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この日記ネタで言葉・表現を工夫して書ける 「達意の文」を目指す「どの子も日記」第9段階

今回が、日記の指導段階の最終レベルである。
それは、

第9段階 言葉・表現を工夫して書く

ことである。
ここまでの段階を追って日記を書かせることで、もう子供たちは、「伝えたいことが相手に伝わる日記」を書けるようになっているはずだ。

だが、「もっと伝わる文章を書かせたい」、すなわち、「達意の文」を目指させるのなら、もう一段階、ギアを上げる必要がある。
それが、「言葉・表現を工夫して書く」ことだ。

見方を変えれば、ここからが、本当の日記指導の始まりと言える。
そもそも、「日記指導」という指導内容そのものは、国語の指導要領には、ない。
低学年の「B 書くこと」の言語活動例として、「イ 日記や手紙を書くなど、思ったことや伝えたいことを書く活動」と明記されているのみである。
にもかかわらず、私はなぜ日記を書かせてきたか。
それは、日本の国語教育におけるもともとの日記指導のねらいであった「生活指導」的なねらいも含みつつ、「作文指導」の一環としてでだ。

端的に言えば、「書く力」を伸ばすためである。

そして、その日記指導による「書く力」の育成の仕上げが、前回お伝えした「題材見つけ」であり、今回お伝えする「言葉・表現の工夫」である。
指導要領に即して言うならば「題材見つけ」を通して、「題材の選定」「情報の収集」「内容の検討」に関する力をより伸ばせるし、「言葉・表現の工夫」によって、「構成の検討」「考えの形成」「記述」「推敲」の資質・能力もより育めると考えるのである。
教科書教材などによる「書くこと」の指導だけでは、こうした書く力はなかなか育たないというのが、私の実感である。

第9段階 言葉・表現を工夫して書く

では、私はどうやって、子供が「言葉・表現を工夫して書く」ように指導をしてきたか。
これも今までと同様に、いきなり「工夫しなさい」では無理である。

そこで、次のような指示、課題を提示してきた。
ただし、こうした指示や課題は、いきなり一方的に教師が示すのではなく、子供がその指示・課題内容に近い、あるいはそのものの書き振りで日記を書いてきた時などに、それを活かしてきた。その子供の作品を紹介し、「面白い!」「やってみたい!」という反応を受けて、「では、みんなもやってみよう」と投げ掛けてきた。
これまで紹介してきた各段階の指導の多くも同様である。
そこもポイントであろうと考える。

①書き出しを工夫させる(倒置法を使って)

教科書教材「白いぼうし」(あまんきみこ 作)の学習が契機となりやすい。「これは、レモンのにおいですか。」で始まるあの物語である。

読書中の本を机の中から出させて、書き出しを調べさせたこともあった。

子供たちの書いた書き出しを何人か例示する。

「『ファミ、ファミ、ファ、ミ、ファ。』
  ぼくらの六年間で最後の音楽集会が終わった。
  家に帰ると、ぼくはぼんやりとしていた。昨日までは、鍵盤ハーモニカの練習を死ぬほどしていたのに。
 …」

「『何でストライクが入らないんだ。』
 ぼくは、そう思った。
  11月25日に、ソフトボールの練習試合があった。とちゅうで、紅白せんをやった。その時、ぼくはピッチャーだったのだ。…」

「〇〇カップを知っていますか。〇〇カップとは、六年生のサッカーの大会です。この大会で優勝すると、県大会に行けます。…」

「とうとう私の父のチームの番だ。
 今日は、地域のつな引き大会だ。…」

「どんな問題が出るのかなと思いながら、車をゆっくりとおりた。
『ウイーン。』
と音を立てて開く自動ドアをくぐり、二階に上がろうとしたその時、先生によびとめられ、こう言われた。
…」

②「中2」に反対意見を書く構成で

私が「始め-中-終わり」を日記の構成の基本として指導をしてきたことは、以前お伝えした。
ここでは、意見文を日記で書く時に、より説得力を高める方法として、「中2」に「中1」の反論を書く方法を紹介する。
「中」を、「中1」と「中2」に分ける。そして、「中2」に「中1」で述べた意見に対する反対意見を書く。それを踏まえて、「終わり」で、考えをまとめて主張するわけである。
言い換えるなら、「始め-中-終わり」ではなくて、「起-承-転-結」で構成させるということである。

③三人称で書かせる

通常、日記は一人称である。
それを三人称で書かせる。
そうすることで、自分の行動や様子を客観的に表現させるのである。
子供の工夫しようとする意欲が高まる。

子供の書いた例を書き出しだけ紹介する。

「この話は、この学区でたぶんもっとも不幸な少年の実話である。
 その日、彼は、おばあちゃんの家にいた。
 ところが…」

④語り手を変える

つまり、『吾輩は猫である』である。お分かりいただけるとお思う。
これも、子供が意欲的に工夫を凝らして書こうとする。

⑤ユーモラスにかく

子供が楽しくユーモア溢れる日記を書けるようになったら、もう「一流」だと、ずっと思って指導してきた。
もちろん、ねらい過ぎて「スベる」ことも少なくないが、「笑い」を意識して書くには、読み手の心情を想像したり、一般的な捉え方をわざとずらしたりと、子供は頭をフル回転させることになり、工夫する力が向上すると考えてきた。

ある子の書き出しと終わりを紹介する。

「ゴルフボール研究会会長のぼくは、さいきんすごい事実を調べ上げた。
ゴルフボールは、よくとび、よくはねる。そのひみつは何かということだ。
 まず、ボールをお湯で三分間にて、よくかきまぜる。
 おっと、まちがえた。次は、本当だ。
 …
 このことから、ゴルフボールはかたいゴムせいの物だとわかったわけだ。
 やはりぼくは、ゴルフボールを研究して12年のことはある。」

⑥五感で感じ取ったこと・思ったことや考えたことを表現する言葉を工夫する

五感を使って日記を書くことが、くわしく書くことや書く値打ちのある事柄に、気付かせる手だてであることは、お伝えしてきた。

さらに、五感を使って書く時にその書き表し方を工夫させることで、子供の表現はより良くなる。

・例えば比喩を使って
「ぼくたち六年生にとって、同じ場所での同じ行事が今日終わった。
さすがに六年間のえいちが結集されたものになっていた。
 でも、今年で最後である。中学に行ったら、こんなうきうきしたことは、できない。ない。
 それはちょうど、かいねこを捨てるような気分だ。…」

・例えば家族を見つめて
「夢、幸せは自分で実現するものだ。
 明日は、姉の高校しけんの日である。わたしの見るかぎりでは、姉は、かなりきんちょうしている。
 わたしの部屋にえんぴつを借りに来たり、そわそわの様子である。
 わたしは新しいえんぴつを2~3本けずり、わたした。わたしのできること、といったら、ただ合格をねがうしかないのだ。…」

⑦「思った」と書かずに思ったことを伝える

 「終わり」に、「~と思いました。/考えました。」や「楽しかった。/すごかった。/面白かった。」などと書くことは、子供がよく行うことだ。
そのため、どんなことでも、全て「すごい」になってしまう。
これをレベルアップさせる。
これらの言葉を使わずに、気持ちを表現する方法を考えさせる。

例えば、以下のように。

「…
 そして、ついにアマリリスの花が開いた。苦労のかいあり、大きな大きな花をさかせた。上の花びらはピンク色。横から下にいくまでに、花びらの色がピンクから白にかわっている。初めて見た花、アマリリス。それは、何かをわたしに話しかけているようだった。」

「…
 試合が終わって、ユニフォームを見ると、どろでまっ茶色だった。ぼくは、そのユニフォームをギュッと握ってにっこりとした。」

以上が、第9段階の指導の工夫である。
なお、敬体と常体の使い分けについては、述べる機会がなかったが、もちろん指導すべき内容である。しっかり子供に教えてきた。

さて、「どの子も書ける、誰でもできる日記指導の方法」を紹介してきた。
それは、次の九つの段階だった。

第1段階 読むことと言葉で言うこと
第2段階 「したこと」を書けば十分!
第3段階 「したこと」を5W1Hで書く 【くわしく書く1】 
第4段階 五感を使って 【くわしく書く2】
第5段階 「思ったこと・考えたこと」を書く 【くわしく書く3】
第6段階 段落指導と全体構成を「始め-中-終わり」で
第7段階 順序を表す言葉を使う
第8段階 題材を選ぶ
第9段階 言葉・表現を工夫して書く

冒頭に書いたように、「書く力を育む」ことをねらいとして、私は何十年にも渡って日記指導を続けてきたが、ふり返ってみると、日記の指導が楽しかったからだ思う。
日記を通して、子供と通じ合うことを楽しませてもらっていたように感じる。
何よりも、楽しみながら日記を書いている子供の姿を見ることが好きだったのだろう。

中学校への旅立って行った教え子が、「物語を書いたので読んでほしい」と、小学校にやって来たり、「あの時に教わったおかげで、中学生の作文コンクールで大きな賞を取れた。ありがとう。」などと報告に来たりすることにも、ささやかな喜びをかんじていたのかもしれない。

(スタートである第1、第2段階から確認したい方は、その説明記事「ヒント帳 73」へ以下から移動できるので、そこから、順番にどうぞ!)


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