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難しい平泳ぎのキックは「カエル足」指導でどの子もドル平にならない

平泳ぎの最大のポイントは、キックである。
「ドル平」と呼ばれる、足がドルフィンキックになっている平泳ぎをしている子供を見掛けることがある。
「ドル平」でいいので25m泳げることに価値を置くという教師もいる。いざという時に、水難事故から命を守れるからである。
この指導観の教師は、クロールの泳法指導の前に「ドル平」の指導を行うようだ。クロールよりも「ドル平」の方が子供は習得しやすいからだ。

「ドル平」でもよしとする考え方には、さらにもう一つ理由があるように思う。
それは、「正しい」平泳ぎのキック、つまり足の裏で水を蹴ることが子供にとっては難しいからである。

そこで、今回紹介するのは、その難しい平泳ぎのキックの指導方法である。腕の使い方の指導方法はお伝えせず、キックのみに絞って説明したい。足裏キックができることが平泳ぎ指導の鍵だからである。

今からお伝えする方法で指導すれば、ほぼ全員が足裏キックができるようになる。

それはなぜか。
次の脚の動かし方を教えるからである。

小学校の平泳ぎキックは「カエル足」を指導

私は、文字通り、「カエル足」を教える。

スイミングスクールなどで教える「<今の>平泳ぎのキック」は、実はドルフィンキックにかなり近い。
次のように脚を動かしているはずだ。
まず、股を少し開き、大腿部をできるだけ水平にしたまま踵を臀部に引き付ける。水の抵抗をできるだけ少なくするためである。
次に、引き付け終わったら、バネを弾くように、膝から下で水を押す。
その時に足首を曲げて、足の甲でなく足裏で水を押すようにする。
そこだけがドルフィンキックとの違いである。後は、ドルフィンキックの脚の動かし方にかなり近いのである。

そのため、この脚の動かし方を学校教育で教えると、子供はどうしても足の甲で水を打つようになってしまいがちだ。スイミングスクールなどに通っている子ほどには水に慣れていないので、足首を上手に動かすのが難しいのである。
また、子供によっては、膝を胸の下の方に抱えるように引き付けてしまう子も出てしまう。
体を反らせることがうまくできないのである。

そこで、次のように脚の動かす泳ぎ方を教える。
まさに、「カエル足」、カエルが水を蹴るようにさせるのである。

まず、脚を閉じて真っ直ぐに伸ばした状態から、股を水平に開きながら、膝を曲げ、踵を肛門に向かって引き付ける。

その時、片方の足が上から見て「く」の字になるようにする。膝が脚の付け根よりも前へ出てしまうと、水の抵抗が大きくなってしまうので注意する。
「犬のオシッコ」などと言うと、子供には分かりやすかった。
また、縦に膝を曲げると水の抵抗が増すので横に開くことが大切である。

次に、踵を引き付け終わったら、足の裏を後ろに向ける。そして、そのまま力強く後ろへ蹴る。

蹴りながら脚を閉じる。最初の脚が真っ直ぐに伸びた状態に戻る。

この脚の動かし方を教えると、足の甲でなく足裏で水を蹴ることがかなり容易に子供に身に着く。
「正しい」平泳ぎのキックではないが、この指導方法によって足裏キックを体で覚えてしまえば、後に(数年後に)、「正しい」キックに変えることも簡単にできるようになる。初めから「正しい」キックを無理して教えるよりも、よほど効果的である。

ちなみに、足裏キックを子供に感覚的に掴ませるための方法として、トイレで使うサンダル、「便所サンダル」を履かせてキック練習をさせることが有効だと言う声がある。
足裏で蹴らないとサンダルが脱げてしまうので、脱げないようにキックをすれば自然に足裏キックになるというわけである。
私も、この方法は効果的だと思うが、子供の人数分の「便所サンダル」を用意するのは楽ではない。そこで、私は上記の「蹴り方」を指導してきた。

さて、どのように脚を動かすのか、お分かりいただけただろうか。
この動きがどの子供にも身につくように、今回も段階的指導を行う。

前回もお伝えしたが、この「段階的指導」は<一方通行>ではない。子供が各段階の技能をしっかり体で覚えるまでは、「行ったり来たり」をする。
ただし、クロール指導に比較すると<一方通行>の度合いは大きいので、それを踏まえておくといい。

では、説明に入ろう。

1 まずプールサイドで!

①足首を動かすことに慣れさせる

プールの縁に座って足を水の中に入れさせ、「足首を伸ばす・曲げる」を繰り返させる。
曲げる時はしっかり90度に。伸ばす時は甲を平らに。
人間は水に慣れていないと、水の外では簡単にできる動きでも、水の中では思い通りに動かせなくなると聞く。特に足首などは、水の外であっても日常生活で意識して動かすことが少ないはずだ。
水の中で、素早く思い通りに足首の曲げ伸ばしができるように繰り返しやらせたい。

②プールサイドで足の動かし方を教える

プールサイドにビート板を敷いてうつ伏せになり、「カエル足」の動かし方を教える。
股を横に開き、膝をできるだけ水平にして曲げながら、踵を肛門に引き付ける。そして、足裏で強く空中を蹴る。蹴りながら脚を閉じて伸ばす。
足裏で空中を蹴る時に、ただ脚を動かしているだけで力を入れていない、または、力を入れることができない子が少なくない。教師が手のひらや別のビート板をその子の足の裏に当てて蹴らせるといい。

この時に、「1」で踵を引き付け、「2」で蹴るというように、「1,2」「1,2」と、2呼間のリズムで教えると、「腕の動き」を付けた時にうまく連動できるようになる。

この「陸上練習」が、実はかなり重要なのだが、炎天下の中、水に入らずプールサイドでいつまでも繰り返して行っているのは、楽しくなく非効率的だ。ある程度子供ができるようになったら、ひとまず水の中に入れて次の段階の練習に進んだほうがいいだろう。

2 小プールで練習!

まず、小プールで練習する。大プールでは、なかなか上達しない。
水が浅いのがポイントなのだ。
また、「大量の水」は、子供にとってかなりの「抵抗感」を感じさせるようだ。

①プールの中でサイドの縁を捕まって

プールの中に入り、腕を伸ばして縁を捕まり、陸上でやったように脚を動かさせる。もちろん、顔は上げたままでいい。
ばた足の指導と同様に、脚がうまく動かない子に対しては、教師がプールに入り、脚を持って動きをサポートしてやる。とにかく強く蹴らせることを心掛けるといい。

股をできるだけ水平にして膝を曲げることで、水の抵抗を少なくする大切さを、上にも書いたが、実は小プールで練習するのも、膝を縦に曲げさせないためである。膝を縦に曲げると、小プールは浅いので、プールの底に膝や足が当たってしまう。そこで、子供はそうならないように脚を水平に近い向きで動かそうとする。もちろん、水平と言っても、プールの底面と平行になるほど水平にするのは難しい子もいる。斜めぐらいで大丈夫である。
また、繰り返すが、膝が股関節よりも前へ出ないように注意する。これも水の抵抗を減らすためである。

②「ワニさん」で「カエル足」

小プールに散らばって、「ワニさん」の姿勢になる。腕で体を支え、脚を浮かせて「カエル足」をさせる。
この時、強くしっかりと足裏キックができていると、体が前にぐっと動く。その感覚が自分で分かるので、子供にとってフィードバックになる。
この練習が一番重要である。

体が前に進まない子、進んでいるように感じられない子は、もう一度①に戻って練習するといい。

③ビート板で「カエル足」(息継ぎなし)

上の②の練習で体が前に進むようになった子供は、ビート板を使って「カエル足」の練習を小プールで行う。もちろん、まだ顔を上げたままでいい。

そして、しっかりと足裏で蹴れていて、前へ進んでいるようなら、下の④の段階へ進む。

④ビート板で「カエル足」(息継ぎあり)

息継ぎを教える。
クロール同様、基本は「ブーッ」「パッ」だが、クロールよりもはるかに呼吸が楽にできるので、子供は自発的に顔を上げて息を吸うだろう。
それよりも、上体を使った息継ぎのタイミングをしっかり教えたい。
踵を引き付けた時に顔を上げて息を吸い、蹴る時に顔を水に着けるという脚の動きと連動した呼吸動作を教えたい。

しかし、あせりは禁物。とにかく息継ぎができるようになったら、大プールへ進もう。

3 大プールで練習!

いよいよ、大プールで練習する。

①プールの中でサイドの縁を捕まって

ただし、「大量の水」が子供にとって「抵抗」であることから、まず、プールの中に入り、腕を伸ばして縁を捕まり、「カエル足」の練習をさせたい。

②大プールでのビート板「カエル足」(息継ぎなし/あり)25m

大プールでの「カエル足」に慣れてきたようだったら、ビート板を使って「カエル足」25mに挑戦である。
慣れるまでは顔を上げたままでいいと思う。
それよりも、経験的には、小プールではとても上手に脚が動かせていた子でも、大プールでやらせると途端におかしくなってしまうという子が少なくなかった。
水に対する恐怖からか、ドルフィンキックになってしまう子もいる。
そういう子供は、もう一度小プールに戻してあげた方がいい。

以上で、平泳ぎのキック指導は「完成」である。

なお、上に、キックのリズムについて、「1」で踵を引き付け「2」で蹴るという「1,2」「1,2」の2呼間のリズムで教えると「腕の動き」を付けた時にうまく連動できるようになると、書いた。そのことについて補説しておく。

私は、腕の動きは、「1,2,3」の3呼間で教えた。
けのびの状態から、「1」で腕を三角形の斜辺の向きに掻く。続く「2」で素早く腕を引き付けぐるりと回して顔を洗うように手のひらを上に返す。そして「3」で真っ直ぐに前に突き出す。
キックをするのは、この「2,3」の時である。
「1」の時は、脚は真っ直ぐ伸びて浮いた状態であり、「2」の時に腕の引き付け・顔洗い動作とともに、踵を引き付け、「3」で腕を伸ばすとともに脚もキックして伸ばす。
だから、「1,2」とカウントしていた脚の動きが、腕を合わせると、「2,3」という数え方に合わせて動かすことになる。
ちなみに呼吸は、「2」で顔を上げて息を吸い、「3」で頭を水に突っ込むようになる。

実際にはこの「1,2,3」のリズムは、「1」が短くて、「3」が長い。
「イチ、ニ、サーン」という感じである。