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映画『バグダッドカフェ』

さびれたドライブイン、コーヒーさえ出せないカフェ、ぱっとしない夫にキレちらかす妻ブレンダ。そんなところへ現れたドイツ人の女ジャスミン。一方は汗を拭い、一方は涙を拭って向かい合うところから二人の女の交流が始まります。
冒頭、冴えない太った女というだけに見えたジャスミンは、バグダッドカフェに関わる全ての人の心を撫で、小さな変化をそっと起こしていきます。それは希望や愛や喜びの種を蒔く行為で、物語の進行と共に種はのびのびと育っていきます。中盤ジャスミンが去ってしまったとき「マジック(ジャスミンがカフェで披露して評判をよんでいたショー)は消えた」と従業員が言うのが印象的でした。ふっつりと魔法が消えたかのようになってしまったバグダッドカフェ。

冒頭で夫との諍いがあり車から放り出されたジャスミンは一人歩き出しますが、ここまで画面はずっと不自然に傾いています。それが、あるべき場所にやっと彼女は舞い降りたのだというかのように平衡を取り戻す。この地にふわりとやってきて小さな奇跡を起こすジャスミンの登場にふさわしいシーンだなと思います。
砂漠を舞うブーメラン、夕闇の風景、そして勿論あの有名なテーマ曲も、何もかもがささやかで美しい。映画が終わる頃にはジャスミンが天使にしか思えずその上大好きになっている、そんな魔法にかけられてしまう作品でした。

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