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40周年を迎えたニール・ヤングのアルバム『Re.ac.tor』

 ビートルズの『レット・イット・ビー』の新装ボックスが話題となっている。このアルバムの制作にまつわるアレコレが気になるファンにとって、これはとても興味深いアイテムだ。多くのブートレグが出回っている『レット・イット・ビー』セッションだが、それが一部ではあるにしても、ここにきて蔵出しされたことを歓迎するファンは多い。
 ビートルズに限らず、「〇〇周年記念」ということで、未発表音源やら未発ライヴなどを、リマスターしたアルバムとともにパッケージし発売する、そんなものがブーム化している昨今。さまざまな形態で発売される、いわゆる"デラックス・エディション"に思うところはいろいろあるけれども、それはともかく。

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 今月2日、ニール・ヤングのアルバム『Re.ac.tor』も、リリースしてから40周年を迎えた。このアルバム、40周年ながらも新装されて発売されるなんてこともなかったし、そもそもアニヴァーサリーを迎えたこと自体まったく話題にならなかった。ニールの場合、自身の膨大なアーカイヴを自分のタイミングで頻繁に蔵出ししているので、〇〇周年などという時系列で作品を振り返ったりなどしない。アトランダムなアーカイヴ作品は、時代など関係なく、出したいものがあったときに出すスタンスだ。
 ニールの全キャリアを通してみると、『Re.ac.tor』はさして重要な作品とみられていない。実際、彼の作品としてはあまり印象に残らない、いってしまえば凡庸なものだ。ただ、このアルバムの背景には彼の人生においてとても重要な出来事があった。それは彼の息子ベンと築く絆の構築、その挑戦の始まりだった。

 ベンは脳に障害をもって生まれ、他者とのコミュニケーションがとれないハンディキャップを背負っていた。ニールと妻ペギは特殊な医療プログラムでベンの障害に対処することを決意、そのプログラムに取り組んだ。ただし、そのプログラムは生活に厳しい制約を強いた。在宅時間も管理されるため、当然ツアーなどには出られない。夜は絶対に家にいなければならない。自由に使える時間は午後2時から6時まで。ニールが音楽活動にかける時間は一日4時間に限定されたのだ。急な生活スタイルの変化ゆえ、彼には大きなストレスがかかった。ストレスと向き合いながら、自由になる4時間を利用して、スタジオに入った彼はクレイジー・ホースとセッションする。そうして出来上がったのがこの『Re.ac.tor』なのである。

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