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【連載小説】「愛のカタチ」#5 斗和の告白大計画その2

前回のお話(#4)はこちら
文化祭実行委員に推薦された凜。斗和の思惑通り、クラスの出し物もクッキー販売の方向で進み始めるが、仕組まれた話し合いに不満を抱く鶴見。何か理由があるのではと思った凜が問うてみても、明確な回答はなかった。モヤモヤを抱いたまま、文化祭に向けての準備が始まる。

斗和

男子全員が販売員をやる、その名も「メンズ・クッキー」を提案してくれたのは意外にもクラスの女子たちだった。学校にあるクッキング部は女子だけだから、ここで男子の作ったクッキーを男子が販売することでインパクトが生まれる、と考えたようだ。ま、その裏には女子は指示するだけ、食べたいだけ的な思いもあるみたいだけど、男子の反応はよく、あっさりとその方向で決定した。

 話はどんどん盛り上がり、おそろいのエプロンも作ろうという話にさえなった。ネットで調べてみると、オリジナルの絵柄をプリントしてくれるサービスはたくさんあり、中でもかわいいデザインのエプロンにプリントできる店に注文することで決まった。

 ただ一人、未だに不賛成の姿勢を貫いているのが鶴見だった。

「全員参加で成功させたいから、注文くらいしといてくれる?」

 放っておいてもよかったが、最後までそれではおれも気分が悪いので、せめて形だけでも参加してもらおうと仕事を依頼する。案の定、鶴見は目をつり上げた。

「どうして私が?」

「今年の文化祭のスローガン『全員参加で一致団結』だろ? ……鶴見って確か、ルールは絶対守るタイプだったよな?」

「……わかったわ。注文すればいいんでしょう?」

「ああ、注文だけでいいよ。夏休み中にしておけば余裕で間に合うだろうし、時間のあるときでいいから」

 あらかじめ印刷しておいたウエブサイトの用紙とエプロンのデザイン画を手渡す。鶴見は中身を見ようともせず、小さく折りたたんで鞄にしまった。

「おーい、高野。クッキーのデザイン決めてるんだけど、こっち来てくれる?」

 遠くで橋本の呼ぶ声がした。おれはそっちに足を向け、話し合いの輪に加わった。

「高野が作るのっていつもシンプルな形が多いけど、今回はもうちょっとこだわろうって話になって。クッキー型、高野は持ってる?」

「持ってるけど、今は全然使ってないな。うちにあるのは確か星形と花形かな」

「女子はやっぱりハート型を入れたいって。後は、顔を描くのもいいんじゃないかって。ニコちゃんマークってやつ。高野的にはどう?」

「型を抜くのはいいと思う。でも、デコるのは正直大変だぜ? 焼いてからもう一手間かけるってことだもん。……その代わり、包装にこだわるのはどうだろう? それならいくらでも、なんなら直前でも対応できるし」

「なるほど……」

 橋本の質問に答えた内容を、はたで凜が書き留めていく。学校ではあまり口を開かない凜だけど、こんなふうにそばにいてくれるだけでおれは満足だった。ずっとこの時間が続けばいいのに。そんなことを考えながら凜の横顔を眺めていた。

   *

「罪な男ねえ。残念なイケメンってあんたのことを言うのね、きっと」

 聞かれたから正直に話しただけなのに、姉は相変わらずの調子で返してきた。あれ以来、何かと実家に戻ってくる姉である。

「え、え? なんで? どの辺が?」

 訳がわからず問い返すが、姉は笑みをうかべ、

「いまだに眺めてるだけでいい、なんて言ってるのが残念、って話よ。一緒に委員になって文化祭を盛り上げるって聞いたときには、斗和もいよいよ男になったか? ってちょっぴり見直したのになあ」

「……勝手に盛り上がってるのはそっちだろ? おれのことは放っておいてくれって言ってるじゃん」

「あのねえ。眺めてたって現実は何も変わらないんだよ? そのうちに、相手の気持ちが誰かのところに向いちゃうことだってあるんだよ? 本当に大好きなら、チャンスは逃しちゃだめ! 恋愛経験豊富なお姉様からの、一番のアドバイスね」

「何がアドバイスだよ……」

 パウンドケーキを頬張りながら言われても、ちっとも説得力がない。

 けれど、なぜだかその言葉を無視することも出来なかった。

 姉の言うとおり、おれは文化祭が終わった後のことを考えていなかった。凜への、もう一つの誕生日プレゼントとして「思い出に残る記念日」を作ることは出来そうだけど、じゃあその後は……? これまで通り、単なるご近所さんでいいのか?

 文化祭を成功させれば、おれも凜もクラス内での評価が上がるだろう。あの凜にも友だちが出来るかもしれない。生真面目な凜に好意を抱くやつだって、もしかしたら……。想像したら急にイラッとした。

「……姉ちゃんなら、どんなタイミングで告白されたい?」

 恥を忍んで問う。凜が誰かのものになることを思えば、姉にからかわれる位なんてことはない。

「そうねえ」

 姉はにやりと笑ってから答える。

「やっぱり文化祭が終わった後ね。そして二人きりになったタイミングでこう言うの。『君のことが好きだ』って。きゃー! 恥ずかしい!」

「だから勝手に盛り上がるなって……」

「まあ、これはあくまでもわたしの意見。この通りにいったら最高だけど、そううまくはいかないのが現実ってものよねえ。わたしも想像とは全く違う告白のされ方だったし。ただね、今しかない! って瞬間は絶対にあるはずなのよ。それを逃さないことね」

 それはなんとなくわかる。だからこそ、姉に凜への気持ちがバレたあのタイミングでは言いたくなかったのだ。おれだって、そんなときくらい格好つけたい。

「うふふ。健闘を祈るわ、斗和君。進展があったら報告よろしく」

 姉はそう言ってまた笑った。

 絶対におれの恋愛模様を楽しんでるだろ、と思ったが、おれ自身も告白を意識したらなんだかドキドキしてきて、文化祭の当日が待ち遠しく感じられた。

 必ず成功してみせる、文化祭も、凜への告白も。

続きはこちら(#5)から

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