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とある研究者夫婦の里親奮闘記 その6

前回(その5)の記事では、乳児院での息子との初顔合わせについて書きました。この記事(その6)では、無事交流が始まってから、比較的のんびりとしていた私たち夫婦がフルスロットルになったきっかけについて書いていきたいと思います。



オリエンテーションについて

初顔合わせの後、交流をスタートすることを決めた私たち。
まずは1時間半ほどのオリエンテーションで注意事項や今後の交流の進め方について、乳児院から「しおり」をいただき説明を受けました。

乳児院ではさまざまな事情を抱えたたくさんの乳幼児が共同生活しています。当たり前ですが写真撮影は(交流中の里子候補含め)禁止ですし、施設内で見聞きする子どもたちのことも他言無用です。また交流中の子どもへの差し入れもすべてNGです。食事も服もおもちゃも、全部ダメ。

乳児院の里親支援担当者とあーちゃんからアドバイスやフォローをいただきながら、決められた交流時間(通常90-120分)のなかで子どもとの交流を進めるとともに介助の仕方を学びます。毎回の交流記録を提出するため、困ったことや悩みなどもかなり細かくフォローをしてもらえる体制です。今思ってもこれは本当に心強かったです。私たちが呑気すぎるのか、はたまた支援体制がバッチリだったからなのか。結局交流が終わるまで私たちは育児書を買うこともなく、ネットで不確かな子育て情報に振り回されるといったこともありませんでした。

さて、オリエンテーションでの説明によると、交流の進め方は大まかに言うと以下のような段階をしっかりと踏んでいくことになるとのことでした。

1)グループ交流
(乳児院に入所している子どもたちみんなで遊んでいる場に参加する)
  ↓
2)乳児院での個別交流スタート!
(里子候補児童と里親候補だけでの交流)
・ 個室交流
・ 屋内共用スペースでの交流(他の子どもたちと遊ぶわけではない)
・ 慣れてきたらお昼/おやつを食べさせるように(乳児院が用意している子どもの食事を食べさせる。里親候補の分の食事は無し)
  ↓
3)外出
・ 慣れてきたら近所の公園で一緒に遊ぶ(本当に近所・場所指定あり)
・ ちょっと歩く大きな公園・児童館で遊ぶ(徒歩圏・場所指定あり)
・ バス・電車に乗って半日一緒にお出かけ(遠出)
    ↓
3)お泊まり
・ 乳児院での交流時間を長くして夕食を一緒に&お風呂に一緒に入る
・ 乳児院内の宿泊用ルームで一緒にお泊まり
・ 里親候補家庭で半日一緒に過ごす(まだお泊まりは無し)
・ 里親候補家庭で一泊二日
・ 里親候補家庭で二泊三日を3回
    ↓
4)長期外泊(1ヶ月間里親候補家庭でのお泊まり)
  

問題なければそのまま里子委託スタート!

交流期間中に子どもとの信頼関係をきちんと築いていくことが何よりも大切です。そのため、新生児などの場合を除き、いきなり里親候補の家に連れて帰るなんてことはまずありません。子どもの様子や我々里親候補の様子を見ながら、里親支援員さんのガイドに従い段階を進めていきます。

とくに乳児院から長時間離れることになる遠出やお泊まりの段階に進むためには、子担当の児相さんと担当の公認心理師さんからのゴーサインが必要となります。ケースバイケースではありますが、長期外泊の段階に進むまでだいたい半年程度、短くても数ヶ月、長ければ一年かけることもあるとのことでした。

里親候補との交流は、子どもにとっては楽しみであると同時にストレスのかかることでもあります。子どもへの負荷を考慮し、最大でも交流は週5日までとのことで、子どもの様子を見ながら週2, 3ペースで交流される方が多いとの説明を受けました。

当時の私は、平日夜間・土曜日業務が多い代わりに、平日昼間は比較的時間調整のしやすい職場にいました。一方、相方は普通に平日の昼間は授業があります。そこで私たちは、平日は私1人で1回、土日に2人で1回程度の比較的のんびりとした交流ペースを想定して最初の数回の交流予約を入れました。

いよいよ交流スタート!

息子が少人数のグループで暮らしている部屋は彼らの「家」であり、私たち候補里親は彼らグループにとっては「他所の人」です。人様のお家にズカズカと入っていくことは無いのと同じように、私たち候補里親は初顔合わせのときを除き、彼らの「家」に入ることは原則ありません。

息子の住む部屋をノックし、あーちゃんに連れられて部屋の外(廊下/共有スペース)に息子が出てきてくれたら交流スタートです。一緒に遊んだあと、時間になったらまた息子を部屋まで送り届け、バイバイをしたら交流終了となります。彼らは集団生活をしているため、送迎時間は厳守が求められます。

交流1日目。
オリエンテーションの翌日です。

その日は平日で相方は授業等があったため、私1人で乳児院を訪れました。
顔合わせの段階ではまだ「ママ」と名乗ることは許されていなかったため、この日初めて息子に「こんにちは、ママだよ」と挨拶をしました。
すると息子は少し照れたように笑ってくれました。
めちゃくちゃ可愛い!!

ということで、交流初日は、あーちゃんや他の子どもたちとも一緒に遊ぶグループ交流からです。施設内の遊戯場のような広い部屋(プレイルーム)にみんなで移動し、みんなで遊ぶなかに一緒に混ぜてもらうことにしました。

あーちゃん曰く、息子はどちらかと言えば自己主張も少なく気が優しいタイプで、お友達と遊びたいおもちゃが被ったりするといつも先に譲って順番を待っているとのこと。「そうなのかー」と思って一緒に遊んでいると…

おや? おやおや???

確かに、おもちゃに関しては他の子に取られても取り返そうとしたり泣いたりすることなく別のおもちゃで遊ぶのですが、私(ママ)に他の子どもが甘えようとすると、何やら不機嫌になってかわいい威嚇を始めるではないですか!

まだ殆ど言葉を話すことがないという息子が「めー」と言いながら、ママを独占しようとする様子に、あーちゃんも驚いているようでした。

「Z君がここまで独占欲を表に出すことは珍しい。みんなと遊ぶよりお母さんとずっと一緒の方が良さそうなので、個別交流のためロビーに移動しましょう。」

あーちゃんの判断により、私と息子はプレイルームから抜け、個別交流用のロビーに移動しました。あーちゃんからロビーや個室の使い方やおもちゃの場所・片付け方法、おむつの替え方・捨て方などを教えてもらった後は、抱っこしたり、手を繋いでフロア内をお散歩したり、息子お気に入りの玩具で一緒に遊んだりしながらその日の残りの交流時間を二人で過ごしました。

何から何まで初めてのことで、交流時間は本当にあっという間のことでした。時間になるとあーちゃんが待つ「部屋」に息子を送り届け、「また来るね」と言ってその日の交流は終了となりました。

「パパ」「ママ」という存在

さて、私たち夫婦は交流スタートのタイミングで息子(里子候補児童)に自分たちのことを「パパ」「ママ」と名乗りました。このことについて少し補足をしておきたいと思います。

顔合わせの段階では「パパ」「ママ」と名乗ることはNGですが、交流をスタートした後に「どう名乗るのか・子どもにどう呼んで欲しいか」は、児相さん・乳児院さんと相談して決めます。子どもの状況や様子、里親候補の希望によっては、子どもにあだ名で呼んでもらうこともあれば、私たちのように「パパ」「ママ」と呼んでもらうこともあるそうです。

あーちゃん曰く、当時の息子は、お部屋でみている乳児向けアニメ等からどうやら「パパ」「ママ」という存在がいるらしいということは認識し始めているが、そのことと「自分のパパ」「自分のママ」という感覚はまだ繋がっていないのではないかとのこと。

息子は生まれてすぐに乳児院に預けられ、それから一度もいわゆる「実親」との交流がなかったこともあり、私たちは交流スタートのタイミングで「パパ」「ママ」と名乗ることになりました。

すぐ来るから! またすぐ来るからね!!

さて、交流2日目。
今度は土曜日に私と相方の二人揃っての交流です。

一緒に掃除機のおもちゃで遊んだり、息子が職員さんが部屋を掃除しているのを遠目でじーっと見ているのを一緒に見たり。
あっというまに90分の交流時間が終わり、その日もあーちゃんの待つ「お部屋」に息子を送り届けました。

私たち: (あーちゃんに対して)よろしくお願いします
あーちゃん: お預かりします。
私たち: (息子に向かって)じゃあね。また来るからねー。

と手を振って帰ろうすると、突然息子がガン泣きするではありませんか。
それはもう、天地がひっくり返ったのではないかと思うほどの、まごうことなきガン泣きです。

うわーーーーーん。えーーーん。ビービー。

やばい。泣き顔めっちゃかわいい….と思いつつ、「大丈夫だよ! すぐ来るから!またすぐ来るからね!! 」と私たちは二人とも大慌て。

週2ペースを予定していた私たちでしたが、そのまま帰りに里親支援員の方と相談し、もともとは来る予定ではなかった翌日の日曜日にも交流の予約を入れて帰宅しました。

ちょうど学期も終わるタイミングであったこともあり、それからはお互いの仕事の合間を縫って、せっせと週4ペース乳児院に通うようになりました。無理せず週2くらいのペースで….と言っていたのは何だったのか苦笑。
可愛すぎる息子のガン泣きに一発KOされてしまった私たちなのでした。

その後の交流については、また次の記事で。
今度は割とすぐに更新します。多分。

ではでは。








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