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Starfieldの持つ圧倒的な孤独を俺は語れるだろうか

あえていうなら未知。
続けて言うなら、冒険。
格好をつけるなら、世界。

StarFieldの話をしよう。

ベセスダオープンワールドのnewスタンダード、1000を超える星々を自由に移動して、この宇宙の果てを探る旅。
眩暈がするほどに広い世界が、どこまでも作りこまれている様は、まさしく一つの世界と言える。
2023年10月に発売された真に広大な、ベセスダ渾身の一作は、その名に恥じぬ圧倒的なゲーム体験を提供している。

でっけえ都市も提供される

じゃあいったいあのゲームの何がすごいんですか?と聞かれると、一言で答えにくい。
少なくない数のゲームレビューがいまいち面白いのか面白くないのかわかりにくい文章になってしまうのも、わからなくはない。
そしてある程度大手のゲームレビューになると、スカイリムやフォールアウト4との比較を通じてしか語れない(読者も当然既プレイしている層だろうから、それ自体が悪いわけではない)
ベセスダオープンワールドの魅力は、それを体験したことが無い人に口にするのが難しい。

しかし、その結果、「自由度が高い」だの「フィールドが広大」だのといったカスのレビューが増えてしまうのは、悔しい。
オープンワールドゲームの感想を書く上で、「なんでもできる」と紹介するのは「自分は文章能力が極めて低いのみならず、自分のプレイしたゲームに対する理解が果てしなく低いうえにそのゲームを自分のどうしようもない文章で貶めることに抵抗のない人間です」
ということと同義だ。人倫にもとる。なんでもできるゲームなど、存在しない。あったとて、絶対に面白くない。
が、これに限っては……いや、頑張ります、そのための文なので。


・ベセスダオープンワールドについて

まずは、少し助走をつけさせてほしい。

突然だけど、散歩は好きだろうか。

近所でも、旅行先でも、なんでもいい。なんとなくぶらつくこと、というのがあるはずだ。

散歩というのは、独特の孤独を孕んでいる。
一人ならもちろん、友達とでも。ふとしたタイミングで。

知らない街の風景を、あるいは知っている場所の、気づかなかった部分を、いや、景色を見ない散歩と言うのもあるかもしれない。
いずれにせよ、ぼんやりと知らなかったことに気づくとき、小さな、意識するまでもないような心の刺激は喜びだ。そしてそのままそれは、無知への自覚であり、うすぼんやりとした不安を小さく、小さく残していく。もちろん、普段そこまで意識して散歩をする人は少ないだろうけど。

自分の足が動く限り、人は好きに動き回れる。しかし、路地に入ることはできても、その路地を形成する町の人たちが、どのような生活を営んでいるのかまではわからない。
遠くを見ることができる。どこまでも行くことができる。だけど、自分の知る範囲というのはどこまでいっても限られている。
このままならなさと、それでもふとした時に人に話しかけられたり、公園で遊ぶ子供を見たり、咲く花や、流れる川を見るときにどこかそれを嬉しく思う気持ちの揺れ動きこそが、散歩のもつ楽しさだと俺は思っている。

わかりやすくするために散歩と言ったが、これはつまり、世界へのかかわり方と言い換えてもいい。自分にできることがあり、届かない場所がある。
生きるとはそういうものだ。このままならなさを引き連れながら、僕たちは何かを期待して、目先のことだったり、長期的なことだったりのために日々動いている。

これが、ベセスダの「ロールプレイング」の本質です。

唐突にいったいなんだという話なんですが、ベセスダのオープンワールドゲームでは、
この「ぼんやりとした孤独、ままならなさの中にある人との関わりのもつ空気感」を、楽しむことができる。

複雑な問題を解決する達成感や、ボタンと連動した爽快なアクションは無い。オチのないミニクエストも多い。
なんだこれ、なにすればいいんだ。となることも多い。知らないやつに知らないことを言われて知らない場所に行くことだらけだ。
逆に言えば、ベセスダのオープンワールドは、そのためのゲームだ。
フォールアウトは核戦争後のアメリカを、TES、スカイリムは架空のファンタジー世界を、そしてスターフィールドは、あなたが宇宙を旅するためのゲームだ。

ゲームの何を凄いと定義するかは難しいことだが、そのゲームでしか味わえない喜び、というのは一つの指標となる。
ベセスダオープンワールドの、知らない土地に投げ出された感覚は、ほかのどのゲームでも味わうことのできない体験だ。UBIにはもちろん、任天堂だって逆立ちしても真似ができない。

遊びやすさという意味ではティアーズオブザキングダムに100歩譲っても勝てないだろう。
過去作に比べて見違えるほどに進歩した戦闘システムも、10年前のゲームとどっこいどっこいだ。ウソ、バイオショックインフィニット(2014)のほうが何倍も面白い。
NPCの挙動はいまいちぎこちなく、自分と関係ない街の会話をスキップすることはできないし、なんだかなあ…と思うこともある。
グラフィックだってサイバーパンク2077のほうがはるかに良い。(悪くはない。十分美麗といってよいと思う。)

それでも、あらゆる文句を束にしても、ベセスダオープンワールドの素晴らしさを打ち消すには至らない。
そこにあるのは圧倒的な孤独であり、未知との遭遇だ。

まずはそういうゲームなのだと理解してほしい。これがほぼ全てなのだけど。万人が楽しめるかというと怪しいが、多くの人に忘れ得ぬ体験を植え付けるタイプのゲームだと。

・ゲームの内容について

さて。ゲームの内容です。

さんざんふわふわしたゲームであるように書いてきたが、メインストーリーはしっかりと存在する。
あとは、星々を渡ったり、街を練り歩いたり、銃やナイフで敵を倒したり、宝箱を開けたり、お金を稼いだり、あと宇宙船を改造したり、星々に拠点を作って資源を集めたり、といったことができる。
メインストーリーはオーパーツ的なレアメタルを見つけた主人公が、それを集める秘密組織の一員として知的好奇心のままに冒険する、というもの。
ハチャメチャに面白いわけでもないけど、それなりに面白いし、扱うテーマや表現の仕方を考えると、他のゲームでは見られない物語でよかった。

そんな感じです。おしまい。


そして、各種イベントの発生タイミングは驚くほど多様で、ランダムだ。
その辺の人に頼まれてコーヒー買ってきてあげるようなおつかいから、星系を超えて銀河を侵食するモンスターの話まで、メインストーリーとは一切関係ないサイドクエストが多岐にわたる。
全てをクリアすることは不可能というか、たぶんその全てをクリアしようと思うとやる気を失うと思う。

また、一般に洋ゲーの特徴でもあるけれど、”プレイヤーはその世界の住人である”ということの理解は、初めてだと戸惑うことも多いかもしれない。
ある場所の話を聞いても、別の町でこの前起きた事件のことを知らないとわからなかったり、同じ神話でも別の国では別の形で伝わっていたりする。知らない固有名詞を被せ気味にまくしたてられる。
この辺は邦ゲームでは見慣れない表現だ。世界が先立ち、NPCは勇者様のために生きているわけではない。この冒頭の情報処理負荷ははっきりと好き嫌いを選ぶと思う。
ざっくり言えば分厚い本を読むのが好きかどうかの差だ。
でも、見知らぬ国に降り立ったワクワクとドキドキは、得も言われない喜びでもある。

変なおじさんも、そう思うだろ

キャラメイクで親が存命かどうか(ゲーム内に実家と両親が発生する)から決められるの、ウケるぜ。
プレイした人間の数だけ、体験が生まれることに意味がある。
物語と体験に意味を見出さないタイプの人は、ハマれない可能性が高いので無理にやらなくてもいい。
あなたにはあなたの宇宙がある。世界とはいつでも平行線だ。

一方で、己の体験が他の人の体験とリンクするとき、記憶に残るイベントが、あああれ!で盛り上がれるというのも、重厚なファンタジーの持つ力だ。
ハリーポッターのオタクが永遠に作中イベントの話を擦って盛り上がるように、スカイリムをやった人同士であれば「赤のラグナル」と言うだけで、ひとウケ取れるように。
その世界での冒険を思い出すときに喜びが生まれること、それもまた、良質なオープンワールドの持つ醍醐味であると思う。

たとえば都市の地下スラムの中で、中立地域のような宿屋に出会うこととか

ここで、ようやくゲームシステムの話ができます。

UIも悪くないし、船要素も面白かった。仲間もみんな個性的だし、銃撃も接近戦も面白くなっていると思う。(まあ、これまで書いてきたように、ベセスダワールドが好きな人間は、戦闘の爽快さはさほど求めていないのだ)
星がほぼファストトラベル祭りだったのは拍子抜けした一方で、マップの広大さを考えると仕方ないとは思えた。星々それぞれが特色を持っているのはシンプルによかったし。

拙者ゲーム内の博物館大好き侍と申すもの。廃墟だとなお良し。

・まとめ

まあ~~正直に言えばスカイリムのほうが面白い。メインストーリーが面白いから。(スターフィールドがつまらないというわけではないし、終盤の展開はアツかった。)
日本人が(要検証)、スペースオペラにそこまで馴染みがないというのも大きい。
剣と魔法のファンタジーにおける「辺境の村」に対する感覚は、なぜか共通して持っているけど、全人類が恒星間で暮らす世界で、辺境の惑星の人々がどんな生活をしているのか、いまいち想像かつかないというのは、知らないゲーム世界を生きるうえで、一つの障壁となっているだろう。

以上を踏まえて、スターフィールドは過去類を見ない傑作、というよりは、順当に生まれ、その味を損なわない大作としてまとめあがった名作、として評価できると思う。

ただこれはスカイリムやフォールアウトをプレイした人間の感想であることはくれぐれも念を押しておきたい。
初めて触れたらきっと途方もない冒険の予感に打ち震えるか、あるいは何すればいいかわからないよ~トホホ…に二極化するんだろう。

個人的にはサンドボックスとかのほうがよっぽど何すればいいかわからないというか、結局同じことの繰り返しやないかい!になってしまうような気がするんだけど、即物的に何すればいいか表示されてそのとおりに動いて何かを作るのが楽しい、わかりやすい、という感想も聞くので、人それぞれなんでしょう。


でもさあ。

・とにかくやってみろって

なあ!おい!!早くこっちに来い。
宇宙を冒険しよう。広大な、広大な星で。きっと楽しいさ。

大量の人がいて。そこで僕たちは一人で、どうしようもなく一人で。
だけどもし、未知に少しだけ耐えて、歩き始めることができたなら。
この孤独も喜びも、全部僕たち一人だけのものだ。


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