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レイアウトの自由度とキー操作性を両立したノートテイキング「鍵記」

稲葉 皓信(いなば てるのぶ)

 ノートテイキングアプリは,アイディアの整理や情報の共有,プロジェクト管理など,リアルタイムで情報を整理する便利なツールとして欠かせない存在である.しかし従来のノートテイキングアプリはマウス操作が主流であり,キーボード操作を主とした高度な自由度を持つノートアプリは珍しく,手を離さずに情報を入力することができないという問題があった.

 そこで稲葉さんは,ブラウザ上で動作し,キーボードのみで操作可能なノートアプリ「鍵記(kenki)」を開発した.このシステムを使うことで,Markdown言語やキーボードショートカットを駆使して効率的にノートを制作することが可能となる.

図 -1 「鍵記」アプリのスクリーンショット

 鍵記(kenki)は,マウスを使わずキーボードのみで操作が可能な新しい操作体験を提供する.ユーザがスムーズにノートを作成・編集できるよう,Markdown言語やキーボードショートカットなどの機能を実装している.それによって,ユーザがキーボードから手を離さずに情報を入力することが可能となっており,情報の整理やアイディアの記録がより効率的に行える.Markdown言語を用いてビジュアルノートを編集するというツールはこれまでにもあったが,既存の手法では,自由なレイアウトを実現するのは難しいという制限があった.そこで,本プロジェクトでは,Markdown言語とキーボードショートカットを組み合わせて,文字を入力したりオブジェクトを自由にレイアウトしたりすることを可能にしている.

図-2 キーボードのみで操作が可能なUI・キー操作への対応

 また,アプリ内で利用できるショートカット一覧や操作ガイド,操作動画の作成なども行われ,ユーザが「鍵記」を最大限に活用するためのサポートも充実している.

 キーボードの操作のみで,ビジュアルなオブジェクトも扱うことができるノートアプリを作成したい,というクリエータの稲葉さんの情熱に支えられ実現したという面が非常に大きい.納得のいく操作性を実現するために何度も試行錯誤と繰り返しながら開発に取り組み,キーボード操作に特化したビジュアルノートアプリという新たな可能性を示した点で,高く評価できる.彼の創造力と技術力の賜物である.

 プロジェクトの開始当初,稲葉さんはアルバイトでの開発や既存システムをベースとした開発の経験はあったものの,プロジェクトの発案から要件定義,実装,そしてフィードバックを基にした改善までの一連の開発プロセスを1人で行った経験はなかった.しかし,プロジェクトが進むにつれて,彼自身が開発を推進していく自走力を見つけ,それを十分に活かすことができた.また,彼の情熱と技術力,そしてユーザへの配慮が見事に結びついた本プロジェクトを通じて,さまざまな挑戦が可能であることが示された.未踏プロジェクトを通じて,技術力だけでなく,プロジェクトマネジメント能力などを大きく向上させるクリエータは多い.稲葉氏も未踏を通じて大きく成長したひとりである.

 そして,成果発表会では,ほかの発表を聞きながら実際に「鍵記」を使って作成したノートが稲葉氏によって披露された.キーボードのみを駆使して多様なオブジェクトを使ったノートの作成過程は圧巻であった.今後も機能拡張に取り組んでいくということで,より多くのユーザに使われるアプリに育て上げることが期待される.

(担当PM・執筆:岡 瑞起)

[関連URL]
https://kenki-editor.vercel.app/

[統括PM追記] エディタについては,vi派,emacs派の宗教論争がいまだに続いているような気がするが,かなり筋金入りのvim遣いである稲葉さんは,マウスを使わないでテキストボックスを移動したり,サイズを変更したり,線で結んだりといったマウスが得意とする作業もすべてvimコマンドの自然な拡張という形で実現した.そういう意味で哲学はバッチリで,一貫性のあるUIデザインとなっている.かく言う私は結構頑固なemacs派なので,鍵記と同じスタイルのマウス不要ノートアプリが欲しくてうずうずしてきた.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)