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【嘘日記】サブリミナルラーメン

近所に寂れたラーメン屋がある。

何十年も経過している古ビルの一階にあって、汚れて、狭い店。
まぁよくある街の寂れたラーメン屋だ。

カウンター席が8席だけで、メニューは「ラーメン」「チャーハン」「餃子」のみ。あとはその3つを組み合わせた定食だ。

味も普通。まずくもなく、美味くもない。かといって何か特別な具材が入ってるわけでも、量が多いわけでも無い。あえて特徴を探すとしたら、ラーメンに浮かぶ「油」が他の店に比べて多いと感じるくらいだ。

とことん「よくある」を踏襲している店なのだが、どうしてか俺はその店に足繁く通っている

近所には他にもラーメン屋もあり、味も評価も店のホスピタリティもこの店よりも上な店はいくらでもある。

なのに、俺はここ最近この店にしかいかない。

毎回ラーメンを注文する。
毎回「あぁ、たいして上手くないなぁ」と思いながら食べる。
毎回「次は違う店に行こう」と食べ終わって思う。

なのに、気がつけばまた来店している。

食べ終えて帰宅して、毎度毎度不思議に思う。
どうしてまたあの店に行ってしまったのかと。


その秘密は、ラーメン屋の店長の逮捕とともに発覚した。


どうやら店長はラーメンの隠し味として、また来店したくなる暗示がかかるようにプログラムされた「網膜投影油脂」を使用していたらしい。

これを使用すると、ラーメンスープの表面に特殊な油脂が展開し、網膜を認識することで任意の映像を直接視神経に流し込むことが出来るらしく、現在では無許可での使用は禁止されているそうだ。

無許可で使用していた店長は逮捕され、数週間後には古びるごと店は消滅していた。

こうして対して特徴もないラーメンに恋い焦がれる秘密はわかったわけだが、その恋心だけは残り続けている。

あれ以来、どんなラーメンを食べてもあの味を思い出す。

なんの変哲もない、普通のラーメンを。

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