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最終回【同時通訳演習 第12回 振り返り】K & Y

今回の発表テーマは「Introduction to Paintings Through Impressionism/印象派を通して学ぶ 絵画入門」(発表:Mさん)でした。ふとした興味から美術館に足を運んだのを皮切りに、堰を切ったように西洋絵画(Western art)の世界に惹かれていったというプレゼンターのお話は情熱的でありながらも誰でも理解できるような配慮があり、充実した発表でした。私(Y)は有名な作品でさえも作者と繋がらないほど、基礎知識が乏しかったのですが、入念に準備し、サポートもしてくれたKさんには頭が上がりません。
それでは、今回の私たちの振り返りを紹介いたします。

1.良かった点

K:今回が最後の同時通訳演習だったのですが、過去一番下準備に時間を費やしました。まずは日本語と英語の印象派に関するビデオを一通り見て大きな流れを理解してから、ポイントになりそうな箇所を集めてひたすら背景や基礎知識を書き込んだ用語集のようなものをYさんと協力して作成しました。誰得情報になってしまい申し訳ないのですが、現在私の母が大学で美術史を学んでいることもあり、実家の母と勉強会をしてから(しかもみっちり2時間!)、Yさんと勉強会をするというなんとも面白い流れで準備を進めました。この綿密な下準備のおかげで、当日どんな流れになっても割と驚かずに訳し進めることができたと思います。また対訳を考えるよりも、内容理解に重点を置いたことで結果としてより分かりやすい訳出しにつながったと感じる箇所がいくつもありました。

例えば、Legendary paintersと発表者が発言したときに「伝説的な画家」とは訳さずに「美術界の巨匠」と訳すことができました。初回から「最寄りの訳を準備する」ことの大切さを教えられてきましたが、演習最終回にして初めてその成果が感じられた点でした。また冒頭で発表者が同じ内容を繰り返してしまうところがあったのですが、そこで実際には発言していないスライド上にある絵を紹介することで、リスナーにとって不自然ではない訳の流れを作り出すことができました。過去一番緊張したプレゼンテーションではありましたが、臨機応変に対応することができていた点は、自分でも驚きました。他にも「Ordinary landscapes, ordinary portraits, just a fruit basket on a table (...)」という原文に対して「風景画、肖像画、静物画」と訳したり、浮世絵の影響を受けた印象派(および後期印象派)画家の話をする部分ではゴッホによる「タンギー爺さん」という作品を原文にはない「画中画」というプチ情報を加えて訳すこともできました。しかし、事前準備で得た知識を加えて分かりやすくしたい!と欲が出たことが裏目に出て、自分自身の首をしめてしまった部分もありました。そこは反省点で振り返りたいと思います。

先生にもお褒めの言葉をいただいた「カギカッコ話法」の使い方は、自分の強みであると思うので、ラポールを築きやすい通訳を今後も目指し続けていきます。

Y:関根先生やパートナーのKさんからのご指摘は疑う余地なく的確でした。ありがとうございます……と前置きさせて頂きつつ、ある程度評価できると感じた点を中心にまとめたいと思います。

まずは初めて演習前に立てた目標を全てクリア出来たこと。①メインメッセージは逃がさない、②短いセンテンスで話者と伴走する、③楽しみながら集中するの3つで、これまでの演習では必ずこれらの内のどれかは散々の結果でした。今回はどの項目も進歩を感じられました。とは言いつつも③については、時間をかけて語彙を増やし続けていき、よりのびのびと実践できるようになりたいと考えています(後述)。

もう一つは、困っても黙らずに自信を持って訳出し続けられたことです。残念な誤訳も散見されましたが、調子を崩さずにより大事なメッセージを拾って訳しに行く姿勢が、出来上がってきたのかもしれません。間違った訳文の中には、反対の意味では表現できていたものもあり(これも有機的な取り組みの1つではないかと…)、小さな進歩に気づけました。

最後に、練習メニューを約1か月間毎日取り組んできた自分自身を評価したいと思います。同通演習のテーマに関わらず、基礎体力をつけるべく、これまでの英語学習に組み込むようにメニューをこなしました。大雑把に列挙しますとインプットは、日英でウェブ/TVのニュース、日刊新聞とお気に入りのポッドキャスト数本、アウトプットは新聞コラムのサイトラ、気に入った記事の朗読と隔週で翻訳コンテスト提出、といった内容でした。勤勉な受講生に囲まれながらも、ほどほどの負荷で続けました。これはすぐに過負荷でパンクする私なりの続ける戦略、もといリスク管理でした。ただ、練習においては何を行ったかよりも、行うことそのものの方がずっと大事かもしれない、と最近考えています。課題が明確であれば、練習手段・量は続ける中で最適化されていくものなのではないでしょうか。出来ないことに悲観するでもなく、出来ていることを大上段に構えるでもなく、今後も適切な訓練を続けていこうと思います。

2.悪かった点

K:演習後に先生にも指摘していただき、あとで自分の録音を聞いて絶望的な気持ちになってしまったのが、接続詞である「ですから」「このように」の誤用と乱用です。今までは本番を予想して行った自分の通訳音源を繰り返し聞くことで、自分の癖を洗い出すということができていました。しかし今回はスライド共有なしだったこともあり、心の余裕の無さがそのまま訳に出てしまっているところが多々見られました。接続詞に関しては、次が予想できずに訳し進めていくなかで、自分の中で流れがつかめたタイミングで無意識に接続詞を使い、無理やり前後をつなげようとしていることがわかりました。日本語として意味をなしていない訳出をするというのは通訳者にとってあってはならないことです。精神的な焦りを隠すために、誤った回避法を使っていることが今回の演習で明らかになったので、今後の課題の一つとして取り組んで行きます。

もう一つが、原発言を聴衆にとって聞きやすい訳にしたいという気持ちが裏目に出てしまったところです。例えば「Salon」という言葉に対して「サロン(官展)」という定訳があるにも関わらず、「フランス芸術アカデミー主催のサロン」「サロン・ド・パリ」と複数の異なる訳を出してしまい、結果としてとても分かりづらい訳出をしてしまいました。これは事前準備で得た知識を出したいという自分の欲が出てしまったのだと深く反省しています。関根先生も常に仰っている「Don't get too pretty」という原点にまた戻って練習し続けなければいけないと思いました。

Y:今回の私の改善点の総評は「今まで見過ごしていた技術的な弱点を認識出来たこと」です。これは特に、これまではあまり目立たず、今回自分の通訳のパフォーマンスにひどく反映されていた点についてです。一般的には、当日までの準備に自信が持てない時や全く新しい分野の内容であれば、通訳者の基礎能力(技術)がサポートしてくれる場面が多いかと思います。現在の私には補完できる技術は確立できていないので、粗が目立ってしまいました。とはいえ、これまでの演習を通してそういった自分の基礎能力の機微に気づき、少しずつ修正してこられたことは、向上していくうえで何にも代えがたい事でした。今後も自分の通訳を詳しく分析する習慣は、大事にしていきたいと思います。

1つ目は「えー」が口癖として定着していることでした。これまでよりも一際ひどく、文頭/中/末どこでも言ってしまっていました。発声しながら時間を稼いだ気分になり、訳語を組み立てる癖が出来上がっているのでしょう。むしろ聴衆の大事な情報を得る時間を盗んでいることを自覚する必要があります。それに何より、記憶に残る素晴らしいプレゼンの多くは、フィラーが少なく歯切れの良いものばかりだと感じます。あまりネガティブなプレッシャーをかけて上手くいった試しは無いので「フィラー減らしたら、もっと素敵プレゼンになるけど、どうかな?」と良い画を想像する習慣に変えていきたいと思います。

2つ目は、声の大きさとハリにまばらがあったことでした。上手くいかないかもしれない、という不安感情が一番の原因ではと想像しています。場面によっては、話者にとって大事な感情や出来事を声で表現できているのですから、より聞き手フレンドリーを実現するため、次は一歩踏み出して「安定」させてみたいと考えています。もう少しだけ最寄りの訳を用意してあげたり、ほんのちょっとだけ意識を広げてあげたり、といったことに挑戦できるのではないか思います。残念な訳語1択からとりあえずベターな3択へ、今訳している1文から10分程度の訳出全体へといった具合にです。そんな心遣いが回りまわって、発声を安定させるのに効くのではないかなと考えています。大事な咽喉(のど)につかえて能力の発揮を遮っているのは、少し不適切で彩りの欠ける言葉を、繰り返し使うことへのためらいの気持ちの可能性があります。このように今後は間接的な課題の解決方法も考えて取り組んでみたいと思います。

3.パートナーとの比較

K:同通演習最終回にして、Yさんとは初めてのペアでした!
勉強会のときもお伝えしたことがあるのですが、Yさんの訳の素晴らしさの一つは通訳3原則の一つでもある「力強い声での訳出開始&終了」だと思います。また、普段お話しするときも一言一言、言葉を丁寧に選びながらお話しされる方だなという印象を受けるのですが、それがまさにYさんの丁寧な日本語かつ心地の良いトーンに表れていると思います。それが天性のものなのか意識されているのかは分からないのですが、時として怪しい日本語を話してしまう自分にとっては見習わなければいけない部分です。

演習中は、ペアと別回線のビデオ電話でつながっているためお互いの顔が見えるのですが、Yさんは終始落ち着いて楽しそうな様子だったのが印象的でした(あとで「楽しんで集中する」ということを事前目標の一つとしてあげていたと聞いて納得!)。私は血眼になりながらスライドに釘付け状態だったので、自分のターンが終わるとYさんの落ち着いて優雅に訳す姿を見て精神状態を落ち着かせることができました(笑)。普段から実践されているマインドフルネス効果でしょうか?!

繰り返しますが、今回が最後の演習であったこともあり、先生からの講評もいつも以上に心にしみるものになりました。英語塾開始当初から一緒に頑張ってきた仲間なので、その頑張りも悔しさもまるで自分のこと、いやそれ以上に感じます。講評最後の「今回のMVPは(別の通訳ペアのお一人)Cさんです!」との先生からの言葉のあとには、受講生からの拍手喝采が起こりました!

「切磋琢磨しあえる仲間を見つけたい」と思ったのも本英語塾に応募した理由だったので、素晴らしい仲間ができたこと、そして私たちの師匠でもある関根先生にも改めて感謝したいと思います。

Y:第1回同通演習では発表者であったKさんとご一緒しました。英語通訳塾イチの積極性をお持ちで、講義中は発言や質問を、外でも勉強会の呼びかけを一番にします。初動を大切にされている方です。ですから、通訳においても見習うべきは「勢い」だと思っています。

予測してコミットする勇気は、もしかしたら今回は自身はあまり実感されなかったかもしれませんが、それは芯のある声色にちゃんと表れていたと思います!訳文の編集する判断も的確でした。原発言の似た表現の連続を前にしても、流れるようにペースを取り戻すチャンスに変えていたと思います。これまでの自主勉強会で意識されていた「重要な個所を強調する」は自分のものにされていたと思います。常にクリアな説明に相まって、効果的な発声でした。

ということで、否定的なフィードバックが出来ないのですが…必要でしたら後日お伝えします(頑張ってひねり出します)。
話者の代弁者として胸を張って発言されている姿が、今回も輝いて目に浮かびました。

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今回の第12回をもって英語通訳塾の同時通訳演習は終了となります。
これまでの演習を通して学んだことや身につけたことを、これからも意識して練習し、現場に臨んでいきたいと思います。

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