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シン・ゴジラって「日本のいちばん長い日」だったんですね

僕はいつも映画でも音楽でも「作品の大した知識を入れずに」観たり聴いたりするのだが、『日本のいちばん長い日』もそうだった。観終わったあとにネットで検索してみたら「あっ!」となった。監督が岡本喜八だったのだ。それで合点がいった。『日本のいちばん長い日』を「シン・ゴジラだな」と思って観ていたからだ。

『日本のいちばん長い日』はいわゆる戦争映画。なのだがよくある戦争の最前線で戦う兵士にスポットを当てた映画ではない。舞台は太平洋戦争末期の日本本土。ポツダム宣言の受諾をめぐり、玉音放送の流れる直前までに行われた日本の閣僚の談義と各所で起きたクーデターの、8月14日から終戦日・8月15日までの「日本のいちばん長い1日」を映した作品。クーデターは陸軍省の若手士官たちが起こしたものを中心に描かれている。

これを観ているあいだ「うわあ、これ『シン・ゴジラ』じゃん」と思って観ていた。『日本のいちばん長い日』の、タイトル登場までの導入部分。閣僚の談義の様子とそこに見られる駆け引きや葛藤、大臣や省庁の役人・軍隊の士官などの名前と役職名や土地名のテロップ、画面の構図やカメラ位置・カット割り、そして話のテンポなど、『シン・ゴジラ』と似ている部分がこれでもかというくらい作品内の随所にあった。『シン・ゴジラ』は1日どころかゴジラの最初の進撃から最後のゴジラ凍結まで数週間を映しているが、閣僚の談義と駆け引きや葛藤はまるでそのままだし、テロップはエヴァ以前から庵野秀明が多用している手法。タイトル登場までの導入部分はシン・ゴジラどころかシンエヴァをも彷彿とさせる。画面の構図やカット割は具体的にここがそっくりという点があるわけではないが、見ていれば「うわ、『シン・ゴジラ』(※もしくはエヴァ)っぽ~い」と感じてしまうはずだ。

もっと細かいところだと、『シン・ゴジラ』で長谷川博己演じる矢口が高良健吾演じる志村にボソボソッと小声で話しかけるシーンがあり『日本のいちばん長い日』の閣僚談義中にこれと同じシーンが見られる。大杉漣演じる大河内総理の会見放送の文章作成も同じ。玉音放送の天皇陛下のスピーチ文の作成であっちを立てればこっちが立たない、まとまっても直前文章の書き換えに加えさらに閣僚会議の承認が必要…と結局戦後から70年後も変わってないんかい!とツッコみたくなる(笑) また『シン・ゴジラ』ではないが、阿南陸相らがつけている白手袋はエヴァの碇ゲンドウを思い起こさせる。
そして物語のラスト、竹野内豊演じる赤坂の「瀕死の日本を立て直す」「スクラップアンドビルドでこの国はのしあがってきた。今度も立て直せる」のセリフだ。阿南陸相のもとを訪れた井田と竹下に対し阿南が「これから日本の歴史が変わるのだ」「たとえ歴史がどう変わろうとも、日本人ひとりひとりがそれぞれの持ち場で生き抜き耐え抜き、そして懸命に働く。それ以外に再建の道はない」「生き残った人々が二度とこのような惨めな思いをしない日本に、なんとしてでもそのような日本に再建してもらいたい」と話したこのセリフ。腹を括らなければならない敗戦とゴジラとの戦いに勝利しなければならないという違いがあり、形は違えど、言っていることはほぼ同じ。結局作品を通して伝えたかったことまでもが同じなのだ。

さらにはオープニングの「東宝映画作品」の表示。『日本のいちばん長い日』は「創立35周年記念映画」と表示される。そしてゴジラシリーズも『日本のいちばん長い日』もどちらも東宝映画作品。庵野が何も考えずこんなことをしてるとは思えない。狙ってやってるはず。
なので「うわあ『シン・ゴジラ』だな」と思うと同時に「庵野、絶対これ観てるよなあ」と思ったのだ。

そこに『日本のいちばん長い日』の監督が岡本喜八という事実。実は庵野秀明は岡本喜八の大ファン。好きな映画監督は?と聞かれたら「真っ先に岡本喜八と答える」と話すくらい。なにか資料がないかなと思って探したらあった。アニメージュ1997年1月号で庵野秀明と岡本喜八は対談していた。

一部抜粋すると、
庵野「『日本のいちばん長い日』とか『沖縄決戦』は何度も何度も観てるんですよ。一時期、絵コンテをやってる時のBGVにしてまして、BGVのつもりがついそっちの方を観てしまい、「ああ、3時間つぶしてしまった」ということになるんですが(笑)」
と語っている。やっぱり観ていた(笑)
さらに岡本喜八がエヴァとトップをねらえ!を観て面白かったと言われ、
庵野:ありがとうございます!さっきから汗が出っぱなしです(既に緊張している)。
と恐縮しまくりだ。対談は映画用語の応酬でそのジャンルの知識がない人には読みづらいかもしれないが(笑)、ホントに庵野は岡本喜八好きなんだなあというのが伝わってくる内容になっている。

つまり『シン・ゴジラ』とは『日本のいちばん長い日』の、岡本喜八のオマージュ作品だったのだ。今まで僕は『シン・ゴジラ』は庵野の特撮好きを存分に詰め込んだ『ゴジラ』のオマージュだと思っていた。それは半分正解だった。もう半分は『日本のいちばん長い日』の、岡本喜八のオマージュ、それだった。『シン・ゴジラ』でもうひとつ、自らゴジラとなった牧悟朗博士の写真はなんと岡本喜八ご本人。このとき既に岡本喜八は逝去されていたので故人として出演を果たしていた。特撮への愛、岡本喜八への愛、そして東宝映画作品への愛。それらすべての愛を注ぎ込んだ庵野秀明の『シン・ゴジラ』は、世界中の行く先々でライブ衣装で存分にゲイ・アピールしてその日の夜の相手を探していたというクイーンのフレディ・マーキュリー級の公私混同だったのだ。

トップをねらえ2!を観た後で、なおかつ8月15日が終戦日でということで本当に何気なく観た映画作品だったのだが、まさかこんなところでまた庵野秀明に繋がってしまうという偶然。そんなつもりはなかったのにと思わず笑いが出てしまったw まあでも『シン・ゴジラ』の核心に迫れたのでこれはこれで楽しかったです(笑)

『日本のいちばん長い日』は1967年版と2015年のリメイク版があるが、『シン・ゴジラ』が好き、庵野秀明作品が好きという方はぜひリメイク版ではなく岡本喜八監督の1967年版を観ていただきたいと思う。いや、どちら様もまずは1967年版を観てください(笑) 古い新しい関係なく名作ですよ。出演には「世界のミフネ」こと三船敏郎のほか、若かりし頃の児玉清や加山雄三、黒沢年雄らを見ることもできるのでそっちの方向でも楽しめると思います(笑)

『日本のいちばん長い日』はアマプラだとレンタルですがNetflixなら月額で観れます。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E5%8D%9A%E5%B7%B1/dp/B01MQU542F

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