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63 九九と足し算

講師の仕事をしていて、よく思うことがある。「覚えなくても良いことと、覚えておいた方が便利なこと」。この区分けをどこでするか。そして、この区分けが大切だということをどう説明するか。

九九と足し算。身近な所に、とってもわかりやすい例があった。

足し算をする時は、毎度毎度暗算をして答えを出す。「9+8=」とあれば、頭の中で「9と8を足すから17だ」という具合に。

でも掛け算の場合は違う。「9×8=」とあれば、頭の中には九九という便利な呪文が唱えられて「72」が瞬間的に出てくる。まさか、9を8回足したりはしない。

一口に問題を解くと言っても、その場で暗算をして答えを出すのか、暗記したものを思い出して答えを出すのかという違いがある。

そして、これは数学のみならず、他のすべての勉強でも言い当たることだと思う。

例えば国語でも。僕は普通に日本語を使って喋りたいことを喋っているけれど、これは考えられるすべてのフレーズを暗記しているわけではもちろんなく、頭の中で、なんとなく文法を「暗算」して、文章を作り出してる。

反対に、暗記しているフレーズもある。慣用句とか折々の決まった挨拶とか。これは丸暗記しておいた方がいざという時にパッと出て便利だ。

冒頭に戻って、なぜこんなことを思うかというと、講師として生徒を見ていると、何でもかんでも暗記しようとする学生さんをよく見るからだ。

僕自身の話にちょっとなるけれど、僕は学校にちゃんと行っていなくて(一応卒業はしたけれど……)、一生懸命なにかを覚えようとした記憶があまりない(だから、覚えてることが少な過ぎて困ることがよくあるんだけど)。

そんな訳で、先程のような学生さんを見ると不思議な気持ちになる。「どうしてそんなすぐに丸暗記しようとするんだろう」と。

多分、小中高の教育の中で、「授業で知って、テスト勉強で覚えて、テストで思い出して答える」というやり方が染み付いてしまったんだろうなと思う。

もちろん、僕みたいに覚えてることが少な過ぎるのは問題なんだけど、暗記に偏りすぎるのも、これはこれで問題だ。

だから、「何を暗記して、何を暗記しないか」を区別しておくことはとても大切なことだ。

そこで、九九と足し算の例が良い参考になる。要は「仕組みを理解していればすぐ答えに辿りつけるものは暗記しない(足し算の例)。頭で考えていては時間がかかり過ぎることは暗記する(掛け算の例)」ということだ。

まず自分の、「暗記」と「仕組み理解」の偏りを自覚すること。そして、そのバランスを整えていくこと。

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