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雑文(39)「いくらばかしの銅貨を手に」

 おもしろ半分だった、ぼくが万引きでチューイングガム(うめ味)を盗んだのは、友だちグループ内での遊びだった、仲間はずれにされたくなかったからぼくは100円足らずのそれを盗んだ、小遣いで買えない額じゃなかったが、あえてそれを選んで盗んだ、見つかったら謝ってお金を払えばいいとぼくはそう思っていたのだ、けれど現実はそれほど甘くなく、友だちに見捨てられて捕まったぼくは、店員と両親にこっぴどく叱られ、それに懲りてぼくはいっさいの盗みをやめた、同時に友だちとの関係を断ち、仲間はずれにされ、孤立した、それでよかったんだと思った、これでぼくは少しばかりはまともになれるだろうとそう思ったのだ、その後の人生は皆さんもご存知の通り悲惨極まりない人生で、水面に顔を出して必死に息を吸ったり吐いたりする人生だった、溺れていた完全に、狂ってしまった――いちど犯してから全てが狂ってしまったのだ、歯車の壊れたオルゴールのように、それは歪な奏を響かせ、ぼくの体を縛っていた。

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