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受験戦争2058


【問1】
次の()を埋めよ。

 30年以降、日本人口の爆発的増加が顕著となった。人口増加は資源枯渇など、様々な問題を引き起こす。そこで2046年、()法が制定され、翌年から全国の高等学校で施行された。以来、人口は適正水準を保ち続けている。

 2058年、夏。私は試験勉強に勤しんでいた。挑んでいるのは、去年の過去問である。大して個性のない私は、AOに挑むのを諦め、冬の筆記受験に賭けていた。

 同級生の多くも同様で、黙々と勉強している。今騒いでいるのは、筆記以外で挑む者か、受験を諦めた者のどちらかであろう。私の後ろの席からもお喋りが聞こえてくる。

「こないだの試験どうだった?」

「34点。赤点は避けた」

「ギリギリだね。アンタ、死ぬんじゃない?」

「なんでだよ」

「知らない? 夏目漱石。向上心のない奴はバカだから死ねって」

 中身のない会話だ。集中をかき乱され、受験に落ちれば私まで死んでしまう。私はイヤホンを取り出して、ノイズを遮った。



【問2】
 (A)と(B)に入る数の組み合わせから正しいものを選べ。

 人の能力差が出る時期は(A)歳頃とされる。この根拠を元に、高等教育適正試験法が制定された。同法による年間の調整人数は(B)万人に及び、これは年間の自然減少率を大きく上回る数字である。

 酷暑が終わり、秋めいてきた頃。最近はイヤホンをする必要がなくなった。同級生が減って、会話や雑音がなくなったからである。あの煩わしいお喋りもピタリと止んだ。私の後ろの席には、雑音の代わりに百合が飾られている。

 試験まで数ヵ月を切った。模試の点数は悪くない。あとは――

「ねえ、ちょっといいかな」

 不意に、肩をつつかれる。振り向いて、私は驚いた。

「ここ、教えてくれない?」

 逆向きに座る彼女の声は、夏のあの会話の声と同じだった。手に持つ過去問ドリルは、私のそれと同じものだ。麦野秦子。はじめての会話と共に、彼女の名前を私は知った。



【続く】


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