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慶應SFC破滅論・序説

繰り返しになるが、安定化の流れが生まれるのは当然のことなので、SFCとてその流れを避けることはできないし、そのような志向をもった個人が悪いのではない。だが、その流れをよしとしない人、SFCスピリッツに満ちた教職員や学生もまだまだ多い。安定化の大きな流れに全力で抗うことはできる。どこまで抗うのか、どのように抗うのか。

ちょっと過激なことを言えば、30年も生き残らずに、20数年で終わりになっていれば、SFCは伝説になっていたのかもしれない。たとえが少々偏っているかもしれないが、伝説に残るミュージシャンの多くは27歳で人生の幕を閉じている。ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン、等々。ヘルシーになってミネラル・ウォーター片手に還暦や古希を祝うロック・ミュージシャンが増えているが、そんなもの全然魅力がないではないか。

卒業生もそんなSFCは見たくないだろうし、魂が死ぬくらいなら、破滅するくらいにラディカルに活動して、伝説になればよかったのかもしれない。少々過激な話になったので、ここで一呼吸して、「終わりのはじまり」を別の角度からの解釈を考えてみたい。

【特集:SFC創設30年】はじまりの終わり、終わりのはじまり(脇田玲)
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2020/10-3.html

上記はSFC30周年の時に三田評論に挙げられた連載記事のひとつである。脇田元環境情報学部長の鋭い指摘が記載されている。

「SFCはキャンパス革命だった、それは正しい、なぜなら過去形だからだ。すでにデジタルは普及し、多くの大学で当たり前になっている。次に何を仕掛けるか考えなくてはならない。」とSFC創設者のひとり井関先生は2000年のインタビューで答えた。

滝本作成

2010年に刊行されたSFCの意義を問うた『未来を創る大学』で熊坂先生はSFC3.0の必要性を述べた。

滝本作

そして改めて、初代学部長・カトカンの言葉を振り返ってほしい。「SFCよ、はばたいてくれ。」と。

滝本作

少なくともSFCは改革のためのキャンパスだったはずなのだ。

そして改めて脇田先生の論考に戻ろう。1990年の設立当初の思いは、2000年のインタビューで成熟しており、2010年には悪く言えば低迷、2020年は混迷したと言えるのではないだろうか。それでもSFCが生き続いているのは初代の影だけがひたすら権威性を増しているからこそだろう。

だから面白い人はSFCという場所で暇つぶしをし、SFCの外でやりたいことをやる。そこにこれからのSFCを象徴するカルチャーの光はない。すでにそれは形式としてのSFCであり、道具としてのSFCなのだ。

ここまでが「はじまりの終わり」。1つの物語はハッピーエンドを迎えようとしている。日本のインターネットの父と呼ばれる村井純教授が昨年度をもって環境情報学部を定年退職されたことは象徴的だ(現在は慶應義塾所属の教授)。石川忠雄元塾長が音頭をとってはじまった大学改革は、SFCの開設30年を経てその目的をほぼ達成し、終わりを迎えようとしている。

すぐに浮かぶのは、これから30年かけてゆっくりと終わっていくという解釈だ。これまでの30年間でSFCは安定化した。

これはSFCの精神にとっては死を意味する。社会の先導者たるを欲するSFCは、常に挑戦してきた。挑戦には失敗がつきもので、程度の差はあるが、それは安定した運営と矛盾する。

SFCのスピリットが死ぬとは、普通の学部になるということだ。慶應義塾の学部の1つとして延命を図り、情報化した社会の中で自らをスタンダードとしてポジショニングすることだ。教員でも学生でも職員でも、SFCのメンバーは常に独立自尊、自我作古の精神で、アウェーの道を歩んできた。世の中のスタンダードとして生きることは、この精神を置き去りにして、先人の業績の上にあぐらをかいて、余生を生きることである。

【特集:SFC創設30年】はじまりの終わり、終わりのはじまり(脇田玲)
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2020/10-3.html

Covid-19中に1期生とこのことをクラブハウスで話していた。そこでの総意はスクラップ&ビルドだった。今のSFCはあまりにも全てが整い過ぎている。いや、時代がそうなんだろう、あらゆる都市は動かなくても完結する。だからそこに創造性の種はない。建築物が、虚構が、人工物が、ますます権威を帯びてきているのなら、破壊するしかないのだろう。

阿川 でもさらに言えば、私は世界も慶應も衰退する可能性があると思っている。より良くなる保証はどこにもない。どういうふうに衰退するか、衰退するときに何をするのかが大きな課題であって、大事なミニマムなところはしっかり押さえつつ緩やかに歳を取りながら時代の要請に応えるというのも、悪くはないかもしれない。そしてその土台の上に立って、いつか突然、SFCや慶應から出た人が私たちの考えを根本から変える新しいパラダイム、まったく違うパラダイムを作ってくれるかもしれない―。これは日本全体の重要な課題でもあると思っています。
 パラダイムを変えたという意味では、幕藩体制が250年続くなかで福澤という人が出たのは、ほとんど奇跡だったと私は思う。外国にちょっと行っただけであれだけの観察をし西洋文明の本質を理解して帰る人が出た。あれから150年経っても福澤先生ほどの考えに達した人は慶應にはいない。福澤の同時代人ものちの人たちも、ある意味で日本を超えていたこの人をなかなか理解できず、彼の思想が危険と見なされたことさえあった。第二次世界大戦の後、ようやく認められるようになった。まだまだ定着したとは言えないけれど、ある意味福澤は常に新しい。
 だから、古くなったSFCは滅びてもいいし、総合政策が滅びてもいいし、慶應が滅びてもいいけど、その焼け跡、滅亡の跡から何か新しいものが、慶應のタネ、SFCの遺伝子をもって再生することがあるかもしれないと思っています
 その形態は二つあると思いますけれどね。シュンペーターみたいに破壊して創造するのか、それとも徐々に変化が起きて、気がついたらすっかり変わっているのか。実は大きく舵を切った人がいたのだけれども、本人は言わない、よく分からない。しかしその中で、それぞれの教員、学生がベストを尽くして、気がつくと総合的な力がついて良い方向に向かっていたというのが良い。
 私は保守主義者ですから後者の方が好きだけど。でももしかすると破壊が必要なのかもしれない。

見誤ってはいけない、我々はSFCのためでもなく、慶應のためでもなく、世界を変えるために行動しているのだと。

だから私はこれ以上、水増し作業をする必要はないと思うのだ。すでに動かなくなった車でいくら排気ガスを出してありし日を語っても害でしかない。ここは潔く、記録に残して閉じようではないか。役割は果たしたのだと。

土屋 「もう30年、まだ30年」ですから、次の30年があるといいなと現職としては思いますけれども。
河添 30年はたぶんないと思うね。
阿川 あるよ。だって、組織はここまで来ちゃうと生存が目的になっちゃうから。面白い学校ではなくなってしまうかもしれませんけど。それを、あるときパラダイムの違う人が現れて、あるいはとても指導力のある人が出て、変化をもたらす―。それを期待しています。
 そもそもSFC自体、慶應義塾の既存の秩序の中にいて倦き足らなくなった人たちが、もがきながら別のところに新天地を求めた、そのまだ未完成な試みの一つの成果です。新大陸に丘の上の町を打ち立てようと大西洋を渡った17世紀英国のピューリタンのようなところがある。当時の塾長以下よくやったと思いますよ、本当に。何にもないところにこのキャンパスを作ったんですからね。この建物一つを作るのにどれだけの会議をして、どうやってこの階段を作ったのか、大変な時間とエネルギーを使っていちいち考えて。それが本当にベストだったかどうかわからないけど、その人たちの努力というのもきっと出会いから生まれたんです。

[座談会]SFCは滅びてもいいし、総合政策が滅びてもいい。黙ってベストを尽くせ。(阿川尚之、河添健、國領二郎、土屋大洋)
https://gakkai.sfc.keio.ac.jp/journal/.assets/SFCJ21-1-01.pdf

SFCが破滅する時、SFCに魅了されてきた人たちはついにSFCから解放され、世界へと羽ばたくのだ。それはSFCではないかもしれないが、少なくともSFC以上のものなのだ。

<参考文献>

<関連文献>
・「フツーになった慶応SFC “異分子集団"は今や昔」東洋経済、https://toyokeizai.net/articles/-/558441
・「慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)とは何だったのか」日経ビジネス、https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/070200076/
・「慶応SFCは二子玉川に移るべきか?」、https://agora-web.jp/archives/1657487.html
・「「慶應ブランド」が早稲田に劣勢の理由、SFC改革精神の喪失と不祥事連発」、https://diamond.jp/articles/-/259292
・「SFCの転落が課題の慶應」、https://gendai.media/articles/-/67879?page=6
・「慶應大を襲う「SFC包囲網」青学・立教・横浜国立の新学部が脅威になる理由【文理融合系54学科10年間の偏差値】」、https://diamond.jp/articles/-/332467
・「慶應SFC30年、立命館APU20年――日本の大学をどう変えたか」、https://www.asahi.com/edua/tag/%E6%85%B6%E6%87%89SFC30%E5%B9%B4%E3%80%81%E7%AB%8B%E5%91%BD%E9%A4%A8APU20%E5%B9%B4%E2%80%95%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%82%92%E3%81%A9%E3%81%86%E5%A4%89%E3%81%88%E3%81%9F%E3%81%8B/2
・【セッション】SFCこそが慶應のあるべき姿である 「未来創造塾の挑戦 / SBC出張カンガク会議」、https://sfcclip.net/2015/11/22107/

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