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【連載小説】第四部 #12「あっとほーむ ~幸せに続く道~」決断


前回のお話(#11)はこちら

前回のお話:

悠斗たちが沖縄に発ったその日、孝太郎は庸平ようへいを連れ立ち、ワライバで体操クラブ発足のための打ち合わせをしていた。立ち上げメンバーである路教みちたかは家の都合で欠席しているが、一番のまとめ役である彼が不在では打ち合わせもままならないだろう、と庸平は主張する。加えて、体操クラブの存在を広く世に知らせるには路教の協力が欠かせないと訴える。孝太郎が、なぜ彼の力が必要なのか説明を求めると、庸平は直接会いに行けば教えると言って連絡もせずに会いに行く。
庸平は、先の一件(第八話)で路教の熱血ぶりに感心し、この熱情を自身のプランのための子供集めと体操クラブの会員集めに使えないかと考えた。最終的に路教は口説き落とされ、家のことが片付いたら必ずやると首を縦に振った。

23.<悠斗>


 沖縄の海は数年前に訪れたときと同じようにキラキラと輝いていた。

「この海が愛菜ちゃんの命を奪ったなんて信じられないな……」
「そしてその愛菜ちゃんが『ここ』にいることも……」

 翼とめぐはそれぞれの想いを口にし、手を合わせた。



 おれが今回取ったのは、前回縁あって出会った「沖縄のオジイ」のいる宿だ。幸いなことにオジイは健在で、おれたちを出迎えるためにわざわざチェックインの時間に合わせて家から出てきてくれたのだった。

「オジイ。お元気そうでよかった。また会えてうれしいです」

わんも嬉しいですよ。ほほう、この子は……」
 オジイがまなの目をのぞき込む。
「なるほど。今回沖縄ウチナーにやってきたのはそういうことですか……」

「やはり、分かりますか。オジイには」

「分かりますとも。鈴宮すずみやさんの考えも、この子の正体も」
 オジイが再び見つめると、まなはめぐにすがったままわんわん泣き出した。

「ごめんなさい……。おじいさんに見つめられたのが怖かったみたいです……」
 めぐが釈明すると、オジイは「謝らなくてもいいんですよ。わんには全部分かっていますから」と言って笑った。

「小さな宿ですが、ごゆるりとお過ごしください。また夜にお目にかかりましょう」



 通された部屋からは、西に傾き始めた太陽に照らされた海が見えた。四人きりになると、翼が窓から海を眺めながら言う。

「悠斗から聞いていたとおり、不思議なじいちゃんだったな。夜にまた会おうって言ってたけどあれって……?」

「いつだったか話したことがあると思うけど、オジイは人魂を集められるんだ。以前会ったときには、おれもそこの海辺で愛菜の魂に触れた……」

「ああ……。そういうことか……」

 納得した翼に対し、めぐは疑問を投げかける。
「だけど、いま愛菜ちゃんの魂はまなの中に……。それでも同じことが出来るのかな?」

「それはおれにも分からない。だけど、やってみるしかない。転生した愛菜と、精神的にでも繋がれる方法を手当たり次第試す。その一つを実行するためにおれはここへ来たんだ」

「本気……なんだね……?」
 めぐが鋭い眼差しを向ける。

「ああ。おれはもう、逃げないよ」
 その目を正面から見つめ返す。その言葉が嘘ではないと分かったのか、めぐはふっと口元を緩めた。

「そうだよね……。昨日も、春日部神社かすがべじんじゃのご神木さまの前で誓ったもんね。……わたしも逃げない。この子の未来がどんなものであっても、わたしは受け容れるつもりでいる」

「めぐちゃん……」
 決意を聞いた翼がその名を呟いた。
「見守るだけなの……? めぐちゃんはそれでいいの……?」

「……わたしは、この子を信じる」

 言い切っためぐからは母親の強さが感じられた。しかし翼は不満げだ。少し考えるそぶりを見せてからおれの名を呼ぶ。

「……悠斗。夜を迎える前に、二人きりで話がしたい。俺の考えを伝えておきたいんだ。ちなみにめぐちゃんにはすでに伝えてある内容だ」

「もしかしてあの話……?」
 問うためぐに、翼は無言で頷いた。

「いいだろう。せっかく沖縄に来たんだ、暑いけど海を見ながら話そう」

「オーケー」
 返事をした翼もまた射貫くような目でおれを見つめ返した。



 不思議なことに、オレンジ色に染まりかけた海には誰もいなかった。おれたちは海風を感じながら、また波の音を聞きながら海に向かって立った。

「はっきり言うから覚悟しろよ」
 翼は波音にかき消されないよう、腹に力を込めるようにして言う。

「俺はまなの父親だ。悠斗との過去がどうであれ、まな自身は今に生きている。もし、あの子が俺たちの話す内容を理解しているのであれば、俺は愛菜ちゃんに自分の生き方を選び取って欲しいと思ってる。悠斗に決めてもらうんじゃなくて。それともう一つ。もし悠斗が愛菜ちゃんとの思い出を胸に生き続けると決め、あの子にそれを伝えるつもりなら、悪いけど俺は全力で阻止する。つまりは愛菜ちゃんとの思い出を『消す』。俺が臆病者の悠斗を『殺した』ように」

「なるほど、お前はおれだけじゃなく、おれの娘の愛菜をも手にかけようというわけか」

「もちろん、これは最終手段だ。出来ればそんなことはしたくない。だから、そうしなくても済むように、今から悠斗を説得しようと思ってる」

「説得を考えているってことは、おれとお前の意見はぶつかり合うと思ってるわけだ。……だけど、生憎だったな。おれはすでに映璃に説得されてこれまでの考えを改めてるんだよ。愛菜とじっくり話し合った上で、愛菜自身に決めさせようってな」

 翼は目を丸くした。
「……ここに来るまでの間に一つ、大きな決断をしてきたってわけか」

「そういうことだ。だからお前が罪を背負う必要はないよ。……心配するな。あの子ならきっとおれたちの望む未来を選び取ってくれるはずだ」

「……そう願うよ」
 呟いた翼は遠くの海を眺めた。



 その夜、夕食を摂ったおれたちはオジイに連れられて先ほど翼と話していた宿の前の海辺に向かった。

 まなは抱っこひもで翼にくくりつけられている。初めて海を見たまなが、好奇心から夜の海に入らないようにするためだ。

「あの、おじいさん。鈴宮悠斗すずみやゆうと以外は霊感がないんですが、それでも霊魂を見ることが出来るんでしょうか?」

 儀式が始まる直前になって翼が質問した。オジイはそっと両手を天に向ける。

「心の目で見てご覧なさい。感じてご覧なさい。あなた方が望めば必ず見えますよ」
 そう言ったすぐあとで、以前にも見たオレンジ色の人魂が目の前に集まってきた。

「……見えるか? 今、人魂がそこかしこに……」
 呟くと、翼とめぐは揃って小さく頷いた。どうやら目に見える現象に戸惑っているようだ。辺りをキョロキョロと見回している。

「さぁ、話してごらん? 今なら声が出せるはずだよ」
 オジイがまなに向かって声をかけた。すると、まなの身体から光の球が飛び出してきてぐるぐると周囲を飛び始めた。それはやがて鈴宮愛菜すずみやまなの姿になって目の前に現れる。

『こうして話すのは久しぶりだね、おとーさん。……パパとママは、初めましてかな?』

 語りかけられたおれたちは息を呑んだ。
「……ここまでの話はすべて理解しているな?」

 おれの言葉に愛菜は頷く。

「おれは今日ここで愛菜と、とことん話し合う。だから愛菜も逃げずにおれたちの話を聞き、自分の気持ちを言葉にしてほしい」

『愛菜の想いは一つ。おとーさんとの思い出を胸にこの世界で生きることだよ。ずっとしゃべれなかったとしても、いつか文字を書くことを覚えたらお手紙交換でおしゃべりできる。愛菜はそれができれば幸せなんだよ』

「違う。そんなのは幸せじゃない!」
 真っ先に声を上げたのは翼だった。しかし愛菜は反論する。

『愛菜の幸せがパパに分かるの? こんなことを言ったらパパを悲しませるかもしれないけど、愛菜にとっての一番はやっぱりおとーさんなんだよ』

「悠斗が一番好きだから、俺じゃなくて悠斗の言うことを聞くって言うのか……?」

 愛菜が頷くと、翼は胸の前にくくりつけたまなを押しつぶすように抱きしめた。それを見て、いたたまれなくなる。

「……愛菜。おれを好きだと言ってくれるのは嬉しいよ。だけど、翼の言うことは正しいとおれも思う。愛菜はおれにこだわりすぎてる。確かにおれの子として過ごした日々はあった。だけど……残念だけどそれは過ぎ去った日々なんだ。どんなに願っても取り返すことの出来ない過去なんだ。……愛菜はあのときここで言ったよな? たとえ過去の記憶がなくなっても、新しい愛菜との思い出を作っていけるよね? って。あれは嘘だったのか?」

 愛菜は今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。しかし涙をこぼすことはなく、愛菜自身も思いを語り始める。

『それは、おとーさんがママを選ぶと思ってたからだよ。おとーさんの本当の子供として生まれ変われるって信じてたからだよ。だけど、おとーさんはそうしなかった。……愛菜が思っていたとおりにならなかったのがちょっぴり悔しくて意地悪しちゃったくらい……』

 思いがけない告白を聞いて、ここまで黙っていためぐもついに口を開く。
「意地悪ってもしかして……身近な人の命と引き換えに生まれてくるって話? それじゃあやっぱり、木乃香このかのお母さんが言っていたとおり……?」

『うん。魂の状態で、生きている人の命を操る力はなかったよ。命の交換が出来るのは、お互いが生と死の狭間にいるときだけ。もしもあの時おとーさんが死んじゃってたら、たとえ順番が回ってきてもパパとママの子に生まれようとは思わなかったかもね』

「……そこまでして悠斗の子供として生まれ変わりたかったのはなんでだよ? 悠斗との間にどれほどの思い出があるって言うんだよ?」
 翼が怒りを感じているであろう声で言っても、愛菜は淡々と答える。

『おとーさんはどんなときでも愛菜を守ろうとしてくれた。おかーさんより優しかった。そして、おぼれかかっていた愛菜を必死に助けようとしてくれた。だから、またおとーさんの子になりたかった。それが理由だよ。……こんなに好きなんだもん。おとーさんだって愛菜のことが好きなら、この先もずっとあの頃の記憶を残したままにしてくれるよね? 愛菜との思い出を大事にしてくれるよね?』

 じっとこちらを見つめるその眼差しを振り切るように、おれは何度も首を横に振る。

「……最後の最後で、大きな決断をおれに委ねるな。愛菜がおれのそばで生きたいと願い、めぐと翼ふたりの子として生まれ変わることを自ら決めてここにいるなら、この先の人生も自分で決めろ。愛菜にはそれが出来る」

 きっぱり言うと、愛菜は押し黙った。おれが期待する答えを言わなかったからだろう。しかし、やっとの思いで絞り出した言葉が愛菜を悲しませてしまったと思うと胸が苦しくなる。拳を握りしめ半分うつむいていると、後ろから翼に肩を抱かれた。

 目が合うと、翼は静かに一度だけ頷いた。言葉はなくともおれの発言を肯定してくれていることが分かった。めぐも寄り添っておれの握りこぶしを柔らかい手で包み込んでくれた。

 自信を取り戻したおれは改めて言う。

「愛菜が過去を残すことを選んでも、たぶん期待には応えられない。だって、愛菜と過ごした日々の大半は、思い出すことが出来ないほど遠い昔のことだから。……おれは愛菜が死んだあともずっとこの世界で生きてきたんだよ。めぐと翼ふたりの子として生まれたお前とも二年間、新しい思い出を刻んできたんだよ。つまり、今を生きるおれにとっては、愛菜の死後こそが現実でありすべてなんだ……。ごめん、って言っても許してはもらえないだろう。だけど、生きるってそういうことなんだよ。愛菜がおれに生きて欲しいと望んだときから、こうなる未来は決まっていたんだよ。……愛菜はこんなおれでも、自分だけは過去の記憶を持ったまま生き続けることを望むのか? おれが愛菜の問いかけに答えられないと知ったあとでも、過去にこだわり続けるのか?」

 愛菜の返事はなかった。

 おれは「愛菜」ではなく、翼ごと「まな」を抱きしめた。めぐも同じようにし、三人で抱き合う形になる。海風が吹いていても、真夏の夜に抱き合えば汗が噴き出るほど暑い。それでもおれたちはやめなかった。

「……感じるか、おれたちの体温を。感じるか、おれたちの命の匂いを。これは今、生きているから感じられるんだ。おれはそのことをめぐから教わった。たったの八歳だっためぐから。……めぐがおれに生きる希望を与えてくれた。生きているめぐが、野上家のみんながおれを生かしてくれたんだ。時には痛みを感じることもある。苦しさを味わうこともある。だけどそれは、生きていなければ感じることの出来ないものだ。どれだけ感動を伴う体験をしても、過ぎてしまえばその感覚を今、ありありと思い出すことは難しい。……そう。生きている者にとっては今が、瞬間瞬間がすべてなんだ。……おれは愛菜と、今を生きたい。今、体温を感じあいたい。だから、一緒に今を生きよう」

「……そうだよ、愛菜ちゃん。俺もめぐちゃんも、君の存在を否定したくて過去を忘れて欲しいと言っているんじゃない。君が生きた証は『まな』という名に託してる。つまり君はもう一度『まな』として生きられるんだ、今度は自分の力で。悠斗もいる。君を愛する家族もたくさんいる。だから君には『今』を選んで欲しい。悠斗がそうしたように。俺が父さんと和解して一人の『野上翼』になれたように、過去を糧にこれからを生きて欲しい」

『神様に頼んでまで記憶を残してもらったのに、誰も褒めてくれないんだね……。おとーさんならきっと喜んでくれると思ってたのに。うんと褒めてくれると思ったのに……』

 背後にいる愛菜の声は暗く沈んでいた。

「確かにおれは愛菜との再会を願っていたし、あの頃の思い出を語り合えたら……と思っていた時期もあるよ。だけど次第に思いは変化し、最後には完全に『今』に目を向けるようになっていた。……今のおれの望みは、まなの声を聞くこと。まなの声で『おとーさん』って呼んでもらうことだ。それは肉体を持たない、記憶の中の愛菜には出来ない。今、この腕の中にいる『まな』にしか出来ないことだ」

 めぐも頷いて語り始める。

「愛菜ちゃんは、過去の記憶が悠くんと自分とを繋ぐ唯一のものだと思ってるかもしれないけど、わたしは違うと思う。悠くんは、たとえ愛菜ちゃんが過去の記憶をなくしても愛するはずだし、あなたは存在しているだけで悠くんやわたしたちを喜ばせることが出来る力を持っているんだよ。悠くんが言ったように、おとーさんとか、パパママって呼ぶことによっても」

 めぐの言葉が終わると同時に頭上から声がする。

『本当は怖いだけなの……。おとーさんと過ごした日々を忘れてしまうことが。あの日々が……まなが生きたことが、なかったことになっちゃいそうで……』

 光の球はおれたちのすぐ上にあった。それは明滅を繰り返しながら語り続ける。

『愛菜のことを忘れてもいいなんて嘘……。おとーさんが幸せでいればいいなんて嘘……。本当はずっと見ていてほしかったし、愛菜だって幸せになりたかった……。だけど、毎日泣いてうつむいてるおとーさんを見るのはもっと辛かったからあんなふうに……』

「ありがとう。お陰でおれはすっかり元気になったし、こうして愛菜と再会を果たすこともできた。……だけど、幸せに見える今に至るまでには、翼に『殺され』、失恋し、死にかけるっていう、決して楽ではない道を歩いてきたことは知っておいてほしい。……愛菜。笑うためには、泣く必要があるんだよ。おれは愛菜のためにたくさん泣いたし、懺悔ざんげもした。だけど、その経験をしたことで人の痛みが分かるようになったと思うし、人間らしくなれたことをおれは誇りに思ってる。愛菜と過ごした日々の大半はもう記憶の彼方だけど、そのとき感じたことは身体が、魂が覚えてる。それじゃダメかな……」

 想いを伝え終わると、光の球はおれたちの中心にいる「まな」の身体に戻った。

『……愛菜、覚えてる。昔々に、おとーさんにもこうして抱きしめられたことを。その時もこんなふうにあったかい気持ちになったことを。……そっか。心が、魂そのものが覚えているんだね。だから、頭の中に残しておかなくてもいいんだね……。やっと、わかったよ……』

 「愛菜」の声は、眠るように目をつむるまなの内側から聞こえた。そっと頭を撫でてやる。と、再び声がする。

『……愛菜が残したかったのは、おとーさんと一緒に過ごした時の記憶じゃなくて、そのとき感じたあったかい気持ちだったみたい……。このあったかさは、新しい人生を一緒に生きようと言ってくれる、おとーさんたちの命の温もりと深い愛情そのもの……。この先もずっと、感じていたいな……』

 閉じたまなの目から一筋の涙がこぼれた。それは小さな光を放ちながら風に乗って海に散っていく。

『やっぱり鈴宮愛菜の人生はあのときに終わったんだって、ようやく分かった。鈴宮愛菜の記憶はこの海に置いていく。そして今から、野上まなとして新しい人生を生きていく。……おとーさんに言われたからじゃないよ。これは、愛菜が自分で決めたことだからね。後悔は……しないよ……』

「愛菜……」
『愛菜ちゃん……』

『さよなら、おとーさん……。今日まで鈴宮愛菜を愛してくれてありがとう……』

 今にも消え入りそうなその声に向かって、涙をこらえながら言う。

「さよならじゃない……。愛菜の魂はこれからもずっとおれのそばにある。まなの中に……。だから愛菜が過去を手放しても、おれたちの関係は続いていく。……そうだ、次にまなが目覚めたときは『はじめまして』じゃなくて『また会えたな』って挨拶しよう。だっておれたちは、生まれる前からずうっと愛菜と繋がってきたんだから」

『うん、そうだね……! それじゃ、また……!』

 まなの身体からオレンジ色の光が広がり、おれたちを包み込んだ。やがてあたたかい光は拡散し、見えなくなったときには周囲を飛んでいた人魂の姿もなくなっていた。

「……無事に話し合いが済んだようですな」
 ずっとそばで見守っていたオジイが声を発した。
「ほう……。さっきまで二つあった意識が一つになっておる。この子の中で折り合いがついたんでしょうな。よかった、よかった」

 すべてが分かっていると言っていたオジイが、まなをのぞき込みながら言った。

「オジイ、ありがとうございます。おかげさまで無事に沖縄へ来た目的を果たすことができました」

わんはただ、人魂を呼ぶ手伝いをしただけですよ。……皆さん、ずいぶん汗をかいておられる。宿に戻って汗を流すのはどうですかな?」

 指摘されて自分たちの身体を見合いっこする。長い間抱き合っていたおれたちは、服からしたたり落ちそうなほどの汗をかいていた。まなを抱っこしている翼に至っては、髪までびっしょりだ。

「正直に言うと、このまま風呂に飛び込みたいくらい不快なんだよな。特にまなとくっ付いてるところが……。まぁ、悠斗に言わせりゃこれが生きてる証なのかもしれないけど、一仕事ひとしごとを終えたあとはさすがにひとっ風呂浴びたいぜ……」

「おれを信用出来ないお前がまなを引き受けたんだからしゃーないよな」
 翼の胸元をのぞき込むと、抱っこひもにくくられているまなは気持ちよさそうに眠っていた。

「じゃあ、交代で風呂に入ってから寝るとしよう。おれもさすがに疲れた……」
 脱力した瞬間、激しい眠気に襲われてあくびをする。つられるようにして二人も眠そうに目をこすった。

 きっと今夜はよく眠れるだろう。しかし、心地よい疲れを感じながら宿に戻ったおれたちを待っていたのは「二度目の不思議な体験」だった。


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※見出し画像は、生成AIで作成したものを使用しています。

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