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【嘘日記】ワームホール寿司

最近巷で流行っているワームホール寿司の契約をしてみた。

仕組みは簡単で、小型ワームホールを使って寿司屋本店から握りたての寿司がレーンに乗って送られてくるというもの。

寿司屋からリースされる小型ワームホールのイン側とアウト側を内蔵した機器(見た目はダイソンの扇風機みたいな感じ)を設置し起動すると、そこに寿司レーンが現れる。

んで、スマホで欲しい寿司ネタを選んで支払うと(こちらも電子マネー支払いなので超楽)、その寿司ネタがワームホールを通って我が家のレーンに流れてくるのだ。

超便利。


今の御時世、外食も行きづらいからこのシステムは非常に助かる。
いやー、寿司って急に食べたくなるからね。

さてこのワームホール寿司だけど、実はネットではある「特殊な裏技」が流行っている。

それは「裏コードを入れると、別次元の寿司屋と繋がる」というもの。
つまり、パラレルワールドの世界の寿司が食べられるそうだ。

とうことで試してみた。

ワームホールが内蔵されている機器の裏蓋を外し、ネットの「ハウツー動画」を参考に次元の位置座標を操作。適当な数字(この数字が多次元の位置座標のアンカーの役目だそう)を打ち込む。

後は通常通り寿司ネタを購入。(不思議なことに、いまいる次元で購入すると接続した多次元での購入も完了する)

試しで注文したのは、一番好きな「甘海老」だ。

すると、ワームホールの向こう側からレーンに乗ってやってきたのは「伊勢海老」の軍艦。

なるほど。接続した多次元だと「甘海老」は「伊勢海老」と認識されているらしい。これはお得だ。だって甘海老の値段で伊勢海老が食べられるのだから。


おもしろい。


ネットにはすでにいくつかこういうお得な次元の座標をまとめたサイトもあり、今打ち込んだのもそのうちの一つだったわけだ。

さて、ここで僕は少し冒険することとなった。このままお得な次元から購入するのもいいが、せっかくなので無限に存在する別次元にランダムでアクセスしてみることにした。

一度目。適当に打ち込み、ワームホールが無事定着したのを確認すると、サイトから「ブリ」を選んで購入した。

すると流れてきたのは、なんと「ダイヤモンド」が乗せられた握り寿司だった。
いや、最早これはダイヤが乗った米の塊だ。

まさかブリの値段で、ダイヤモンドを手に入れてしまうとは…こればかりは少し罪悪感というか、悪いことをしている気分になってしまい、皿を取らずに見送ってしまった。(見送った寿司は廃棄扱いとなり処分される)


気を取り直して二度目。適当に座標を打ち込み、今度は「えんがわ」を注文購入。

流れてきたのは、「えんがわ」だった。
なにも変わらない、変哲もない「えんがわ」だ。

座標を間違えたのかと思い、気にせず手にとって食べてみた。

すると気を失うほど、美味い!なんだこの「えんがわ」は……!
「えんがわ」というよりも、肉汁したたる超高級牛肉をレアで焼いて頬張ったような、芳醇な味だ。美味すぎる……!


ここで僕は精神の均衡を失ってしまったのだと思う。
きっともっと、美味い寿司の次元があるはずだ!」と思い、気がつけばまた新しい座標を打ち込んでいた。


そうして、「大トロ」「うに」「いくら」と複数注文。もう僕の脳みそは「死ぬほど美味い寿司」を求めて狂っていた。


だが、おかしなことが起こる。


注文ボタンをタップすると、画面が乱れ、次いでワームホール内蔵機器から大きなエラー音のようなものが鳴り響いた。

その時だった。窓から見える部屋の外の景色が消えては現れ、次々と変化していく。
突然木々に覆われた世界が見えたと思えば、宇宙の真っ只中になり、海中になり、映画観るような近未来の都市が見えたり…

僕はパニックになった。
すると、流しっぱなしになっていたこの裏技の「ハウツー動画」の声が耳に届いた。

動画はちょうど最後の締めの部分のようで、注意事項を伝えていた。


連続で座標操作をすると、自分自身が別次元に移動してしまう恐れがあるので絶対にしないように」と。


嘘だろ!そういうのは最初に言ってくれよ!


そう心の中で怒鳴った時。エラー音が止まり、外の風景の変化も止まった。

恐る恐る窓から外を見ると、なんのことはない。いつもどおりの見慣れた風景であった。

驚かせやがって……

一息つくと、ワームホールが起動してレーンが動き出した。
きっと先程注文した三品が送られくるのだろう。

これからは動画はちゃんと最後まで見よう。
そんなことを思いながら、寿司を待った。



そうして流れてきた寿司を見て、僕は戦慄した。



シャリの上に乗っているのはどう見ても「人間の指」と「人間の唇」、そして「人間の鼻」だった。


僕が固まっていると、外から聞いたこともない恐ろしい鳴き声が聞こえた。

ゆっくりと立ち上がり、窓から外を見る。

すると、そこには人間ではない、奇妙な外見をした生物が、まるでこの世界の住人のように外を歩いていた。

そして僕は見た。

どの生物も、鎖でつないでいる人間を従えて歩いているのを……

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