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座頭市VSエヴァンゲリオン

「あ、あっしがエヴァンゲリオンに……?!」
 座頭の市は、何も写さぬ目を驚愕に見開いた。
「その通り」
 第三新江戸都市の貸元、ネルフの親方分であるゲンドウは、その油断ならぬ年輪の刻まれた皺をさらに歪ませた。
「市っちゃんにはこのままエヴァに乗ってもらうってわけよ」
「へ、へえ」
 虚空を見つめる座頭市は、ゲンドウの言ったことをまだ飲み込めていないようだ。
「ですがあたしはこの通り目暗でして、エヴァに乗ろうったって。そんな前に進めばいいんだか横に進めばいいんだか。お役に立てるとは思えません」
「うん、そうは言うがな。市、お前のその居合の腕。そのままにしておくのは惜しい。使徒の連中もここ最近どうにもきな臭くて放ってはおけねえ。どうだ、ここは俺を助けると思って、エヴァに乗ってくれねえか」
「へえ、あんたを助ける、ですか」
 座頭市の言葉に皮肉めいたニュアンスを嗅ぎ取ったゲンドウは眉を寄せる。
「なんだ。文句があるってのかい」
「い、いえ。そんなとんでもない。ただあたしはもう、ネルフを発とうかと思っていましてね」
「なに……ネルフを発つ!?」 
 するとゲンドウは、ははあと得心がいったように笑う。
「市っちゃんも悪いお人だ。コレが欲しいってんだな」
 ゲンドウは座頭市が見えないのにも関わらず、銭のジェスチャーをする。
「えッ!? えへへ。いえ、まァ」
「よぉし、いいだろう。十両でどうだ?!」
「……十両。へええ、こりゃあ大きく出なすった。十両。まァ……いつまでもお世話になっちゃ悪いや。明日には発たせて貰います」
「た、足りねえって言うのか!?」
「た、足りねえって。あたしはただ、これ以上お世話になっちゃ悪いなァと」
「よし、いいだろう! 十五両でどうだ!?」
「十五両!?」
 座頭市は鼻で笑う。
「だったら二十両だ!」
「二十両…」
 座頭市は深く溜め息をついてみせる。
「まあ、まあ、良いでしょう。これ以上親分の心意気を無下にしちゃいけねえや。今回はそのくらいで手を打ちやしょう」
「て、てこたあ…」
「へい、あっしがエヴァに乗らせていただきやす」

 さて、奇妙になったものだと座頭市はひとりごちる。
 第三新江戸都市で草鞋を脱いでちょいと小遣いでも稼ごうと思っていたら、まさかエヴァに乗ることになろうとは。
 すると、どこからかスンスンと泣き声が聞こえる。
「ぼ、坊や。どうしたんだい?」
 どうにも放っておけねえと、座頭市は声のする方へ話しかける。
「おとっつぁんにエヴァに乗れって言われているけど、怖くて乗れねえんだ」
 声が返ってきた。少年の声だ。
「エヴァ……ってぇと、君も、エヴァパイロットなのかい?」
「うん、でも上手く操縦できないし、いつもおとっつぁんに怒られるんだ」
「おとっつぁん……ゲンドウの親分か」
 ゲンドウの息子、シン吾郎はうなずく。
「そうかそうか…でも、心配はいらないよ。おじちゃんがエヴァに乗るからね。悪いやつは、おじちゃんが叩ッ斬ってやるから」
「本当かい? でもおじちゃん目が見えないのに、そんなことできるの?」
「エッ…へへへ。子供は正直でいいねえ。まあ、めくらはめくらなりに、やれることがあるのさ」
「じゃあ、オイラもエヴァに乗るよ。エヴァに乗って、おじちゃんを守るんだ」
「おお、本当かい? へへぇ、こいつぁ嬉しいなあ」
 座頭市笑いながらシン吾郎の頭をなでる。
 しかし、いつしか座頭市の表情は憂いを帯びたものに変わっていった。
(仕方ないとはいえ、子供までこんな出入りに駆り出されるたあねえ…)
 その時である。
 ブガー! ブガー!
 ブザーが鳴り響く。
「な、何事だ?!」
「出入りだ出入りだ!」
 ブザーに負けじとシン吾郎が叫ぶ。
「使徒が攻めて来たんだ!」

 エントリープラグの中にLCLが注入される。
「こ、こりゃあ一体なんです!?」
 座頭市はLCLの中でもがき、溺れてる。
「大丈夫だよおじちゃん。すぐ慣れるんだよ」
 肺がLCLで満たされた座頭市は、思いっきり息を吐きだした。
「最近の子供は物知りだねえ」
 肩で息をしながら、座頭市は呟いた。
『市さん』
 エヴァンゲリオン開発責任者おリツは座頭市に通信を入れる。
『とりあえず、今は歩くことを考えて』
「へ、へえ。でも、使徒を倒さなきゃ、ならんでしょ」
『そりゃもちろんよォ』
 歩いて使徒が倒せるものか。そう言っても、栓無きこと。
「ま、やれるだけやるか」
 座頭市は操縦桿を握り直す。
 おリツは戦闘指揮担当のおミサに頷いて見せる。
「構いやしませんね」
 おミサはゲンドウに最終確認する。
「構いやしねえよ。ヤツもやるッて行ったんだ。二十両ぶんの働きはしてもらわなきゃ、割に合わねえぜ」
 ゲンドウから確認をとったおミサは、エヴァンゲリオン発進スイッチを押す。
「エヴァンゲリオンZ号機、発進!」

 座頭市を乗せたエバンゲリオンZ号機は地上へ躍り出る。
 想像以上の衝撃が身体を走る。LCLに満たされているとはいえ、盲目の座頭市にとって突然の衝撃には敏感だった。
「とりあえず、歩く……か」
 エヴァンゲリオンZ号機が足をあげ、第三新江戸都市の地面を踏み鳴らす。
 その瞬間、座頭市は「こりゃ駄目だ」と思った。
 なんとか使徒が三体いることはわかった。だがそれだけだった。
 市が普段人を斬る時、頼りにしているのは耳と鼻、皮膚感覚、そして勘である。
 だがこのエントリープラグの中にいる限り鼻は利かないし、鼻が利かないとくれば勘も効かない。
 これは目隠しした目明きと変わりねえや。
 おリツから「目標をセンターに入れてスイッチよ」と通信が入る。
 はてなにが目標でなにがセンターなのやら。
 そう思った瞬間、エバンゲリオンZ号機の顔面は使徒の放った光の刃に貫かれた。
 Z号機は貫かれたところから血液のようなものを噴射した。
 司令ルームのモニターにはなんらかのエラーがたくさん表示される。
「馬鹿な……」
 誰かが呟いた。
 座頭市でも敵わぬというのなら、誰があれに勝てるのか。
 誰もが絶望しかけた次の瞬間、一閃。鈍色の光が閃いた。
 使徒の腕が第三新江戸都市の街に落ち、大きな土煙を巻き起こす。
 霞むモニターの中、土埃の向こう側で、プログレッシブ・ドスが光る。
「Z号機確認!」
「座頭市……!」
「市さん……!」
 座頭市は操縦桿を握り、Z号機は長ドスを構えている。
「こりゃ、大変だぞ」
 普段通りとはいかない。だがなんとか要領はつかめてきた。
 このLCLってやつも、生身ほどではないが、外界の情報を取り込んでくれる。嗅覚は相変わらず不明だが、肌感覚はなんとなく掴める。
 エヴァンゲリオンZ号機は猫背になり、プログレッシブ・ドスを杖のように構える。
「どっからでもかかって来な」
 座頭市がエヴァンゲリオン越しに発する殺気は、使徒をも完全にたじろかせ、膠着状態をつくりだした。
 その時である。
『おじちゃん!』
「……!?」
『おじちゃん助けて!』
 悲痛な声が聞こえる。子供の声だ。
「し、シン吾郎くんかい……!?」
 座頭市は耳をあっちへこっちへ傾ける。
『おじちゃん助けて!助けて!痛いよ!』
 確かにシン吾郎の声だ。どうにも普通の様子じゃない。
『やい、座頭市!』
 ゲンドウから通信が入る。
『さっきから何ブツブツ言ってやがんでえ!』
「ゲンドウの親分……!」
 座頭市はそのゲンドウの言葉にカッと頭に血を昇らせる。
「お、お前さん。自分のガキが助けをもとめてるのに、何を言ってやがる……」
『…………』
「助けて、痛いよって言っているのが、聞こえねえってのか」
『座頭市、おめえは目だけじゃなくて頭までイカれちまったようだな』
「なにを……」
『シン吾郎は死んだよ』
 座頭市はゆっくりと唾をのみこむ。
 プラグスーツの下で、うっすらと汗をかいていた。
「……冗談じゃあ、ありませんよね」
『やつはエヴァンゲリオンの暴走に巻き込まれて死んだ』
 ドッと、鼓動が揺れる。
『おレイ、おアス、そしてシン吾郎は死んだ。みんな暴走しちまってな。だからおめえなんかが代わりにエヴァに乗ってるんじゃねえか』
 ゲンドウの親分は嘘をついていない。目が効かないぶん聴覚の鋭い座頭市は、人の嘘がよく見抜ける。その聴覚を以てして、彼は数多のイカサマを破ってきたのだ。
 故に、ゲンドウの言葉に嘘はない。それが座頭市にはわかった。
 なら、未だこの耳に響く、シン吾郎の声はなんだというのか。
 考えられるのだとしたら一つ。
「シ、シ、シン吾郎くん……そ、そこにいるのかい?」
 座頭市は、目の前の使徒に話かける。
「シン吾郎、そこにいるんだろう!?」
『やい、座頭市! さっさとやっちまわねえか!』
「ゲンドウの親分……目の前にいるこいつは、ほ、本当に使徒なんですかい……? もしかして…こ、これはエヴァなんじゃあ」
『……』
 ゲンドウはスピーカーの向こうで小さくため息をついた。
『反応は使徒と示している。ならばそいつは使徒だ』
 その言葉が、決定打となった。
「てこたあ、やっぱり……!」
 シン吾郎の声が、座頭市の頭に響く。
『おじちゃん、助けて! 痛いよ……腕が、腕が!』
 座頭市は息が上がっていた。乱れた呼吸はLCLでさえ整えてはくれない。この使徒が暴走したエヴァなのだとしらら、この手で斬ってしまったもの。それは。
「お、俺はとんでもねえものを…斬、斬……」
 座頭市は操縦桿を握りながら震えている。
『やい、座頭市! さっさと斬っちまわねえか!』
「あ、あたしに、子供を殺せって言うんですかい……?」
『ガキじゃねえ。使徒だ……』
 三体の使徒が吠える。
 おレイ、おアス、そしてシン吾郎の乗ったエヴァンゲリオンだ。
 座頭市は咄嗟にプログレッシブ・ドスを抜きそうになる。
 その身に焼き付いた殺人技が、否応なく殺意に反応してしまうのだ。
 それでも、座頭市はなんとかプログレッシブ・ドスを抑えつける。
 どんな悪党をも一刀に斬り伏してきた座頭市。御法度の裏街道に名を轟かせる兇状持ち。だが、子供だけは斬れるはずもなく……。
「ゲンドウ親分」
 座頭市は通信を入れる。
「あんたは、腹ァくくったんだな」
『ああ、そいつァ使徒だ。殲滅なくして、人類補完なんざできねえよ』
「それでしたら、あっしも腹ァくくらせていただきやす」
 座頭市はプログレッシブ・ドスをプログレッシブ・仕込み杖に納める。
 グッと姿勢を低くし、耳を振るわせる。
 座頭市の抜刀術。その極意はカウンターにあり。
 襲いかかって来るものの音を聞き分け、刀を降り終えるより先に神速の居合いで叩っ斬る。
 だが、座頭市に子供を斬ることはできない。
 故に、座頭市が狙うはエントリープラグ。
 シン吾郎、おアス、おレイの眠るエントリープラグを斬り放し、エヴァンゲリオンを叩っ斬る。
 それこそ、死中に活を見いだす、最善の手立てなり。
 エヴァンゲリオン初号機がグッと太刀を振り上げる。
 座頭市は最速で反応し、プログレッシブ・仕込み杖からドスを抜く。
 巨大な質量を持つプログレッシブ・ドスは座頭市の神速の居合いによって、膨大な風を巻き起こす。
 切っ先を初号機のエントリープラグ筒まで伸ばし、伸ばし──ついぞ届かなかった。
 ひらりと身をかわした初号機はそのまま太刀を振り下ろしプログレッシブ・ドスを叩っ斬る。
 プログレッシブ・ドスの切っ先は弧を描いて回転し、山に突き刺さった。
 なぜ、座頭市のドスは初号機に届かなかったのか。
 勝手違いのエヴァンゲリオンに乗っているせいか。あるいは、使徒が、シン吾郎が座頭市より上手だったからか。
 少なくとも、人を殺めるドスで人を生かそうとするなど笑止千万。
 お天道様も、座頭市の所業にさぞかし呆れていることだろう。
 最も、座頭市にそれを確認する術はなかった。 
 座頭市はただ観念するように、静かに唾を飲み込んだ。
 初号機の太刀が閃き、エヴァンゲリオンZ号機は十字架めいた爆炎を上げ、第三新江戸都市のしみとなった。

 ネルフの司令室はお通夜めいた空気となっていた。
「……エヴァンゲリオンZ号機、大破」
 おマヤのか細い声が、無機質な壁に反響する。
 ゲンドウは司令室の巨大モニターから背を向け、ただ虚空を見つめる。
 おリツは冷静に現状を見つめ、分析していたが、状況を打破する手立ては既に尽きていることを理解していた。
 誰もが、この状況に、絶望しきっていた。
 今やこの最大防備を誇るネルフ司令室も、ただの巨大な棺桶にすぎなかった。
 あの果敢なおミサさえ、砂嵐状態のモニターを睨みつけるのを止め、肩を落とそうとしていた。
 その時であった。
 芦ノ湖周辺から巨大な爆発がおこる。
 爆発は大地を砕き、粉塵を巻き起こす。
 モニターが復活する。
「あれは……」
 ゲンドウは振り返り、おミサは息を飲み込む。
 粉塵の向こう側で、なにか巨大なものがうごめいている。
 使徒でもエヴァでもない。巨大ななにかが。
「おマヤ!」
 指令室のモニターでは、その巨大ななにかを分析しようとスーパーコンピュータおMAGIがグラフとかを上下させていた。
「ただ今解析中……出ました!」
 その結果におマヤは息を飲み込む。
「パターンZ! 座頭市です!」
 巨大な風が起こり、粉塵を吹き飛ばす。
 その向こうからヌッと地獄じみた気配を纏ってあらわれたのは、巨大な座頭市だった。
「座頭……市」
「座頭市!」
「座頭市だと!?」
「市さん……!」
 大きな座頭市の足が、第三新江戸都市の大地を踏みならす。
 座頭市の相貌が、第三新江戸都市の山頂を見下ろす。
 座頭市の仕込み杖が、ビルの合間を縫って進む。
 その光景を、ネルフ職員はただ息を飲んで見守っていた。
「座頭市が巨大化するなんて……そんな馬鹿なことが」
 おマヤにはまるで理解できなかった。
 だがおリツには心当たりがあった。
「エヴァンゲリオンZ号機は最後のエヴァとして開発された機体…。つまり円環を補完するミッシングリンクであり、相補正のうねりによって理論上可能…!」
「そんな!」
 だが事実、相補正のうねりによって巨大化した座頭市がそこに立っていた。
「巨大化した座頭市はもう人とは言えない。言うなれば神に近い存在。すなわち、シン・座頭市」
「シン・座頭市……」
「まさか、人であることを捨てたというの。ただ子供たちを救う。それだけのために」
 ゲンドウは息を飲み込む。
「市っちゃん! 頼む! 息子を……シン吾郎を助けてやってくれ! 頼む!」
 当然、その声はシン・座頭市に届くことはない。
 シン・座頭市は、ただ祈るように杖を握り、何写さぬ眼で周囲を睨みつける。
 エヴァンゲリオン越しではない、生身の殺気が使徒を威圧する。
 耳も鼻も皮膚感覚も効く、座頭市完全体。
 鬼神すらも迂闊に手を出せぬ存在。
 だが、座頭市はその殺気を緩めた。
 座頭市は、再び試みようというのだ。殺人技で、人を生かす御業を。
 おお、座頭市よ。最早お天道様は呆れて物も言えまい。
 だが、座頭市は御法度の裏街道を歩く天下の嫌われ者である。それがお天道様に蔑まれたからとて、なんだというのだ。
 日陰者結構。
 座頭市は静かに手を添え、サッとドスを抜いた。
 風をも切り裂くような、一閃。
 あるいは、そう見えたかもしれない。
 だがスーパーコンピューターおMAGIは座頭市の太刀筋を正確に分析していた。
 その太刀数。およそ1000万。
 座頭市のドスは正確にエントリープラグを切り離した。
 座頭市は静かにドスを仕込み杖に収める。
 その瞬間、十字架めいた爆炎が三つ。第三新江戸都市に輝いた。

 シン吾郎は目を覚ます。
 知らない天井だった。
 シン吾郎が起き上がると、ゲンドウが静かに涙をながしていた。
「良かった……良かった……」
「オイラは……」
 ふつふつと記憶がよみがえる。エヴァンゲリオン。使徒。そして座頭市。
 色々あって精神が繋がっていたシン吾郎は、確かに座頭市と言葉を交わしたのだ。
「おじちゃん、おじちゃんはどこ?」
「おじちゃんってぇと、市っちゃんのことかい?」
「おじちゃんはどこ行ったの?!」
「市のやつなら、ネルフを去ったよ」
 ゲンドウは寂しげに言う。
「神の領域へと近づいたやつは、これからも使徒に狙われる。だから、ここには、人のいるところにはもういられねえって、去っていた」
「そんな!」
「あ、おい、シン吾郎!」
 シン吾郎は病院を飛び出した。
 第三新江戸都市の街を抜け、海岸に出る。
「おじちゃーん!」
 シン吾郎は遠くへ向かって呼びかける。
「おじちゃーん! おじちゃーん!」
 シン吾郎は呼びかける。何度も何度も。座頭市のことを。
 さざ波だけが、シン吾郎に返事をした。

 座頭市は、海をかきわけるように移動している。
 ふと、自分を呼ぶ声がした気がして、ぴたりと止まる。
 そんな考えを笑うように首を横に振ると、座頭市は再び歩き出した。
 そんな座頭市の寂しい背中を、夕陽だけが見ていた。
 どこからともなく、染み入るような歌が聞こえる。

~座頭市~
唄:勝新太郎
作詞:川内康範 作曲:曽根幸明

「俺たちゃな 御法度の裏街道を歩く渡世なんだぞ いわば天下の嫌われもんだ」(セリフ)

およしなさいよ 無駄なこと

いって聞かせて そのあとに

音と匂いの 流れ斬り

肩もさみしい 肩もさみしい

「ああ…嫌な渡世だなァ…」(セリフ)

親のあるやつ どきやがれ

いやだいやだと よけながら

涙忍んで 逆さ斬り

どこへ行くのか どこへ行くのか

「はははは…ああ、もう眼があきてえなァ」(セリフ)

おやめなさいよ 罪なこと

情け知らずの さげすみを

花を散らして みだれ斬り

夕陽を浴びる… 夕陽を浴びる… 夕陽を浴びる…

夕陽を…………

……………

………




 ──香港。
 歪な進歩を遂げてきた国際都市で、二つの巨神が向かい合っていた。
 一方は禍々しいほど背鰭を明滅させる怪獣王。
 もう一方は毛を逆立て大地の如き胸板を叩く守護神。
 太古からの因縁に今、ケリが付こううとしていた。
 そこに、もの哀しい笛の音が鳴り響く。
 "あんま笛"の音だ。
 怪獣王と守護神が、笛の鳴る方へ首を向ける。
 そこには、うす汚れた羽織を着た男が背中を向けていた。
 怪獣王と守護神は、怪訝な顔をする。
 視線に気がついたのか、男は、地獄の底からひねり出したかのような笑い声をあげる。
「邪魔しちまったかな……まあ、戦う場所は選ばなくっちゃいけねえな」
 シン・座頭市の仕込み杖が、閃いた。

『座頭市VSエヴァンゲリオン』 完

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