見出し画像

6年社会科 基本的人権をどう指導するか

難義な内容順序の変更

平成29年版小学校学習指導要領の社会編では、第6学年の内容の順序が変更するという小さからぬ改訂が行われました。
これまでは長く、歴史学習→公民学習であった内容配列の順序が、公民学習→歴史学習へと変わったのです。
上記指導要領では、その理由を、「政治の働きへの関心を高めるようにすることを重視」したためと記しています。現場では歴史学習に掛ける時数が超過し、公民学習の扱いが簡略化されるという問題もしばしば見られたことも事実です。

また、公民学習そのものの問題点として、知識注入、暗記重視という「大昔」の授業が依然として行われがちであったことも挙げられます。
だからこそ、今回の公民学習→歴史学習という内容順序の変更は、社会科学習嫌い、公民学習嫌いの子供をますます増やす結果を生むことが危惧されます。6年社会科学習のスタートで、縄文時代や弥生時代の人々の暮らしについて出土品や想像図を手掛かりに学習することは、比較的多くの子供にとってその一年間の社会科学習への興味関心や期待感を高めるものでした。そのスタートが、どちらかといえば無機的で、ともすれば上に述べたように知識優先・暗記重視の授業に陥る恐れのある学習内容に取って代わったからです。

6年社会担当教師は、この難義な問題に対応するために奮起せねばなりません。

私は、公民分野の学習内容を無味乾燥で形式的なものせず、できるだけ具体的で子供にとって身近なものにしようと心掛けてきました。

「国民主権」の実践例

その実践例として、「ヒント帳(リフレク帳)22」では、地方公共団体の政治(国民主権)学習における教材開発の方法と「津波避難タワーの建設事業」を教材化した単元展開について示してあります。
よろしければ以下からお読みください。

「基本的人権」指導のアイデア

では、「基本的人権」についての学習の場合はどうでしょうか。
今回の「リフレク帳」では、そのことについて少し考えます。

「基本的人権」の概念も「国民主権」同様、子供にとっては漠然としてつかみにくいものです。

ですから、まず、日本国憲法の前文も含めて、関係する条文を読み、その内容を確かめることが必要です。教科書等にある説明や図を読み取ることも行います。
しかしこれだけでは、生きた知識にはなりません。
そもそも「つまらない」学習です。

そこで、私は「事例」を取り上げ、「基本的人権は本当に尊重されているか」について考えさせてきました。
つまり、ある出来事について、「基本的人権が尊重されているといえるのか」を検討させることで、基本的人権についての理解を深めることをねらうのです。

メインとして取り上げるその出来事は、考察対象となる人権問題が社会的に一定の「大きさ」をもったものにすることがポイントです。
基本的人権が尊重されなくてはならない場面は、身の回り、つまり教室や家庭、地域にもあります。どれも重要な案件ですが、身近すぎる対象は、子供にとっての基本的人権やその侵害についての理解を単純で軽々しいものにしてしまう恐れがあると考えるからです。
そこで、まず「大きな」社会的事象を取り上げ、その後で子供に身の回りを見つめさせるという指導順序にしていました。

その「大きな」社会的事象としては、例えばハンセン病患者に対する国の政策や周りの人々の意識・行為を取り上げました。薬害エイズ問題を教材化した時もあります。

今なら、まさに2024年4月18日に、新潟地裁が判決を下した新潟水俣病訴訟を取り上げるでしょう。
5年時の公害学習と関連付けながら、新聞記事と水俣病を中心とした公害に関する資料を主資料として子供に調査学習を行わせます。そして、判決ではなぜ旧昭和電工に賠償を命じたのか、国への請求を認めないことを自分はどう考えるのかを中心課題とします。
被害者である患者の方々の何が誰によって奪われたのか、今回の判決は、患者の方々の基本的人権を回復するものになっているのかについて特に意見を交わすことになるでしょう。

上記をメインとした学習後に、身の回りでは基本的人権が守られているのか、また自他の基本的人権を守る上で自分のできることは何かを考える学習を行います。
取り上げる身の回りの事象としては、自分の級友に対する言動も対象になります。教師や学校の子供たちへの指導内容も検討の俎上に上がるでしょう。
また、地域おける公園の排除ベンチのような市民社会の抱える問題も話題になるかもしれません。
これはこれで「厳しい」学習になります。

したがって、家庭や地域において子供に配慮すべき案件がある場合には、慎重に学習を進める必要があることを急いで付け加えておきます。それこそ人権侵害になってしまいます。

公民分野の内容を一つのかたまりとして

ちなみに、私が新潟水俣病訴訟やハンセン病患者に関する内容を教材として着目するのは、それが行政、司法、立法と密接に繋がっているからです。これらの素材を取り上げることで、政治の仕組みや働きの学習とも繋げられるわけです。例えば新潟水俣病訴訟では、原告側が控訴を検討しているといいます。それを取り上げることで、三審制の理解に繋がることでしょう。