見出し画像

82 考えると完成の、その間に。

少し前に、「自分にはノートが必要だ」と思って、この間やっと文房具屋さんでちょっとお高目なノートを買った。たかがノートがどうしたんだと思うかも知れないけれど、僕にとっては久しぶりのアナログな筆記用具なのだ。

ipadを導入した数年前から、自分の部屋のペーパーレス化が加速して、ノートもペンも久しく買っていなかった。譜面を印刷するのに買った大きな複合機も、今では何かの申請に必要な免許証のコピーを刷る時くらいしか使わなくなった。前は使っていた付箋や小さなメモ用紙も、今では部屋の隅のカラーボックスで埃をかぶっている。

それなのに、ノートがなぜ必要になったのか。真っ白な表紙の、書き心地の良さそうなA5サイズのノート(800円もした!)。パッとわかりやすい理由を説明ができないのだけど、何か具体的な用途があってということではなくて、いわば自分の精神のため。自分の今の状態には、なんでも書き殴れるノートが必要なんだと、ある時ふと思った。

迷うことなく、思ったことをそのままあらわにする。そういうことが最近なくなったなと気づいた。例えば今こうしてnoteを書いていて、バーッと文字を思うままに書いたとしても、間違えたと思えばすぐに消して打ち直す。そうして、「間違えた」という歴史は自然と忘れ去られていく。どこにも残らずに。そういう間違いの残らない環境に、僕は居過ぎた気がする。うまく言えないのだけど、多分それによって、僕は何か大切なものを失っている気がする。大切なものというと大げさなんだけど、重要なものに違いない。

このノートを使うにあたっての目標がひとつある。忘れそうなのでここにもしっかり書き残して置こうと思う。それは、思うままに、書くものはなんでも良い、高いノートだからと言って、汚れること、中身のない内容になることを恐れないこと。時には意味のない線をたくさん引いてみたっていいし(電話中に無意識に書いてしまう落書きみたいな)、日記でも、詩でも、絵でも良い。

「頭の中で考えて、表に出た時には既に完成している」みたいなことを止めたい。作っている最中が見えるような、残るような、そんな環境に身を戻したい。昔はずっとそうだったんだから。多分そこに失ってしまった何かがきっとある。考えると完成の、その間に。


気に入ってくださいましたら、ぜひお気持ちを!