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【嘘日記】マンホールおじさん

近所のスーパーへの道中には「マンホールおじさん」がいる。

なんの変哲もない一般的なマンホールの下に住む、初老のおじさんだ。
道を歩いていると、時たまマンホールを開けて顔だけ出し外を眺めていたり、道行く誰かと会話していたりしている。

僕はこの街に住んでもう10年ほどになるが、引っ越してきた頃にはすでに誰しもが知る街の風景の一つであった。

最初はマンホールから顔を覗かせる白髪の老人に恐怖心を抱いていたけど、ある時失くしたと思っていた財布をおじさんが見つけてくれてから、世間話程度はする仲となった。

「もうすぐ大雨がくるぞ」

おじさんは教えてくれる。おじさんもまた、下水路のネズミから天気を教えて貰っているそうだ。

「街の支配者は誰だと思う。人間なんかじゃない。彼らだよ」

そう言っておじさんはワンカップを嬉しそうに開けて口をつけた。

「どうしておじさんはマンホールの中に住んでるの?」

なんて僕は質問しない。

「どうしてあなたは地上に住んでいるの?」

なんて聞かないのと一緒だ。
僕はいつもおじさんの話を頷きながら聞くだけ。それでいい。

おじさんの教えてくれた通り大雨は3日続き、その後も2日ほどだらだらと雨は続き、ようやく太陽が現れた。


それ以来、おじさんの姿は見ていない。


きっと他の街へ引っ越したのだろう。そう僕は思うことにした。

マンホールの中はどこまでも続いている。
きっとまたいつか会えるだろう。

手渡す宛の無くなったワンカップを、僕は冷蔵庫に仕舞った。

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