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【連載小説】「愛のカタチ」#6 いろいろな愛のカタチ

前回のお話(#5)はこちら
文化祭の計画を練り始める斗和たち。一緒の委員として同じ活動が出来るだけで満足だという斗和に対し、アクションを起こしなさいと、恋愛経験豊富の姉が言う。言われてようやく、友人のままで終わりたくないという気持ちが湧いてきた斗和は、ちゃんと想いを伝えるきっかけを作ろうと考え始める。


私は目を見張った。いや、見間違いであって欲しいと目をこすった。けれども間違いなくその人だった。

大介さん。エマ姉の旦那さんが、あろうことかやたらと露出度の高い服をまとった女と腕を組み、目指していたコンビニから出てきたのである。

夏休みももうすぐ終わろうとしていた。文化祭の準備のために学校へ行った私と斗和は、あまりの暑さに帰路にあるいつものコンビニで涼もうと話していたところだった。衝撃的な一コマは私から暑さを奪い、寒気すら感じさせた。

隣にいた斗和は挙げかけた手を引っ込め、かわりに拳を握った。何か言いに行くのかもしれないと思ったけれど、その場から動くことはなかった。

「……コンビニ、寄る?」

ようやく暑さを思い出して声をかけるが、斗和は黙ったままだった。ちょっと肩を叩いてやると、ようやく我に返ったように私を見た。

「……ごめん、なんか言った?」
「ううん。このまま帰ろうか?」
「ああ。でも、その前に姉ちゃんのとこに行きたい」

斗和の強い意志を感じた。エマ姉の家はここから歩いて10分ほどのところにある。断る理由はなかった。


        🌱🍀🌱🍀🌱


「ふーん。どうせ若くておっぱいの大きい子でしょ? 呆れちゃうよねえ」

驚くかと思ったのに、エマ姉は慣れた様子で返事をした。斗和は声を荒げる。

「いいのかよ、それで。姉ちゃんが妊娠してるからって、ほかの女といちゃいちゃしていいってことはないだろう?」

「何をそんなにいきり立ってるの? ダイは付き合った時からずっとこんな調子よ。ちょっといい女を見つけると、すぐに手を出す。最初はそれが原因で別れたけど、別れたら別れたでまた私を求めてすり寄ってくる。その繰り返し」

「どうして……? そんなダイ兄のどこがいいんだよ……?」

エマ姉は少し考えてから、

「結局、私たちは似た者同士なんだと思う。私もダイと同じ生き方してきたから分かる。そういう付き合い方しか出来ない人間もいるのよ。

結婚したのだって、互いの部屋を訪ね合うのが面倒になったから。

共通の家はあるけれど、一緒に過ごすのは気が向いた時でいい――。

そんなルールを決めたら、結婚って形も悪くないなって。
そりゃあ、よそで子供作ったらさすがに黙ってないと思うけど、そこに関してはダイのこと、信じてるから」

エマ姉の話を聞いた私はすぐに両親のことを思い出した。
 とにかく一緒にいられないし、行動できない二人だった。同じ家にいても別々のことをしていたし、食事のタイミングさえ別だった。

これで家族って言えるのかな……。

幼心にずっと思っていた。その矢先、やっぱり別居という話が出て今に至っている。

そんな自分勝手な父と母が嫌いだった。他の人には聞こえない、ご神木さまの声が聞こえてしまう自分も嫌いだった。普通の枠組みに当てはめようとする大人たちも嫌いだった。

なのに、エマ姉が実は両親と似たような男女観を持っていたと知った瞬間、気付いてしまったのだ。私は一つのことにとらわれすぎていたんだって。

私が教え込まれてきた常識は絶対じゃない。信じたり受け容れたりするのは個人の自由だし、それを否定したり押しつけたりすることも本来は出来ないはずなのに。

親には親の人生や考え方がある。そんな当たり前のことにさえ気づけなかった。思えば反発してばかりで、ちゃんと話し合ったこともなかった。一方的に不満を募らせ、イライラしていただけの自分が情けなく思えてくる。

「エマ姉ってすごいなあ。女が憧れる女ってきっと、エマ姉みたいな人のことを言うんだろうな」

「え?」

「いつだったか言ってたでしょ。自信を持ちなさいって。『そうすればあの人、素敵だなって思われるよ』って。私はエマ姉の結婚観を聞いて、潔くて格好いいなって思っちゃったんだよね」

「やだあ、格好いいだなんて。わたしは自信家と言うより変わり者よぉ?」

素直な気持ちを伝えたら、エマ姉は謙遜するように顔の前で手を横に振った。でもその顔は笑っていて、やっぱり自信ありげに見えた。

「同調すんなよ。これのどこが格好いいんだよ? 浮気されてんだぜ? おれには理解できねえ!」

女子の話を端で聞いていた斗和だけは納得いかない様子だった。そんな斗和にエマ姉が言う。

「昔から、割れ鍋に綴じ蓋って言ってね。どんなに性格がひねくれてたり、不細工だったりしても、それに見合う相手は必ずいるものなのよ。そういうわけで、あんたにはあんたに合う相手がいるから安心しなさい。ああ、余計なお世話だったかな?」

「余計なお世話だね!」
 斗和は迷惑そうに、自分をつつくエマ姉の手を振り払った。エマ姉が笑い、私も笑う。怒っていたはずの斗和もつられて笑い出す。みんなで笑い合っていたら、今までずっと悩んできたことが急にどうでも良く感じられ、肩の荷がすっと下りた心地がした。

そんなとき、突然斗和のスマホが鳴り出した。席を立ち、電話に出た斗和だったが、一瞬にして顔色が変わった。
「エプロンの注文が出来てなかった?! あと十日しかないんだぜ? 今から30人分のエプロンなんて、どうやってそろえるんだよ?!」

電話の相手が鶴見さんだと確信する。一瞬、どうして斗和の電話番号を知っているのだろうと思ったが、緊急時に備え連絡網を作っていたことを思い出す。おそらくそれを見て電話してきたのだろう。斗和の言ったことが本当なら、確かにそれは「緊急」を要する事態である。

斗和の怒りは収まるところを知らず、言葉による攻撃が続く。

「確かにゆっくり取りかかってくれればいいって言ったよ。だけど、鶴見くらい頭のいい人間が、注文日時を間違えるはずないよな? 一体どうしてこんなことになったんだよ、ちゃんとわかるように説明してくんない?」

鶴見さんの声は聞き取れない。だが、電話越しでも困惑している様子は感じられた。

「とにかく明日、朝イチで学校集合! ……しゃーない、おれと橋本でクラス全員にメールしとくから、鶴見は反省文でも書いといてくれ。でないとみんな、納得できないと思うぜ。それじゃあな」

どうなってんだよ、ったく。斗和は電話を切ってもなおぼやいている。私は恐る恐る尋ねる。

「エプロン、注文できてなかったって本当?」

「ああ、いつまで経ってもモノが届かないんで確認してみたら、注文自体されてないって突っぱねられたらしい。本人はちゃんと注文したって言い張ってたけど」

「ああ……」

「そういうわけで、明日も学校に集まらなきゃいけなくなった。凜は都合つくよな?」

「私は大丈夫だけど、エプロン、どうしよう?」

「それをみんなで考えるんだよ!」

斗和は私に対しても怒りをぶつけ始めた。

「あんたはもう少し冷静になりなさいよ。怒っても、いい解決策は生まれないよ?」
 エマ姉が斗和をさとす。斗和はそっぽを向き、意見を聞かなかった。

――鶴見さんに何かあったんだろうか?

エマ姉の話を聞いた後だからこそ思考がめぐる。あんなふうに一人を貫き、規則を遵守する彼女だけど、そうするのには何がしかの理由があるんじゃないだろうか。それこそ、育った背景にヒントがあるのでは……?

(明日、ちゃんと聞いてみよう。話し合ってみよう。これはきっと、私にしか出来ない。)

どうせ嫌われているんだ、何を言われてもこれ以上嫌われることはない。それに、ミスを犯したのは鶴見さん自身だ。私に対して強くは言えないはず。

さて、どんなふうに話を切り出したものか……。クラス全員にメール連絡をし始めた斗和の脇で、私はそんなことを考えていた。


続きはこちら(#7)から読めます)

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