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何度目の「免許とりたい」か?

車を運転したいと思っている。

我が国では現在、自動車免許がないと原則車を運転することはできないので、車を運転するには免許をとる必要があるのだが、私は今完全に、人生での免許をとるべきタイミングを逃した気がしている。

最初に免許を意識したのは大学入学直前であった。高校を卒業したと同時に、免許合宿で車の免許をとる同級生の存在を知り驚愕したことがある。

私は大学受験は国公立の後期試験まで受けていたため、3月に入っても小論文対策で学校に行っていた。正直その段階で私立の合格は決まっていたのでぶっちゃけ早く解放してくれよと強く感じていたのだが、「なんのために東京の大学を受験させたと思っている」と母親に半泣きされたら被扶養者である私としては何も返す言葉がなかった。とはいえ両親はホテル代や交通費、受験料も私立の学費も何も言わずに出してくれて、1000円を稼ぐことの重みを知った今では感謝しかないのだが。

後期試験も無事終わり、4月からは東京での大学生活が決定した3月中旬の晴れた日だった。私は当時の担任に結果報告のため学校に行き、報告を済ませてから保健室に入り浸っていた。そこで当時よくしゃべっていた保健の先生(A先生とB先生のふたりいた)から聞いたのであった。

A先生「〇〇さん(私と同学年の生徒)は、春休み中に原付免許とったって言ってたよ」

衝撃だった。同い年で、数か月前まで同じように学校に通っていた同級生が、原付バイクの免許をとって公にバイク運転ができるようになってしまったのだ。いつの間にそんなことに……というのが正直な感想だった。私はびっくりして先生に聞いた。

私「えっ!?免許ってもうとれるんですか!?」
A先生「そりゃそうだよ。普通車でも18歳でとれるし、高校通ってても卒業後に免許合宿に行ってとる人はけっこういるんじゃない?」
B先生「地方の大学通ってたら、車ないと不便なこともあるしね~」
私「そうか……そうなんだ……そうか……」

ショックだった。私がせっせこ小論文を書いているうちに、みんながいつのまにか大人の階段昇ってるんだ……と愕然とした。車や原付バイクなんてのは大人が乗るもので、子どもが運転できる日はまだずっと先のような気がしていた。でもそうか、高校卒業したらもう大人の仲間入りなんだ……日常的に車を運転したり、原付で日本一周したりする大学生になってしまうんだ……と、もうしばらく会えない同級生たちに思いをはせた。


みんな大人になったんだね……


それから私は大学生になり、学生特有のアホほど長い「夏休み」や「春休み」を幾度も迎えたが、結局免許はとらずじまいだった。友達の運転する車に乗せてもらったり、「今度仮免試験なんだよ」とボヤくサークルの同期を幾度も目にしたりしたが、結局学生時代に免許はとらなかった。それ以降「免許のとりどき」みたいな機会は一切訪れず、今に至る。

大学を卒業したあとも東京に住んでいる身としては、たしかに交通の便という点では、免許は必要不可欠ではないなあと思う。ただいかんせん身分証明がめんどくさい。保険証だけであらゆる手続きをクリアできるようになってほしいと、ここ数年で358563762回は思った。「今ここにいる私は私なのに、いったい何の証明がいるんだ……」と、数々の窓口で嘆きながら健康保険証と年金手帳を提出している。

しかし、たとえ私がこの先マイナンバーカードなどを導入して身分証明が簡単になったとしても、変わらず免許はとりたいと思い続けるだろう。証明がどうとかではなく、私は車が運転したいのだから。

乗りたい車種も決まっている。スズキのラパンだ。なぜか「乗るならラパン」と2年くらい前から決めている。綺麗なら中古でも良いし、何よりラパンに乗れば窓から見える街並みが一気に「ここはパリ」と私に語りかけるであろう。

ベージュか空色のラパンに乗って、助手席には自分で作ったサンドイッチと紅茶を乗せ、どこか知らない野原、林や森の入り口までひたすらドライブする。誰にも邪魔されずカーラジオ、もしくはお気に入りのCD(くるりの『TOWER OF MUSIC LOVER』とか)を流し「安心な僕らは旅に出ようぜ~♪」とか大声で歌いたい。それで着いた先でひとり、紅茶を赤いチェック柄の水筒から熱々のままコップへそそぎ、持ってきたサンドイッチを食べるのだ。パスコ超熟(食パンやイングリッシュマフィンとか)のCMの小林聡美さんみたいに。

車種でいうと、ラパンの派生元・アルトも良いなと思う。ラパンとはまた違うかっこよさが残っていてすごく良い。アルトなら海までのして出たい。


時間、お金、そもそも教習所に通いやすい立地に住んでいるかなど、完全に人生における「免許のとりどき」を逃した感は否めない。最近ふと「今から車の免許をとるには」と真面目に考えてはみたが、個人的にクリアしなければならない問題が大きすぎてブエーーーーとなった。今日も空色のラパンに乗って海辺の道路をさっそうと走っていく夢を見ている。


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