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「噛み合わなさ」を象徴した終盤の光景。そして試合後のミックスゾーンで感じたこと。(ルヴァンカップ決勝・セレッソ大阪戦:0-2)

JリーグYBCルヴァンカップ決勝・セレッソ大阪戦は0-2で敗戦。

 素晴らしい晴天に恵まれた決勝戦でした。そして最後までフェアなゲームだったと思います。

 試合前。
アップで行っているボール回しのときに、何人かの選手のボールフィーリングがいつになく悪そうでした。ファイナルという舞台から来る緊張なのか、それとも埼スタのピッチとの相性も影響しているのか。それはよくわかりませんが、この試合に関しては、立ち上がりの時間帯・・・序盤の15分ぐらいは慎重に試合を進めるべきだな、なんてことをぼんやりと思っていました。

 独特の緊張感が漂う中、フロンターレのボールで始まったキックオフ。
センターサークルにいた小林悠が下げたボールを受けたのは、エドゥアルド・ネットでした。彼はさらに後ろに下げて最終ラインにボールを触らせて味方をゲームに入らせる・・・・のではなく、自らボールを前に運ぶという強気のドリブルを見せます。

思えば試合前日のミックスゾーンで、ネットはフロンターレの武器をこう話していました。

「それは技術だと思います。それをずっと見せてきたと思いますし、技術の高い選手がいる。攻撃で積極的に前に行く。そうやって勝ちを取りに行きたい」(エドゥアルド・ネット)

 彼は「攻撃で積極的に前に行く」という姿勢をファーストプレーで表現しようとしました。そのネットのドリブル突破に対して、杉本健勇がたまらず倒します。

 リスタートでは大島僚太と小さいパス交換をして、今度は後ろにいる右センターバックの谷口彰悟に下げ、右サイドを使って組み立てを展開していきます。普段通りの立ち上がりになるのかな・・・そう思った矢先のスローインでした。

 戦前、大島僚太が警戒していた試合のポイントに「スローイン」がありました。

「(セレッソは)セットプレーで得点が多いし、そういう情報は入っています。セットプレーは大きく試合のリズムや展開が変わる。取れるとすごく楽になるし、流れがこっちに来る。重要なプレーだと思います。お互いに硬くなる部分があると思うので、スローインを含めて集中しないといけないと思ってます」(大島僚太)

 セットプレーでのチャンスやピンチで集中するのは当たり前のことです。しかしチャンスやピンチと感じる流れがいったん止まり、どっちに転ぶかわからない流れの場面で、最大限の集中をできるかどうか。そして、そういうちょっとしたところにこだわれるかどうか。ビッグマッチでは、スローインであったり、セットプレーの後に訪れるセカンドチャンスで試合が動くことがよくあります。実際、去年のチャンピオンシップ準決勝や天皇杯決勝では、そこでスコアを動かされています。

 その最初のスローイン。
こぼれたボールがエドゥアルドの元に転がりますが、これがファーストタッチになる彼は、まさかの空振り。完全なフリーになっていた杉本健勇は、GKチョン・ソンリョンとの1対1を難なく決めます。フロンターレ時代の等々力で決めた、アルビレックス新潟戦での初ゴールのような形でした(なお、このときクリアミスした新潟DFは舞行龍ジェームズでした)。

 まさかの開始47秒で献上した先制点。
信じられないミスを犯してしまったエドゥアルドは頭を抱えます。そんな彼の元にチョン・ソンリョンが素早く駆け寄りました。失点後、再開するまでの間、今度は谷口彰悟がエドゥアルドにずっと声をかけていました。

「あいつのことは信頼しているし、数多くのピンチを救ってきた。でも、ああいうミスがこの舞台で出てしまう。あいつもそんなことは予想していなかっただろうし、仕方ないし切り替えてやるしかない。できるだけコミュニケーションを取りました。しばらくは少し上の空というか、集中しきれていない様子だったのは多少あったので、そこも声をかけて」(谷口彰悟)

 そんなエドゥアルドを励ますように、キックオフのボールが彼の元にまで下がられました。

「まだまだ時間もあるということで、あの時点でゲームを絶対に諦めてはいけないと思ったし、みんなも自分に声をかけてくれた。自分もあのシーンのあとは、とにかく前を向いて戦おうと思っていた」(エドゥアルド)

 開始1分にして狂ってしまったゲームプラン。しかし試合時間はまだ89分ありました。

 そんな残り89分のゲームレビューとなります。ラインナップはこちらです。

1.「もう少しエリアの中に入れればよかったが、相手はエリアの前でブロックを組んで阻止してきた」(エドゥアルド・ネット)。予想以上に窮屈だった中央エリアと、崩しのプレー選択に垣間見る決勝戦特有の難しさ。

2.「なかなかこっちにボールが入って来なくて、(ハーフタイムには)リョウタ(大島僚太)に『もっとボールを振って欲しい』と伝えました」(車屋紳太郎)。前半の右サイドは使えていたのか、それとも、使わされていたのか問題。そして左サイドにボールが配給されにくかった原因とは?

3. 「仕掛けていこうと思っていたし、左の時は良い仕掛けができていた」(長谷川竜也)、「最後のクロスのところも、もう少し、相手の足に当たって中まで送れなかった」(車屋紳太郎)。巻き返しのリズムを掴むも決定打を出せなかった後半の左サイド。そして堅いセレッソの巧妙だったカウンター設計。

4.「選手を見る眼」に自信を持つ指揮官を悩ませたベンチメンバーの選考。そして「ボタンのかけ違い」が起きた采配を検証する。

5.「クロスを上げるところまではいくけれど、上げさせられているというか・・・・相手の術中にはまっている感じはありました」(知念慶)、「正直、あと数センチのところ。合わなかった理由は・・・」(長谷川竜也)。チームの「噛み合わなさ」を象徴した終盤の光景。

6.「どれだけ(経験を)積めばいいのか。正直分からない」(中村憲剛)、「そこで上回らないと優勝できない」(谷口彰悟)。選手たちが語った完敗の要因と、試合後のミックスゾーンで感じたこと。

 以上、6つのポイントで冒頭の部分も含めて全部で約10000文字です。ミスには必ず理由があります。ただ「ミスをした」だけではなく、その背景まで掘り下げることで、サッカーがちょっと立体的に見えてくるかもしれません。負けた試合はいつだってつらいですし、決勝戦だったらなおのことです。そんな思いを噛み締めながら、書きました。よろしくどうぞ。

なお、プレビューはこちらです。→試合をディープに観戦するためのワンポイントプレビュー(ルヴァンカップ決勝・セレッソ大阪戦)

では、スタート!

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