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#8 「待ってるよ」が心の支えに

コロナは既存の店舗だけでなく、これから新たなスタートを切ろうとするお店にも影響を与えたようです。福井県池田町で、本と手づくりのお菓子やごはんを楽しめる『小豆書房』もその一つ。2020年4月オープンの予定が、5月11日に延期となりました(現在はテイクアウトのみ:2020年5月22日現在)。先日無事オープンし、早速賑いを見せていますが、店主の柴田智加さんはこの数ヶ月、どんな気持ちで過ごしていたのでしょうか。


雑談日 2020.5.13


―この数ヶ月、池田町はどんな様子でした?

池田町はご存知のとおり、山と田畑に囲まれたまちなので、福井の中心地に比べると、みんな危機感を持ち始めるのは遅いなと思っていました。

―のどかな場所だもんね。いつ来ても落ち着くなぁ

私はすごく心配性なので、3月には家に帰ると持ち物を全部消毒して、まずはお風呂に入る生活に変えてたんです。でも、外に出るとマスクをしない人も結構いましたね(笑)。

―自然に囲まれてるし、3密になりそうなところが少ないもんね。でも、2月から3月は県外からたくさん人が押し寄せたって聞いたよ

池田町なら大丈夫だと思って来るんでしょうね。でも、高齢化率は県内でも特に高いし大きな病院もないから、何かあった時に大変なことになると思うんです。それが怖くて閉めたお店も多いと聞きました。

―『小豆書房』も本来なら4月オープンのところ、5月11日に延期したんだよね

そうなんです。どこに向かって気持ちを持っていけばいいんだろう、って思いました。それまではオープンに向けて「やるぞ!」っていう気持ちでしたが、無理かもしれない……と不安が日に日に大きくなって。緊急事態宣言が出て諦めはつきましたが、気持ちの変化がしんどかったです。

―毎日のように状況が変わっていたしね……。オープンできて本当によかった。あらためておめでとうございます

ありがとうございます! 延期が決まってこのままどうなるんだろうと思っていましたが、「オープンが先に延びても待ってるからね」っていうお客さんの声が何よりも心の支えでしたね。

―その言葉はすごく安心できるよね

「こんな支援があるよ」って教えてくださる方もありがたかったのですが、事業者向けの持続化給付金って昨年度の売上が基準なので……。「申請完了しました!」っていう投稿がSNSに溢れた時はすごく落ち込みました。

―それはわかるなぁ。投稿した人も悪気はまったくないだろうから、なおさら辛い

そうなんです。誰も悪くなくて、悪いのはコロナなので。でも、どんな状況でも大事にするべきことは変わらないし、今できることをやらないと! と覚悟が決まったように思います。

―これまで池田町には本屋さんがなかったから、『小豆書房』ができて近くの人はすごく嬉しいだろうね

本屋もそうですが、池田町はどこにいても知り合いに会うので、外で一人になれる場所がないという声もあって。6月からは1組限定でお店を貸し切って過ごしていただける日もつくろうと考えています。「こんなのがあれば嬉しいな」って私自身が思うようなサービスを、ちょっとずつかたちにできればと。コロナが落ち着いて、お店の営業にも慣れてきたら週1日くらい夜の時間も開けたいですね。


―もうすっかり前を向いてる感じだね

やっぱりお店を開けると元気をもらえますね。テイクアウトの受け渡しだけでも、お客さんとお話しできるのは本当に嬉しいです。コロナでいろいろと右往左往はしましたが、オープン前にいろんなことを学べたのはすごく貴重な経験でした。始まったばかりですけど、本もお弁当もお菓子も、無理なくいいバランスを保っていきたいなと思っています。

(雑談終わり)


誰もが何かしらコロナに対して考え、悩んだ数ヶ月。それを乗り越え、気持ちに折り合いをつけた人は強いな、と柴田さんの晴れやかな顔を見てそう感じました。
『小豆書房』の窓から広がる農村の美しい景色に、すっかり魅了された私。大好きな池田町に、また一つ好きな場所が増えました。非常事態宣言が段階的に解除され、新しい日々が動き出そうとしていますが、これからきっとたくさんの人に愛される空間になっていくのだろうなと思います。


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