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未踏の第29期スーパークリエータたち:編集にあたって

竹内郁雄(IPA未踏IT人材発掘・育成事業 統括プロジェクトマネージャ)

 未踏事業で採択され,優れた成果や成長を示した人たちを未踏スーパークリエータと呼ぶ.実は数年前から,未踏事業は3つの事業に拡大しており,ここで「未踏事業」と呼んでいるものは正確には「未踏IT人材発掘・育成事業」という名称で,年度始めに25歳未満の若い人たちを対象とした事業で
ある.

 未踏事業は2000年度にミレニアム事業として始まったが,この年次報告は,2012年度から「未踏IT人材発掘・育成事業」(以下,この事業だけを指すときは,「未踏IT」と略記する)に採択され,スーパークリエータとして認定された若い人たちの業績や人となりを紹介するものである.日本の若い才能溢れるIT人材の元気さや多様性を広く産業界や学界に知っていただきたい.若い彼・彼女らは,必ずや日本のITを活性化してくれるものと信じている.実際,20年以上の歴史を持つ「未踏」はすでにブランドを確立しており,2023年度からはビジネス化や社会的に意義の高いプロジェクトを実施する「未踏アドバンスト事業」が大幅に増強された.この勢いはさらに続く予定である.

 この記事では若いIT人材を育む「未踏IT」で素晴らしい成果を出したクリエータだけを紹介するが,これからの時代を担う若い人材に刺激を与えたいからである.

 2022年度の第29期未踏クリエータは計37名(21プロジェクト)で,そのうちの25名(15プロジェクト)がスーパークリエータとして認定された.2014年から認定率は右肩上がりに増え続けてきて,28期は50%と一服した印象だったが,今年はまた67.6%に戻った.スーパークリエータの認定は相対基準ではなく,絶対基準であることをお断りしておく.そんなに多くといいのかという声も出そうだが,この記事で紹介された彼・彼女らを見ると首肯いていただけるだろう.

 今年度,特に印象的だったのは,過去にも未踏に応募したが採択されず,今期採択されてスーパークリエータに認定された人の多さである.具体的には,皆川達也(5回目),内田郁真,スコット・アトム(3回目),三林亮太(3回目),阿部優樹,辻口 輝(2回目)竹村大希(2回目)の7氏である.過去と同じようなテーマの人もいれば,まるで違うテーマで応募してきた人もいる.

 未踏では伝統的に不採択の人にも,丁寧な不採択理由を送るようにしている.これが捲土重来の,さらに先鋭度を増した提案につながっているのではないかと自負している.

 いつものことであるが,今期も低レイヤからWebアプリまで幅広くバランスよくスーパークリエータが選ばれた.未踏の最大の特徴の1つである多様性の面目躍如である.

 2022年度の未踏ITもコロナ禍の影響を受けたが,ハイブリッドな会議や会合が増え,常態に少しずつ戻ってきた感がある.コロナ禍の副作用か,クリエータたちはもうリモート開発にすっかり慣れてきたようだ.

 この紹介記事は.情報処理学会誌がWeb化への大きな転回をした2021年度から,担当PMにスーパークリエータの紹介をWeb記事として書いていただき,この導入記事からは,そこへのリンクを貼ることにした.それぞれの紹介には短い統括PM追記として,お邪魔かもしれないが,私のほうで少しエピソード的な情報を追加している.

 リンクの紹介は,これまでに倣い,代表者であるクリエータ名の50音順とする.タイトルは正式なものではなく,読みやすく憶えやすい「名は体を表す」キャッチに変えてもらった.なお,2023年2月18〜19日の2日間にハイブリッドで開催された成果報告会 (Demo Day) のすべての動画はIPA channel
https://www.youtube.com/user/ipajp/
で見ることができる.最近のプロジェクトはデモなど,動画で見ないと面白さや意義が分からないものが多いので,興味を持たれた方,スーパークリエータ以外の発表にも関心がある方は,つまみ食い的に見ることもできるので,ぜひそれをご覧いただきたい.特に,今期の山形・麻プロジェクトは瞬間芸イノチのフィギュアスケートの練習支援なので,動画を見ないことには始まらないと思う.

 この記事ではスーパークリエータだけを紹介しているが,スーパークリエータ認定に洩れた人のプレゼンにも興味深いものが多い.それは未踏修了生のその後の活躍を見ていても同様である.

 ぜひ未踏修了生の今後の活躍に注目したいただきたい.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)

■ 饗庭 陽月
ハードウェアを意識しない組込み開発環境

■ 阿部 優樹,辻口 輝
祭り運営を支援するシステム temaneki

■ 飯田 圭祐,柚山 大哉
複数のARMマシンを1つに集約するハードウェア仮想化レイヤ

■ 井阪 友哉
HDCアクセラレータ「HPU」

■ 伊藤 謙太朗
直和型の代わりにユニオン型を持つ関数型言語
Cotton

■ 稲葉 皓信
レイアウトの自由度とキー操作性を両立したノートテイキング「鍵記」

■ 内田 郁真,スコット アトム
サッカー試合映像の検索・分析システムTASC

■ 大神 卓也,奈良 亮耶,天野 克敏,今宿 祐希
麻雀プロのためのAI牌譜解析ツール 極

■ 栗本 知輝,黒木 琢央,松田 響生
VRと電動トレーニング機器を用いた筋力トレーニングシステム TRAVE

■ 島元 諒
UVプリンタを用いたラインストーン造形システム

■ 蘇 子雄,方 詩涛
スマートフォン向けにカスタマイズが可能なサイレントスピーチインタフェース

■ 竹村 太希
翻訳IME「Konjac」とInput Method抽象化レイヤ

■ 皆川 達也
抜かない型の設計支援ツールKatalystによるものづくりの自在化

■ 三林 亮太
ラップバトル対話システム

■ 山形 昌弘,麻 大輔
フィギュアスケートの練習を支援するSkate Jump Board