漫画家がアニメの現場に顔を出すことについて、今だから言える話

あーなるほどなーと思う同業者のtogetterを見かけて、私も自分に起こったことを回顧録としてまとめたくなった。

私の作品がアニメ化したのは2015年、この方の状況と違うこともたくさんある前提で、何かを否定したりするわけではなく、回顧録として残しておきたいと思いました。
というのも、当時私がアニメ化の際に悩んで「漫画家 アニメ 関わる」とかでググってたんですけど、こういう誰かの知見とか意見が全然ネットには出てこなかった笑
業界の知人づてで大御所の方のアニメの際の関わり方とかは聞くことがあっても、おそらくスタジオ規模や予算のかけ方、漫画家の方のステータスや実績が全然違いすぎていて、自分のケースの参考になりませんでした。

先に一言言っておくと「アニメの監督や制作スタッフと私の関係自体にトラブルはなく今も良好な関係を続けているスタッフの方もいる」ということを前置きしておきます。そういう内容を期待される方には期待外れだと思われます。

「ぜひ原作者の方にも関わってほしい」という製作委員会の声

私の場合もtogetterの方と同じように、「ぜひアニメの現場にも関わってほしい」という声が製作委員会よりあったため、製作委員会に参加することになりました。
この際、私は心配になり「アニメ 原作者 トラブル」などで色々ググってトラブルになった事例を把握していたので、編集部に「原作者が入ることでトラブルになってしまう事例もあると聞いたので私は入らない方がいいのではないか」と一度申し送りをしたのですが、委員会に伝える前に編集者から「いや、製作委員会はぜひ藍先生のお声も取り入れたいし協力いただきたいとかなり好意的に言ってくれているので参加していいのではないか」と言われ、参加する流れとなりました。

製作委員会でうっすら腫れ物扱いされる

そんなこんなで製作委員会に参加することになった私ですが、「ぜひ参加してほしい」と言われてきたはずですが、私が来た瞬間から「思ったより若い作家が来た」「若い女性だし何話していいかわからん」みたいな雰囲気になり、特に私が何を言わなくても声をかけてもらうこともなく、私が何か一言でも発すれば誰も返事をしないという製作委員会の面々からうっすら腫れ物扱いされ、まだ何もしていないが誰からも話しかけてもらえない…という状況に普通に今すぐここから逃げ出したい気持ちになりました笑

結果的に色んな事が合って(私由来ではない)この時の製作委員会のおじさんたちの半数位が製作委員会から抜ける事態とかが起こるんですが、これはまあ今となっては私が腫れ物扱いされたことも含めで笑い話で話せるレベルのことかな…。
そしてそんな私に手を差し伸べて、脚本家の村上桃子さんが一人奮闘してくださって、私に話しかけてくださったり、脚本の細かいやりとりをすすんで私とやってくださったりして、村上桃子さんには感謝しかありません。

私の場合は「アニメに対して製作委員会や現場で原作者として意見を出した」わけではなく、「思ったより若い女性作家だったため敬遠された」というところがtogetterの作家さんと違う点かもしれません。
私が経験したアニメの製作委員会は企業の責任者が集まる場所だったので、経営者の方々から見た私が「作家」というより「若い女性」扱いされ敬遠されたことが多少モヤモヤの残る点だったかもしれません。
それでも全員がそうだったわけではなく、村上桃子さんのようなコミュニケーションをとってくれるクリエイターも参加してくれていたので、「アニメの製作現場」は決して一つの面から語れるものではないと私は認識しています。
ただ、「ぜひ原作者の意見も聞きたい」と製作委員会や編集部が言って勧めてきたとしても、「だからと言って聞く体制ができているか」は別問題なことが多いので、あまり真に受けないでご自分の良い距離感を保っていたほうがいいよということを後輩の同業者の皆様にはお伝えしたいです笑

ちなみに「製作委員会」と「製作会社(スタジオ)」と「音響監督」が別の役割をになっていること、意思決定が違うこと、をよく混同している方が多いように思いますが、実はここって結構一枚岩ではなかったり、それぞれのセクションで思ってること、主軸とすることが違ったりします。
「製作委員会(スポンサーの集まり)(製作会社もここに入る)」
「製作会社(アニメを実際に作るスタジオ)」
「音響監督(監督か制作会社が指名。アフレコ現場の責任者。声優さんのキャスティング、動画が上がってない状態でもアフレコを入れたりできるのは音響監督の手腕)
と私は認識しています。基本的に「製作委員会の意向」を各制作セクション(音響、製作)が取り入れなければいけないけど、制作セクションは職人肌な方が多いので、製作委員会の意向を必ずしもウェルカムしてるとは限らないことも多いです。

幹事会社から「衣装デザインをしてほしい」と言われる

作中に登場するアイドルの衣装をぜひ原作者にデザインを監修してほしい、と幹事会社(製作委員会の幹事をしている出版社)の方から言われ「ではラフを描いて送りますね」と伝え、デザイン画を2枚ほどおこしたところ、衣装デザイナーの方からあがってきたデザインがまったくそのデザイン画と違うものだったため、「あの、デザイン画を描いて送ったはずなんですがそれと違うものになってるようですが…」と幹事会社の方に言ったところ、えっ知らないよみたいな反応をされ、面倒そうにその場で「じゃあどんなふうにしましょうか…」と色々聞かれるため、「私が描いたデザイン画の通りにしていただければ…」と平行線になりかけましたが、結局私が折れていくつか今気になっているアイドルの衣装の写真をその場でブラウザで選定してお見せして、「ああなるほどねー」と言われて先方が納得したようでしたが、結果的に誰のどういった意見が通ったのかわからないデザインになりました。
結果的にアニメの衣装デザインは気に入っているし、デザインした方も悪く無いし、私も漫画内であえてその衣装デザインを出したりしたのですが、まあどうせ真面目に使うつもりがないのだったら最初から連載中の漫画家にデザインしてほしいという話を持ってこないでほしかったな…というのが正直なところでした。
しいて言えば、編集部がどういうディレクションをして私のデザイン画を幹事会社に渡したのか、幹事会社が飽くまで「参考イメージ」がほしかったのか、「監修」までしてほしかったのか、一応「監修」してほしいと言われていたものの、先方が思い付きで言うことに仕事としてレスポンスしても全然違うものが返ってくる、ということはこれ以外にも多くありました。
口だけではなく具体的にイメージできるよようにするためにラフまで描いたつもりだったのですが、そういった具体的なものは先方は求めてなかったのかもしれないですし、予算や何かの都合で無理だったのかもしれません。制約があるのであればあらかじめ編集部や幹事会社から伝えてほしかったと原作者としては思います。
この件は私の目線からはこういった出来事だったんですが、「原作者が扱いづらい」というふうに制作会社や編集部が受け取った可能性は十分にあるかなと思っています。

アニメの監督とのやりとり

アニメの監督とはあまりお会いする機会はなく、製作委員会、アフレコスタジオ、の合計2回ほどしかお会いしなかったかなと思います。
時系列は忘れてしまったのですが、かなり初期の段階でメインキャラのキャラクターデザインを編集部で見せられた時、「これは原作とかなり違う方向性になっているので、読者は混乱するのでは」という申し送りを編集部を通してしたことがありました。
この時、製作会社から来た進行管理の方から会いたいと言われ、新婚管理の方が他のキャラクターデザインを持ってきて、私がそれを編集部で確認することになったのですが、監督としては「アニメはこの路線でいきたいので変えるつもりはない」という意見を伝えられました。
私はその時メインキャラだけでなく、他のキャラクターデザインを初めて拝見したのですが、他のキャラクターデザインを拝見すると「ああ、監督がやりたいことは原作通りの解釈ではなく、ご自分の解釈でこういった方向性で私の作品を解釈していらっしゃるんだな」ということが伝わってきて、私が懸念していた「原作の読者が混乱する」という意見は監督の描いているビジョンとは違うものだから当然なのだと納得することができました。
結果的に制作会社の方に「監督のやりたい方向性が理解できたので、監督の思うとおりに進めて頂いて大丈夫です」とお伝えし、現場も進んでいったと思います。
この時私が申し送りしたことが、どのように監督やスタジオに伝わっていたのかはわかりませんが、キャラクターデザインの作監をされた方は気にされていたようだったので、後日お会いした時に「最初は原作との違いに違和感を感じていたけど、結果的に違うキャラクターデザインでよかったです」とお話しできたことはとても良かったです。
やはり原作者側って周囲の気遣いが回りまわって、変なフィルターを通って意見が伝わることも多いと思うので、私側からの見方が全てだとは思いませんし、オープンマインドに作品を良くするための話をすることって私の立場的にも難しい現場だなということは実感しました。
が、しかしこの直後に、この件とは全く関係のない方向性のことで監督が製作会社からクビにされるという事件が起こり、監督と製作会社が何かもめている…ということを耳にして、ああーどうなってしまうんだ…と蚊帳の外でやきもきする事態になりました。

結果的に監督は作品を降りてしまいましたが、その後メールで監督とやりとりし、クオリティを上げるために尽力して頂いたこと、その姿勢が製作会社との齟齬を招いてしまったかもしれないが、私はクオリティにこだわって手を動かしていただいたことを感謝しているというメッセージをお伝えし、監督からも「不義理な形になってしまい申し訳ありませんが、ご連絡頂き有難いです」というお返事をいただき、何かハートフルなやりとりをできたことは良かったと思いました。

私なりに整理はついている

他にも色々なトラブルに見舞われたアニメ化となってしまい、編集部もアニメ経験がなく作家の扱いを全く分かっていなかったこともあり、当時渦中の私はどんどん精神的に病んでしまいましたし、アニメもなんだか色々なことが勃発して人生の波乱万丈を凝縮したような数か月間を過ごしたのですが、その時の経験がきっかけで編集部との不利な契約を見直すきっかけになったり、その後関係が続いていたスタッフさんづての縁で、音響監督さんとドラマCDを作ることもでき、ドラマCDはとても良い現場にできたのであの時の経験をいかすことができたかなと思いました。コロナ禍でドラマCDの打ち上げができなかったことだけ心残りではありますが…。
声優さんとも個人的に連絡をとれるほど信頼関係を作れたこともあり、大変だったけれど「たくさんの人たちと関わって何かを作る」ということのやりがいも経験できてよかったなと思います。

ただ、その後もアニメに関しても編集部に関しても、私側のスタッフ間でも色々なことが続いて疲れてしまったこともあり、私が病気になってしまったこともありまして、今はストーリー漫画からは距離を置き、エッセイ漫画を無理のない範囲で描き、自分一人でゆったり絵を描くことを楽しむ原点に立ち返ろうと思っているこの頃です。
一時期はもがきすぎて「もう一切誰も信用できない」という気持ちになっていましたし、私の行動がすべて適切だったかと言うとそうではないと思います。
結果的に今も続く人は続いているし、分かってくれる人はわかってくれていたということも理解できたので、過去のこととしてこうして話せるようになってきました。

苦い出来事ではありますが、結局は「自分にリスペクトや愛情を持ってくれる環境」でお仕事をすることを意識していこうという気付きになりました。それがないと、どんなにいい条件や実績だったとしても、結局自分を傷つけ、クリエイターとしての自尊心を削ることになるんだと感じています。

有料記事にしようかと思っていましたが、同じようなことで悩む作家さんが今後出てくるかもしれない、昔私がぐぐって情報が出なくて困っていたことを思い出して、この記事は無料公開で残しておこうと思います。
他にも色々と細かいことはあったんですが、またそのうち気が向いたらまとめたいと思います。

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