教師の漢字力 「異常なし?異状なし?」・「子ども?子供?」
1 「異常なし」か? 「異状なし」か?
私が勤務していた学校の地域では、長期休業中は日直制度があった。
日直になった教師は、朝と夕方に校内を巡視し、その結果を当番日誌に記録していた。
当番日誌に、「いじょうなし」かそうでないかマルを付けて記録するようになっていたのだが、ほぼすべての学校で、その日誌の「いじょう」の文字が、「異常」と、変換されていた。
おわかりと思うが、これは誤りである。
校内の状態が、普段と変わらないのであるから、「異常なし」ではなく、「異状なし」と表記すべきなのだ。
映画好きの方なら、レマルク原作の「西部戦線異状なし」という映画を知ってらっしゃると思う。
ある程度の年齢の方なら、近年のリメイク作品でなく、旧版の方を御存じだろう。
だが、どうやら私の周りのほぼ全ての教師は、この原作小説も映画も知らなかったようだ。
いや、本当に知らないのは、漢字の使い方なのか。
どの学校でも、「文字が違います」とご意見を申し上げたのだが、<変わらない>学校がほとんどだった。
今年度の夏季休業で当番日誌があるという先生は、確認をされてみてはどうか。
2 「子ども」か?「子供」か?
もう一つ、<学校現場>で常々気になっていた漢字使用があった。
「子ども」
である。
学校現場では、また教育委員会からの文書でも、「子ども」という表記が当然のように使われている。
これも、御存じの方が多いと思う。
2010(平成22)年、常用漢字表に「こども」は「子供」という表記として示された。
従って、「こども」は「子供」と書き表すことが、「標準(目安)」となった。
もちろん、「標準(目安)」であるから、「子ども」という表記が「誤り」というわけではない。
だが、学校では、子供たちに熟語における漢字と平仮名の交ぜ書きを避けるように指導をしている。
例えば、「や根」「かん板」など、「屋根」「看板」と表記したほうが読み取りやすくなるからである。
教科書などでは、未習の漢字の場合はルビをふることで、読みにくさや読み間違いを回避するようにしている。
また、既習漢字はできるだけ使用するようにという指導も、学校では行っている。
「供」は6年生で習う漢字である。
以上から、学校現場では、「こども」を「子供」と表記すべきだと私は考えてきた。
もちろん、先にも述べたように、常用漢字表は「標準(目安)」ではある。
また、これまでの慣習から「子ども」という表記が社会では使われることが多い。
新聞やテレビなどでも、「子ども」表記がほとんどのように思える。
しかし、少なくとも学校現場や教育委員会が用いる文書は公文書であるので、「子供」と常用漢字表に従うべきである(平成22年11月の「公用文における漢字使用等について」(内閣訓令第一号)にその旨が示されている)。
学校内において子供に示す文字表記も、上記の理由から、「子供」とすべきである。
ただし、例えば「こども庁」や「こども園」は別である。
固有名詞だからだ。
3 「子供」は差別表現か?
では、なぜ「子ども」という表記が多く見られるのだろうか。
その理由に、「子供」という表記が差別的であるという考えなどがあるようだ。
磯崎陽輔氏は、そのことについて以下のように述べている。少々長いが引用する。
さて、<学校現場>で「子ども」と表記する教師は、例えばこうした磯崎陽輔氏の指摘している内容を知っているのだろうか。
文科省の考え方を踏まえているのだろうか。
その上で、「子ども」という表記を選択するというのであれば、開かれた議論が期待できる。
だが、通例に則っているだけだとしたら、これ以上無責任なことはないと考える。