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【第11話の1】とあるファミレスのお昼時 ~ウェイトレス編

今回の1分で読める1000文字小説は、ウェイトレス視点で見た変哲もないファミレスの日常が舞台です。しかし、その日常も良く見ると少し変なのかもしれない。注文を聞き、注文された物を届けるだけなのに、そこで起こるちょっとしたアクシデントは偶然ではなく、ちょっと変わったお客、仕事にやる気のない主人公が交錯したことで起こっている。



1000文字小説

 どうしてだろうか、ファミリーレストランで笑顔でいる大人は少ない。ここが東京副都心という場所だからだろうか。家族で来店しても親はずっと疲れた顔だ。かくいう私もきっと笑顔は少なく、愛想のいいファミレス店員ではないだろう。質の高いサービスを求めるならファミレスなんかに来なければいい。


 「おまたせいたしました。」私が注文を取りに来たテーブルは男性4人のグループ。みんな私服だが今日は土曜日だけど仕事でランチにきたビジネスマンだろうか。笑顔があふれていて、こういうお客さんは好きだ。


 「あんこサンデーミルキーパフェ トールを一つ、以上で」冷静にお客様の注文をさばかないといけいない。例えこの野郎どもが一番ビックサイズのパフェを注文したことにツッコミたかったとしても一切顔に出してはいけない。注文の確認を行い端末に打ち込み無事テーブルを離れる。はー、よかった。とても1人で食べるサイズではない、まさかパフェを分け合って食べるのか気持ち悪い、そういうのは女子とかカップルがやるんだよ。


 裏に行く時にチラッと見えた2人がけのテーブルに1人座ってる客が気になる。たまにいるよく分からない客、謎様じゃないのか。正面の誰も座ってない席にチーズケーキを置いてるように見えたけど。


 パフェが出来たので厨房に取りにいく。やはりでかい。逆三角形の長いグラスで運ぶには慎重さが求められる。いつもよりゆっくり歩きお盆はいつも以上にバランスを大事にだ。


 「すみません」遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。土曜日のランチ時だから店員がつかまらないと見える。しかし今君にかまっている余裕はない、ごめんね。この慎重さが求められる中、遠回りしてさっきの謎様の横を通っていく。やっぱり、この人誰も座っていない席の前に手をつけてないチーズケーキを置いている。ちらっと顔を盗み見するとずっとそのチーズケーキを見ている。やっぱりなぞー。その人の横を通り過ぎるや「すみません」と謎様から低く通る声で呼ばれ、ちょっとした後ろめたさもあったので、反射的に立ち止まり振り返る。上半身を後ろにひねったあたりで、唐突にドンと何かが腰らへんにぶつかってきてバランスが崩れる、やばいやばいパフェが倒れる。

 一瞬のパニックの中で何がどうなったか分からないけど、なんとかパフェは倒れずに私のお盆の上に無事立っていた。今のはやってしまった、と覚悟したけどラッキーだ今日の私。

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