいです。私自身もこのタイプなので、よくわかります。レッドの方のおうちはコスメがすごく多かったりしますね(笑)。モノが増えやすいので、増えやすいジャンルのモノのストックを保管する場所を設けて、代わりに他のジャンルのものをがっつり減らす、などの工夫をします」

 ◯イエロー/外向的未来思考

「イエローは、未来思考の傾向が強いんです。未来のことをイメージしやすく、想像するとすごくワクワクするようなタイプです。だから、『この場所はどうなっていたら理想的ですか?』みたいな質問をすると、ノリノリで答えてくれることが多いです。そうすると、その理想に向かって作業が進みやすくなるんですよ。また、ものごとの処理能力が高くて進め方にスピード感があるので、イエローの方に接する時は頭をフル回転させています(笑)」

 ◯ホワイト/内向的未来思考

「ホワイトも未来志向が強いので、未来を見せてあげるような話をすると、楽しく片付けができます。独自の世界観があり、自分の中で思考が広がっていくタイプなので、なにかをお伝えしたときに納得していただけるまでタイムラグがある場合があります。そのため、考えていただく時間を大事にするよう心がけます」

 ◯グリーン/内向的現在思考

「グリーンは、段取りをすごく大切になさいます。全体的な流れや、どういう進め方をするのかなどを気にされます。『結論から先に言ってください』とおっしゃる方が多いイメージです。グリーンの方には、先に段取りを説明して安心していただきます。また、自分で考えて進めたいタイプでもあるので、こちらから指示するようなことは口にしないように気をつけます」

 ◯ブルー/内向的過去思考

「ブルーは、すごく謙虚で繊細で、相手の気持ちを汲み取る能力が高いんです。こちらの居心地を良くしてくれる天才なのですが、一方で自分の気持ちを置き去りにしやすい傾向があります。なるべくたくさん要望を聞くような質問をしてあげて、好き放題言っていいんだと思っていただけるように心がけたり、1人で思考していただく時間を作るように意識しています」

整理収納アドバイザーをする中で気づいた、仕事への思い

 てらもとさんのお客様は、なにかしらの悩みを抱えている人が多い。片付けられない自分を変えたい、自分に自信を持ちたい、人間関係を良くしたい。そんな人たちのサポートをする中で、てらもとさんはあることに気づいたという。


「自分がやってきたことを振り返って、私って仕事を通じて何がしたかったんだろうと考えたことがありました。そのとき気づいたのが、悩んでいる人が1歩前に進むための役に立ったと実感できた時が一番嬉しいということです。私はどちらかというと片付け自体がそんなに好きなわけじゃなくて、むしろめんどくさいという感覚がわかるほうです。だからお客様にも、片付けなんて早くクリアして欲しいんですよ。モノに振り回されている場合じゃないよ、あなたの才能や魅力が、片付かないことで押し留められているなんてもったいないよ、と思うんです。ひとりでも多くの人が本当にやりたいことに時間を使えるようになって欲しいという思いで仕事をしています」
 片付けでモノを動かすと、目に見える現実が変わってくる。片づけるという作業によって起こる変化が、自分を肯定できる力になる。「今、私前に進めているじゃん」という感覚が、停滞していた人を前に進めているように思う、とてらもとさんは話した。
 人生は、思い通りにならないことの方が多い。でも目の前のモノだけは、自分の意思で思い通りにできるのだ。モノをちゃんと自分の思い通りにコントロールすることが、行き詰まっている状態を動かす力になるのかもしれない、と思った。

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