鈴木宗一郎 小説家

有限会社白河馬の代表取締役社長。日本文芸創作協会理事。「月刊アヒル」にて怪奇小説「ひゃ…

鈴木宗一郎 小説家

有限会社白河馬の代表取締役社長。日本文芸創作協会理事。「月刊アヒル」にて怪奇小説「ひゃくやっつ」を連載中。趣味は休日に息子とふたりで海釣りに行くこと。好きな食べ物はシュークリーム(極度の甘党)。最後に、このプロフィールはフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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雑文(92)「片脚」

 川端の「片腕」か、あるいは谷崎の「富美子の足」か、老いた僕は、たまらなく欲した「片脚」を、若い女性から──、それは隠匿に近い、衝動に駆られた、僕の弱さだった。  荒い息遣いのまま僕は、不自然に膨らんだコートの中からそれを掴み出して、シーツの乱れたベッドの上に、労わるように寝かせた。  コートをハンガーにかけ、ネクタイの固い結び目をゆるめ、シャツの第一ボタンを外して、ようやく僕は、ここが自宅なんだと、安堵できた。  ベランダのガラス窓は、横なぐりの激しい豪雨に洗われ、大つぶの

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      AI技術の進化が凄いっ

      アナログな私からすると最近のAI技術の進化が凄いっ、と、唸ります。文字を入力するだけで映画が撮れる技術も絶賛開発中らしいです。近い将来、レジ打ちはもはやそうですが、イラストレーターやアニメーター等、映像制作に関わる職業が廃業する、そんな未来がやって来るかもしれません。でも。AIのアウトプットは人間がインプットした文字列。どんな文字列を選んで入力するかは人間のセンス、文字選びのセンスだけはAI機械に奪われたくない。AIの危険性を遠回しに警告する、AIが絶対に書かない、欠点だらけの人間の書く文章でした。by AIを最後に付け足すセンスも完璧で真面目なAIには、不真面目な私と違ってない。

      • 雑文(04)「禁文令」

         文章の価値を高める、文章を禁じるのがほんとうに最良なんでしょうか、僕はたまに、ふとした瞬間に、たとえば、僕はまあ思うんです。  近ごろでは禁声令っていうんでしょう、発声までなぜか禁じちゃって、いったいなにをしたいのか、誰か教えてほしいんだけど、僕にはわかりません。  文章を禁じて文章は売れたんでしょうか。僕は正直ぜんぜん売れていないと、まあ思うわけです。お国の偉い方たちが、だから庶民の僕があーだこーだ言うのはおかしいのだけれど、言っちゃうとですね、禁文令はあかんと思う、あく

        • 雑文(03)「中学生の宇宙」

           小学生の時から宇宙に興味があったので、宇宙学が学べる本学に入学しました、と、さわやかに笑って、ことし受験して合格した、生徒代表が取材記者の男に笑窪を作って、輝かしい未来の自分像を語って、彼の将来性ある姿はマスメディアで大々的に放映され、お茶の間で視聴した団塊世代の引退世代を乾いた拍手と共に感嘆させた。  全国初の全寮制公立中高一貫男子校は、宇宙学に精通した、優秀な宇宙飛行士、あるいは宇宙機関の職員を育成する目的に巨額の資金を投じて開校した。  がしかし、26年度の春より本学

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        雑文(92)「片脚」

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        • ユーチューバーおじいちゃん
          2本
        • 雑文 Vol. 6
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        • 雑文 Vol. 5
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        • ユーチューバーおばあちゃん
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          雑文(02)「兄貴は姉貴で、姉貴は兄貴」

          「薄々だけどさ、気付いていたよ」  実弟が、実兄にそう言って、実兄は、驚いた容子で、「驚かないのか」と、実弟の冷ややかな態度に驚いた。 「有名私立大学卒で、スポーツ万能でルックスもいい。なのに四十すぎても今まで誰とも付き合ったことがないなんて弟目線の甘々で見ても有り得ないだろ?」 「そういうもんかな?」 「そういうところだよ」  実兄は、実弟をぼんやり眺める。 「それはね、僕からしたら、友だちに自慢できるいい兄さんだけどさ、兄さんがそれでいいなら僕は全然構わないんだけどさ、兄

          雑文(02)「兄貴は姉貴で、姉貴は兄貴」

          雑文(01)「未来指向型リニアモーターカー」

           名古屋に行くのは、名物の手羽先を食べて、酔いたい、というのもあるのだけれど、それだけじゃなかった。  俺が、いや、妻が、妻は窓側の席に座っていて、俺は通路側の席に座っているのだけれど、妻は席に座ってから、未開封でもいい匂いを漂わす崎陽軒のシウマイ弁当に目をくれず、座ってからずっと窓の外の横流しの景色を眺めており、今か今かとその時を、妻と俺はうずうず待っていた。  開通後、中々抽選で選ばれない日々が続いたのだけれど、ようやっと抽選に当たって、その晩俺は妻と喜び合ったのを今も憶

          雑文(01)「未来指向型リニアモーターカー」

          雑文(99)「晴れ風、新発売」

           コマーシャルで、僕の好きな女優さんが、美味しいですよって、そう宣伝していたから、「晴れ風」を見つけた僕は、美味しいですよって、僕の好きな女優さんが、画面越しに僕の目を見て言ったその言葉を信じて、並んでレジ待ちする僕のカゴの中に「晴れ風」が、僕はまた、「一番搾り」をあきらめた。    有料レジ袋から「晴れ風」を取り出して、ウォールナット材のローテーブルの上に、「晴れ風」の500mlロング缶を立てた。  仔細な描写を省き、僕は「晴れ風」を掴み、胸元まで持ち上げると、もう片方の手

          雑文(99)「晴れ風、新発売」

          雑文(98)「文豪AI」

           国家予算の半分を注ぎ込んで開発した文豪AI、しかし想定外の不具合があった。  プログラムを起動して数日後、自らを壊してしまうのだ。  服毒自殺、入水自殺、割腹自殺、ガス自殺。  開発陣は頭を抱える他なかった。

          雑文(98)「文豪AI」

          雑文(97)「スプリングコートの女」

           孝之の馬鹿。  わたしは声に出さず、自分の内側に、そう叫んでいた。  内側にある殻はもろく、わたしが叫んだだけでそれはもうノックアウト寸前だった。  別に、孝之が、自分のたるんだ身体を鍛え直すためにフィットネスボクシングに通っていたから、わたしは、ノックアウト、って表現を採用したんじゃなくて、孝之から強烈な一撃を、もちろん左アッパーとか、右ストレートとか、暴力沙汰じゃなくて、孝之の放った短い、とても短い言葉にショックを受けて、わたしはノックアウト寸前だった。  わたしにセコ

          雑文(97)「スプリングコートの女」

          雑文(96)「或る神童」

          「そう言えば」  僕は、妻に言った。妻は、右向かい、モスグリーンのカウチソファに腰掛けて、長い髪を梳かしてちゃんと乾かさず、与謝野晶子よろしく、みだれ髪のままうつむいて、携帯ゲーム機端末の液晶画面に映る架空の森で暮らす架空の動物たちの暮らしを充実させるのに、必死だ。 「仕事でさ、群馬に帰ったんだけど、そこで、たまたま会ったんだよ。誰に会ったと思う?」 「妻夫木聡?」興味なさげに、架空の森に建てたお家の内装を考えるのに、妻の脳みその半分が、いや、九割近くが家具の配置決めに費やさ

          雑文(96)「或る神童」

          雑文(95)「ゾン後ひとつ ~ゾンビになった後にしたいたったひとつのこと~」

          「つーか、北よ。お前えのしてえことって、それだけかよっ。もっと、なんだ。世界征服とか、国家転覆に奔走した幕末の志士に恥じない、彼等が仰天するようなことをだな、考えて、実行に移せやっ」  って、ゾンビになった蓬莱泉(ほうらいいずみ)が、向かいに座るゾンビになった北一(きたはじめ)に、声を荒げてそう言った。 「世界征服。泉ちゃんらしい」蓬莱泉の右側に座る、ゾンビになった吉野桜(よしのさくら)が声を上げて笑った。 「泉、ひどいよ。泉が、ゾンビになったら何がしたいって訊いたから、僕は

          雑文(95)「ゾン後ひとつ ~ゾンビになった後にしたいたったひとつのこと~」

          雑文(94)「子もど食堂」

           誤字じゃなく店の看板に、「子もど食堂」と、たしかにそう書いてあった。  私は引き戸を引き、中に入った。 「いらっしゃいっ」と、威勢よく、カウンター越しに店主の男がそう言って、私は後ろ手に戸を閉めた。小さな木のテーブルの小さな木の椅子に私は、両腕に両脚を抱え、座った。  店員の女性がやって来て、テーブルの上に、ピンク色フラフープを腰を振ってまわす肥えた青っぽいゾウさんマスコットが中央にいる小さなコップを置いた。 「子どもではないんですが」と、私の右前にいる女性店員に一言そう断

          雑文(94)「子もど食堂」

          雑文(93)「嘘を吐いても許されない」

           伸一郎の首を絞めて、殺していません。  伸一郎は不倫をせず、私に謝りました。  私は彼が憎くなく、彼は私を愛しました。  殺意が芽生えません。彼を殺したくなかったのです。  私は彼を殺していません。  殺す動機がないのです。  彼が憎くくなかった。生きたくなるほどに。  だから私は彼を殺さなかった。  彼が憎くくなかった。当然ではありません。  薬局で睡眠薬を買っていません。買わなかった睡眠薬を彼のコーヒーに混ぜていません。  コーヒーを飲んだ彼はすぐに眠っていません。  

          雑文(93)「嘘を吐いても許されない」

          雑文(92)「ボディソープ」

           いい匂いだねって、翔吾ってば、翔吾の方がいい匂いだねって、私に言わせたいの、翔吾たぶん気付いてないと思うけど、ばればれだよ。  付き合って何年になるって、そうか翔吾、数えるのが苦手だから、私の誕生日だって、たまに忘れて、ごめんって笑って、もちろん寛容さが取り柄の私だから、許してあげるけどさ。  それにしては、それだから? 翔吾、毎日が記念日だって、君に逢えた記念日だって、私のこと忘れて、笑って祝ってくれるけどさ、翔吾なりのジョークだって私、知ってるんだからね。そうやって私を

          雑文(92)「ボディソープ」

          雑文(91)「聲のない形」

               序  未来々々或処で、僕が、或女人とフオオリン・ラヴ、かう云ふ僕は、シルクハツトをかぶつたラ・モオル、或はレエン・コオトを着た河童でせうか。  或秋の午頃、僕は或女人と一しよに、はつきりした形をとる為に蜃気楼を見に出かけた。  或女人は夏目女史と云ひ、又僕は芥川書生と云ふ。      一  千駄木駅の近くにある純喫茶風喫茶、カツフエ『草枕』である。  夏目女史と芥川書生は向ひ合つて坐つてゐる。女給仕の寄越したタブレツトに、親指の腹を押し当てた夏目女史は、民衆好みのブ

          雑文(91)「聲のない形」

          雑文(90)「サバイバル高校生」

          「違えよ」  アサクラユイは、窓を背にして立つイノウエサトシに、半ばあきれて、そう言った。  イノウエサトシは、言わなくていいのに言ってしまう、それが、アサクラユイを逆なでするとは知らずに、こう言った。 「だから出たら、出たらいい」 「おまっ」と、アサクラユイは、イノウエサトシの術中に、いや天然にか、はまるのは否って表情に変わり、これ以上の面倒は勘弁してくれって表情に変わると、イノウエサトシを無視し、窓の外を眺めるマツシマユカリの後ろ姿に目をやり、イノウエサトシと違った、柔ら

          雑文(90)「サバイバル高校生」