局所麻酔を使用する人の必須知識。局所麻酔薬中毒を確認しよう!

皆さんは局所麻酔(以後、局麻)をする時は、局所麻酔薬中毒(以後、局麻中毒)に注意していますか?
外科系に限らず、多くの医師が局麻を使用していますよね。しかし、局麻の極量や局麻中毒の症状に関してあまり気にしていない人もいるのではないでしょうか。この記事では、局麻を使用する人には必須な局麻中毒に関する基本的な知識を学んでいきます。

局麻の血中濃度は、血管内注入や周囲から血管への移行により上昇

局麻中毒は、過量の局麻が周囲組織から血管へ吸収された場合や、誤って血管内投与した場合に、局麻の血中濃度が中毒域を超えることで発生します[1]。
通常は、局麻投与後に数分から30分程度かけて血中濃度が上昇するのにともない、段階的に症状が出現し始めますよね。ところが、血管内誤投与された場合は1分以内に重度の症状がおこることもあり注意が必要です[2]。

局麻中毒は中枢神経や心筋のNaチャネルが遮断されて起こる

局麻中毒の仕組みを確認する前に、神経伝達の機序も復習しておきましょう。まず、神経が興奮すると、細胞膜にある電位依存性NaチャネルからNaイオンが細胞内へと流入することで脱分極します。そして、脱分極が神経に沿って伝わることで、感覚や運動の指令が伝達される仕組みでしたね。
次に、局麻の作用機序をみてみましょう。局麻は先ほどの電位依存性Naチャネルを遮断することにより、脱分極を阻害して麻酔効果を発揮します。しかし、局麻の血中濃度が高くなりすぎると、本来は影響して欲しくない中枢神経や心筋のNaチャネルまで遮断してしまうため、局麻中毒が発症するという仕組みです[2]。

典型例は症状が緩徐に悪化するが、痙攣や心停止で気付くことも

原因とメカニズムを確認したところで、次は早期発見に重要な症状を確認しましょう。
局麻の血中濃度が上昇すると段階的に症状が出現し始めます。通常は中枢神経症状から始まり、遅れて心血管症状が発症しますが、これはNaチャネルの感受性の違いによるものです[2]。

図 局所麻酔薬中毒の症状 文献[2]から引用

  • 中枢神経系の症候

局麻の血中濃度が上昇するとまず、大脳皮質の抑制系ニューロンが抑制されます。初期症状は、舌や口唇のしびれ、多弁、めまい、痙攣などです。さらに血中濃度が上昇すると興奮系ニューロンも抑制され、意識消失、呼吸停止などが発症します[1]。

  •  心血管系の症候

交感神経の興奮により、高血圧や頻脈が初期の神経症状にともなって生じます。さらに血中濃度が高まると、一転して抑制徴候である低血圧や洞性徐脈、心静止などを認めます[1]。
ただし、神経症状や循環症状が緩徐に悪化するような典型的な経過をとらず、突然の痙攣や心停止で発見されることも。非典型的症例は、血管内誤投与や全身麻酔などで症状発見が遅れる場合も生じるため、常に患者に注意を払うことが大切です。また、非典型的症例は、心血管系や神経系疾患などの基礎疾患の存在も関連します[1]。

 表1 局麻中毒の診断   文献[1]より引用。

局所麻酔薬の極量は常に意識しよう 

局麻では、極量や基準最高容量という用語を耳にしませんか?極量とは、これ以上の使用は局麻中毒の危険性が高いという目安です。しかし、極量までなら使用可能という意味ではないため注意が必要です。また、患者の状態によっても中毒閾値は変化します。たとえば、小児や肝障害がある場合は代謝酵素活性が低下し局麻中毒が生じやすくなるため、極量未満でも起こり得ることは覚えておきましょう[1]。
ここで、よく使用するリドカイン(商品名:キシロカイン)の極量を確認しましょう。文献によって多少の幅がありますが、キシロカイン単独では4mg/kgです。一方で、アドレナリン(エピレナミン)含有時は、血管収縮作用により吸収が遅延するため、作用時間が延長して極量は7mg/kgに増えます。これらは何かと役立ちますのでぜひ覚えておきましょう[3]。

 表2 局所麻酔薬の極量    [3]より引用

局麻中毒は重篤な合併症となる場合もあり、できれば回避したいですよね。局麻中毒を予防するためのコツを以下に紹介するので、ぜひ実践してみてください[1]。
1. 局麻の投与量を減らす:30G以上の細い針を使用する。また、使用量が多くなりそうな場合は生食で希釈や全身麻酔などへ麻酔方法を変更する。
2. 少量分割投与:血管内誤投与した際に、一気に全量注入すると局麻中毒のリスクが上がるため、少量ずつ分割して投与をおこなう。
3. 吸引テストの実施:穿刺後に吸引して、逆血がないことを確認する。

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