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秋の風この梵鐘に火の記憶

2023年9月17日 「道後俳句塾2023」「吟行会」にて
西村和子特選 松本勇二入選

この日は最高気温が36℃に達していたらしい。午前中でもかなりの蒸し暑さ、道後俳句塾参加者は宝厳寺を目指して上人坂を歩き上った。

吟行を前に、参加者に語られたこと。
●2013年8月10日、宝厳寺の本堂と庫裡が全焼した。
●先代の長岡住職と親交深かった黒田杏子先生はたいそう嘆かれていた。
●道後俳句塾参加者皆で焼け跡を訪れた。
●境内にある大きな二本の銀杏が山門を守った。

一遍上人立像は焼失したが、山門は火事から十年を経た今も厳かに参拝者を迎える。関係各位のご尽力により、現在は立派な本堂と庫裡が再建された。境内も美しく掃き清められて、正岡子規の句碑は以前のままの場所に建っている。本堂の北側に吊り下げられた小さな梵鐘。「火事で焼け残った唯一の物がそれ!」と指さして教えてもらった。青銅色にところどころ黒く形跡が残っている。みるみる広がっただろう火の勢い、煙の臭い、熱、放水、この梵鐘には、きっと火事の記憶が残っている。
明治28年10月6日、正岡子規は宝厳寺の山門に腰掛けて「色里や十歩はなれて秋の風」と詠んだ。上人坂は当時松ヶ枝町と呼ばれる遊郭街であった。坂を上り切って山門をくぐれば、秋風が心地よい、その実感を子規は十七音に切り取った。私もこの日の宝厳寺に秋の風を感じていた。火事から十年経って、平和な光景を取り戻した宝厳寺。二本の大銀杏はしきりに銀杏を落としていた。

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