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スラムダンクの新装再編版を語る〜第13巻:まるでバスケットボールの神様によるご褒美のように。

どうも、いしかわごうです。

新装再編版「スラムダンク」を語るシリーズ。今回は第13巻のレビューです。

第13巻のタイトルは「湘北vs.陵南3」
#175主役から#185インターハイまでの第11話分の収録です。

まずは表紙の考察から。

三井寿がシュートを放っている場面です。カバーの裏面で電光掲示板が写っており湘北が18点と表示されていました。スコアを確認すると、前半終了間際に連続3ポイントを決める1本目の場面だとわかります。福田吉兆のマークを三井が担当してスティールし、そこからの速攻につなげて流川からのリターンを決めたシーンですね。

帯コメントは「くそ・・・なぜオレはあんな無駄な時間を・・・・」

こちらは終盤に脳貧血気味になって倒れ、ポカリを飲みながら階段で悔やむシーンです。2年の過去を悔やむ三井。ただ三井が力尽きたことによって、三年間頑張ってきた木暮に出番が巡ってきたわけです。そして、それがこの試合の勝敗を決定づける大きな巡り合わせとなる展開が泣けるところです。

では本編です。

■ラスボスには最初に負ける。少年漫画の鉄則

インターハイ出場最後の椅子をかけ、宿敵・陵南高校との一戦に決着がつきます。

物語前半のクライマックスと言っても過言ではありませんね。山王戦のクライマックスでも有名な決着までの無音のシーンは、この陵南戦でも採用されています。

 ラスボスやライバルに最初は敗北するというのは、少年漫画のセオリーとしては王道です。スポーツ漫画になぞらえれば、「一度敗れた相手に、大舞台で勝ってリベンジする」という展開がそうでしょう。これはやはり盛り上がるわけです。

 有名なところで言えば、キャプテン翼がそうですね。
主人公の翼くんというのは、実は試合での負けがほとんど描かれません。翼くんが負けた試合というのは、プロになって活躍している現在もほとんど描かれていません。

 「ほとんど」と書いたのは、例外もあるからです。
それが小学生時代からのライバルである日向くんが率いる明和FC戦。予選リーグで対戦した試合で、壮絶なゴールの奪い合いの末に、翼くんのいる南葛は明和に敗戦。全編を通じて唯一負けた試合で、負けて涙を流す翼くんの姿に日向くんは衝撃を受けています。

ただ明和との試合での敗戦は、トーナメントではなく予選グループだったため、その後は全勝で2位でグループを突破。明和へのリベンジの機会が決勝戦で巡ってきて、見事に優勝をしています。ちなみにその後の全日本ジュニアユース編では、西ドイツのシュナイダーくんのいるチーム(ハンブルグ)に全日本は大敗。この試合は翼くんは出場していませんでしたが、シュナイダーくんがラスボスになることを強烈に印象付ける展開だったわけです。

 話は少し逸れましたけど、最初に強い相手に負けることで、読者に対してライバル(ラスボス)を印象付けておき、クライマックスでリベンジするというのは、少年漫画の王道なわけです。

 そしてスラムダンクです。
湘北高校のライバルと言えば、やはり陵南高校です。なお井上先生は、このインターハイ出場をかけた最終戦は、湘北が勝つのか、陵南が勝つのかは決めずに描いていたそうです。というよりも、これまでの強豪相手であらかじめ勝敗(湘北が勝つこと)を決めて描いた試合は、翔陽戦と豊玉戦だけだったそうです(なので、どちらもコンパクトにまとまって描けた)。

■海南戦とは違った「来週に続く」の描き方

 この13巻からは湘北の抱えるいくつかの不安要素が顕在化し始めて、優位な立場から崖っぷちまで追いこまれてしまいます。さらに三井寿が軽い脱水症状を起こし、木暮公延との交代を余儀なくされています。大ピンチに追い詰められる湘北。

 リアルタイムで少年ジャンプを読んでいた感想を思い出すと、花道が1年生のときは全国に行けず、2年生の時にリベンジするのではないか?と予想しながら、僕自身は読んでいました。

 それだけに木暮くんが勝敗を決定づける3ポイントシュートを決めたページで終わった週のジャンプを読んだときは「・・・えっ?」と驚いた記憶があります。

 だって、海南戦では三井寿が逆転の3ポイントシュートを放った後、彼がガッツポーズをしながらボールが吸い込まれていく場面で「来週に続く」だったんです。つまり、入るか入らないかがわからないまま一週間待たされていたんです。

 しかし、この陵南戦は木暮くんの3ポイントシュートが入った場面まで描いていたんです。単行本だと気付きにくいかもしれませんが、これだけ重要な試合で「シュートが決まって次の週に続く」、しかも「主人公ではない。それも脇役中の脇役が仕事をした」という結果を見せて「来週に続く」というのは驚きでした。

■まるでバスケットボールの神様によるご褒美のように。

 翌週の少年ジャンプでは、木暮くんの回想シーンから始まっています。

 タイトルは「メガネ君」。バスケットを始めたきっかけ、中学でのゴリとの出会い。そしてかつての三井寿も含めて、辞めていった仲間たち、新入生たちとのエピソード。

 最後のインター予選。試合に出ている主力は、キャプテンのゴリを除くと、長期ブランクから復帰した三井寿と宮城リョータ、そして1年生の流川楓と桜木花道です。木暮自身、三年間チームを支えてきた立役者であり、ゴリに負けないくらいの熱い思いがあるはずで、スタメンを奪われることに思うところもあったでしょう。でも彼は絶対に腐らなかった。チームのために、最後まで献身的に尽くし続けました。

 すると、そんな木暮に、最後の最後で幸運が巡ってきた。まるで、バスケットボールの神様からのご褒美のように。

 漫画というのは主人公を頂点にしたヒエラルキーがあり、最後に活躍するのは主人公と相場が決まっています・・・・なぜなら、それが主人公だからです・笑。ここで脇役中の脇役である木暮くんが大仕事をすることを予想していた読者は、おそらく当時いなかったのではないでしょうか。

■青田龍彦の優しい眼差しとその表情

勝負を決定づける3ポイントを決め、興奮する花道にどつかれ、赤木と力強くハイタッチする木暮の姿に、晴子は涙していました。でも、それ以上に僕が印象的だったのが、次のコマに描かれるジュードー男・青田龍彦の表情です。

 赤木のライバルである彼は、試合終盤に会場に駆けつけて激励していました。同級生である木暮のことも長く知っているのでしょう。セリフはなく、「・・・・」のみですが、僕はこのシーンが大好きです。

喜ぶ木暮を見つめる青田龍彦の優しい眼差しとその表情に、赤木に対する思いとは違う感慨が詰まっていたように感じるからです。

この試合のヒーローになったのは、スタメンの三井寿ではなく、三年間積み重ねてきたベンチの木暮公延でした。

 田岡監督は言います。

「あいつも3年間、頑張ってきた男なんだ。侮ってはいけなかった」

 試合後、選手層の薄いベンチ要員としての木暮公延と、素人の桜木花道を不安要素としていた自身の判断が敗因を招いたことを口にします。敗戦後、「敗因はこの私!!」と自分にベクトルを向けられる田岡監督もまた素晴らしいと思います。こうして湘北がインターハイの切符を手に入れました。

■幻の4コマ漫画?

最後に余談。
リアルタイムでジャンプを読んでいた記憶としては、陵南戦は長かったですねぇ。この新装版で3冊分ですが、ジャンプコミックスだと17巻の終わりから21巻なので、約5冊分ありました。ジャンプでの連載期間で言えば、1年ぐらい陵南戦だけをやっていた計算になります。

スラムダンク好きとして、昔の少年ジャンプを集めるのが好きなのですが(スラムダンクが巻頭カラーの号だけね)、緊迫した試合が続いただけに、たまに雑誌の企画でギャグ漫画があったりすると、ほっこりしましたね。

これは94年の新年号の少年ジャンプです(陵南戦の途中です)。

(昔のジャンプの新年号は、表紙に作者の写真が載ってた)

・・・単行本にも未収録、幻の4コマ漫画ですね。井上先生、こういう時は桜木軍団を出しますよね・笑。

では今回はこのへんで。
映画版のレビューも書いているので、そちらも読んでね。


新装版のバックナンバーはこちらです。






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