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UVプリンタを用いたラインストーン造形システム

島元 諒(しまもと りょう)

 ラインストーンは,装飾やアクセサリーに用いられる小さな装飾用の石で,さまざまなパターンやデザインが可能である.従来,ラインストーン作品は手作業で作成されていたが,手間がかかるため一般のユーザにとっては敷居が高いという課題があった.

 そこで島元さんは,UVプリンタを活用し,デザインから印刷まで手軽に行えるシステムを開発した.このシステムを使うことで,子どもや細かい作業が苦手なユーザでもWebアプリケーション上でデザインを手軽に行え,さらにUVプリンタで短時間に制作することが可能となった.

 UVプリンタは,紫外線硬化インクを使用して多種多様な質感を出力できるため,自由な表現を持つラインストーンの印刷が可能となる.UVプリンタを用いてラインストーンを印刷するという研究はこれまでにも存在していたが,既存の印刷手法では,半球形状の造形のみが可能であった.そこで,本プロジェクトでは,多様な形状のストーンを造形する新たな手法を開発した.また,より美しい輝きを持つラインストーンを目指し,ミラー素材を用いたり,底面パターンを用いたりといった工夫を重ねた.その結果,図-1に示すような,リアリティのある強い輝きを持ち,さまざまな色の反射の変化などをもったラインストーンの印刷が可能となった.

図-1 ラインストーンの作例

 ラインストーンの印刷には,レンズ造形手法を応用し,透明インクを重ねて印刷することで造形する.具体的には,上面が平らになるように一定の比率で図形を縮小して重ねて印刷し,最後に表面の積層痕を埋めて滑らかにするために光沢印刷を行う.光沢印刷は一定量の透明インクを噴霧し,しばらく時間を置いてから紫外線を照射してインクを硬化させ,表面に滑らかな光沢を出すUVプリンタの印刷方法である.その結果,形状自体はきれいに造形することができ,星の形状では鋭角のエッジを表現することが可能である(図-2).

図-2 ストーン形状の一例

 また,誰でも手軽にラインストーンを使ったデザインを可能にするアプリケーションの開発も行われた.アプリでは,事前に用意されたさまざまな形状のラインストーンを画面においていくことで手軽に好きなデザインを作ることができる.また,3Dプレビュー機能により,実際に印刷されるラインストーンの見え方を事前に確認することもできるようになっている.

 子どもから大人まで幅広い年齢層のユーザに実際にアプリを使ってもらい,ラインストーンのデザインを体験してもらうワークショップも開催した.その結果,人や動物などの絵を大きく表現した作品や,文字を表現した作品,模様を表現した作品など,とても多彩な作品が制作された.印象的な作品には,直径7mm以上の大きなラインストーンを利用して車のライトやタイヤを表現したり,大きな異なるカラフルなラインストーンを規則的に並べることで模様を表現したりといったデザインもあった.また,最も多くラインストーンを使った作品には,1.0mmという非常に小さいライントーンを1,000個以上使った,市販のラインストーンを用いた手作業の制作では困難な作品もあり,本プロジェクトのシステムならではの表現が生まれた.

 本プロジェクトは,岡が採択基準としている人々の創造性を広げる技術に合致し,クリエータの島元さんのラインストーンに対する情熱とセンスが注がれたプロジェクトであった.

 成果発表会では,ワークショップ参加者が作成した作品に加えて,島元さんがデザインしたさまざまなラインストーン作品も披露され,その独自の創造性と多様性を通じて,新たな表現手法の可能性が広がったと感じている.

(担当PM・執筆:岡 瑞起)

[統括PM追記] ラインストーンのデコでスマホを飾っている人はたくさんいると思うが,これを作るのは実はかなり大変な作業ということを初めて知った.UVプリンタは高額だし,そもそも利用料も高いから,失敗する前にアプリだけで簡単にデザインできるこのシステム(まだ名前はないようだ)は,喜ばれそうだ.私は山梨県の名産である印伝が好きで,財布などはそれにしているが,印伝は鹿革に漆をあたかもラインストーンのようにあしらった伝統技芸である.島元さんは印伝の現代版を手軽にデザインできるようにしたと言える.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)