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絆(妄想ストーリー)


ライブ会場は熱気に包まれて
ミストシャワーが噴き出しても
湿度は下がらない。


ヘムちゃんと無事にギリギリ開演時間に
指定座席へと滑り込んだ。


聴きたかった曲を身体で聴く
ライブがこよなく好きだったことを

思い出した夜、ステージに立つ
ボーカルの着ている服は

懐かしく、いつもの色でデザインも
間違いなく私が彼にプレゼントした手作りの
シャツによく似ていた。


まさか…。


嘘みたいだけど、私が作った服は
お店によく売っているような色でも

デザインでもない個性的なシャツだったから
目を疑った。信じられない…。


私は知らない曲だったけど
心に染みる一曲に


《ずっと友達だ》


こんな歌詞。
あの人かもしれない。



じゃあこのバンドのボーカルは…



バンドで食っていきたいという彼と
別れる時、ビッグになってね!って

本気で応援してたし、彼ならやれるって
思った。


あれから15年経って
彼の名前が音楽業界に出てこないこと

気になってたけど、今になって
ボーカルの人は一体誰なんだろう??

別れる時、不思議なこと言ってたっけ。


必要な時には会うことになってる。
必要ない時は会わないだけだって。



ずっとどこかで繋がってる【絆】が
あるのかもしれないって
どこかで信じていたな。


こんな形の演出で再会なんて
あの人らしいや。


別れてから前を向けずにいた
私に背中を押してくれたような


《ずっと友達だ》

《必要な時には助けにくるよ》


間接的な応援かもしれないけど
そんなやり方そのものが懐かしくて。

照れ臭そうに、でも困ってる私に
いつも全力で寄り添ってくれて
助けてくれてたこと、思い出して。


昔も今も変わらず

温かい優しさを受け取れた気がしたんだ。


私も一生友達だと思ってるし
だからいいかげん私も

そろそろ、前を向く
瞬間がきたのかもしれない。


『ヘムちゃん、なんかわかった気がする』

『ん??』

『後で話す。』


緊張でお地蔵さんみたいな顔だった私は


大好き曲が始まると、

気温33℃の日のコテージで食べる
プリンアラモードの上の溶けたアイス

みたいに緩んた笑顔で思い切り
腕を振ってたんだ。



ボーカルが何者かはわからないけど
ヘムちゃんもそうだし

皆んなに応援されてるって思えたことは

私の一歩前進なんだと思う。



今まで何から守ってきたのか
わからない鎧を捨てる瞬間がきたのかも
しれない。


元々守る必要なんてなかったことさえ
知らなかったけど、


鎧のお陰でヘムちゃんと出会えた訳で。


『今日来られて良かった。』

『あ、うん。』

『いつも根気よく付き合ってくれてありがとう。』


『お、うん。』


とても恵まれている。
と、いうことに気が付けないことは
不幸だけど、

今、幸せだ!
と全身で味わうことが出来て
どんな時でも不変に幸せを感じることが
可能だと知っている人にとって
この世は天国。


そう、ここは天国なのではないだろうか。



ずっと友達
ずっと繋がってる

と、信じられる人と出会えて
目の前にいてくれる


幸せを今、生まれて初めて
噛みしめてみた。




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